第3回
生産現場におけるRFIDシステムの投資対効果を考える
小野田 久視
日本オラクル株式会社
システム製品統括本部
アドバンストソリューション本部
RFIDビジネス推進部
担当マネジャー
2006年12月1日
リアルタイムな位置情報による在庫探しコストの低減
システム内の在庫と現物の管理は一致しているものも倉庫から出荷予定の在庫を探すのに非常に手間が掛かって、大きな倉庫やヤードを人やフォークリフトが走り回って探し回っているというような悩みを抱えた企業も多く存在します。
この場合、RFIDやバーコードとWiFi、GPSなどの位置情報のテクノロジーを組み合わせて、より厳密な在庫管理を行うという解決策が考えられます。これは、在庫が頻繁に動き回り、どこに置くかをあらかじめ決められないようなケースで活用されることがほとんどです。自動車の完成車両や半完成車両などが典型的な例となります。
完成した車両は、モータープールやヤードと呼ばれる駐車スペースに停められます。もちろん、一般的な駐車場と違って広大なので、出荷時に該当の車両を探すのは非常に骨の折れる作業になります。聞くところによると、30人掛かりで走り回って探していた自動車メーカーもあったそうです。
具体的な取り組みとしては、完成車両のフロントガラスに張り付けた出荷指示伝票やルームミラーにRFIDタグを付け、どこに置いたかをサーバに記録します。もちろん、WiFiやGPSのタグを付けておいて完全にリアルタイムで車両検索をするケースもあります。
探すときにはデータベース内を検索して、地図やリストの形式で表示して探しに行きます。PDAに同様の機能を持たせておいて歩きながら探すことも可能です。
時間の短縮とミスの削減、そして人件費の圧縮
上記のようなシステムを導入した結果、人件費の削減ができます。また、なんといっても大幅な時間の短縮が可能になり、ミスも大幅に削減することができます。例えば、人件費だけでも30人日かかっていたものを3分の1に削減し、年間で約4800人日のコスト圧縮に成功し、高いROIを出している事例も存在しています。
このようなシステムで効果を挙げられる可能性がある業界は、
- 自動車、重機などの比較的大型の完成品出荷管理を行う工場、物流拠点
- コンテナ、貨物などの定期的に移動することを前提としているモノの管理
- 出荷前の在庫を一時的に大量に保持する必要がある物流拠点
などが想定されます。比較的高価で大型の移動する在庫の管理分野で高い効果を出せるシステムとして導入が進んでいくことが見込まれます。
作業実績をRFIDで取得し、業務を改善する
多くの企業が生産ラインの工程管理でRFIDを活用されていますが、少し視点を変えたケースを紹介します。
工場の生産ラインでの生産性向上はすべての製造業において非常に重要なテーマです。もちろん製造ラインでは20年前からさまざまな形で非接触技術を活用して業務改善を行っているという話を聞きますが、その活用が加速しているのを感じています。
例えば、多くの企業で生産性のデータ取得のために次のような取り組みをしています。
- 工場の作業員の作業や工程の流れのサンプルデータをストップウオッチを使用して取得し、表に書き取り、その値を集計して生産性向上のための施策を検討する
- バーコードを活用して工程ごとの時間を取得し、それをデータベースに入れて集計し、活用する
しかし、工場の担当者から、これらの方法には問題が多いという声が聞かれます。
ストップウオッチを使ったサンプリング調査の場合、全数取得が難しいことに加え、計測期間が人事考課に影響する可能性を作業員自身感じるため、それを意識して普段よりも高いパフォーマンスが出てしまう可能性があります。また、全員分のデータを取得するためには非常に多くの人的コストが必要になりますし、数が多くなるとミスも当然増えてきます。
この方法はさまざまな作業シミュレータを活用したデータ検証にも用いられていますが、実際の正常稼働時のデータが取れないため、実際の本格稼働時の内容とはどうしてもズレが生じてしまうという現状があるそうです。
バーコードを利用したデータの取得では、データ取得のために作業者がバーコードリーダをかざす必要があり、作業の効率が落ちてしまったり、ミスを誘発したりする可能性があります。
そこで、ストップウオッチやバーコードの代わりにRFIDを活用した自動実績収集システムを構築される企業が増えてきています。工程の間にRFIDを活用した実績データ収集の仕組みを構築することによって、作業員が意識することなく(直接生産以外の作業を行わない)、作業を進めながら自動的に生産性データを取得し、その情報を全数データベースに保存することができます。
過去のデータも含めてビジネスインテリジェンスなどの分析ツールを活用することで工程内のボトルネックの早期発見や作業者ごとの生産性のブレなどを定量的に把握することができるようになります。また、それ以外のデータと連携することによって作業員、装置ごとの生産性や不良率も把握することができます。
すでに、国内企業でラインの生産性向上に役立てている事例がいくつも存在しています。ある企業では、実績値の分析から業務改善を行い、システム導入前から比べると10%を超える生産性向上に成功しました。このようなシステムは生産性管理、分析を必要とするほとんどすべての工場で効果を出せるでしょう。
◆ ◇ ◆
今回、実際に具体的なROIが出ている3つのケースを紹介しました。RFIDシステム導入に当たってROIをどう考えるかは非常に難しい問題です。
筆者の見解としては、RFIDを導入するだけで高いROIを出すことは難しく、ほかの業務システムとの連携や、生産ラインの工程管理を効率化するためのツールとしてRFIDを活用し、そのデータを生かすことによってROIを出していくことが大切だと考えます。
次回は、物流業務でのRFIDの活用とそのROIについて紹介します。
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Index | |
生産現場におけるRFIDシステムの投資対効果を考える | |
Page1 RFIDシステム導入の実際 販売計画系と生産計画系を連携してリードタイムを改善 既存資産を生かしたRFIDシステム構築 |
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Page2 リアルタイムな位置情報による在庫探しコストの低減 時間の短縮とミスの削減、そして人件費の圧縮 作業実績をRFIDで取得し、業務を改善する |
Profile |
小野田 久視(おのだ ひさし) 日本オラクル株式会社 システム製品統括本部 アドバンストソリューション本部 RFIDビジネス推進部 担当マネジャー 新規成長分野に対する市場立ち上げをミッションとし、2005年より製造業、物流業界を中心にRFIDを中心としたビジネスデベロップメントを担当。 RFIDシステムのエバンジャライズ、マーケティング、顧客企業の案件支援を中心に担当し、多くの企業のプロジェクトの立ち上げから設計、開発までを顧客企業と共に行い多くの事例創出に携わっている。 |
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