“場所”をIDで識別する「ユニバーサル社会」とは
岡田 大助
@IT編集部
2006年10月28日
生活密着型の情報インフラは完成に10年かかる
自律移動支援プロジェクト推進委員会の委員長を務める坂村健東京大学教授は、ユビキタス・ネットワーク技術による生活密着型の情報インフラの完成には10年という期間が必要だと語る。そして、インフラが本当に使えるものになるためには、いろいろなことが分かる実証実験が大事だと意気込みを語った。
坂村健東京大学教授 |
まず、ユニバーサルデザインについて「少子高齢化社会が到来するとはいえ、障害者や高齢者のため“だけ”に何かを作るのではコストが高くなる。同じ枠組みを使って、すべての人が利用できるものを作ることがユニバーサルデザインであり、自律移動支援プロジェクトも同じ枠組みで障害者支援と観光ガイドができるようになっている」と述べる。また、平成18年度に実施される8カ所の実証実験で使われるUC内の情報も同じフォーマット、ユーザーインターフェイスで提供されることになっていて、コストダウンと同時にユーザーを混乱させない仕組みになっているという。
次に、インターネットを使った検索とユビキタス・ネットワークによる“気づき”の違いを説明した。坂村氏は「何かを検索する場合、“きっかけ”が必要になる。例えば、目の前に五重塔がある。これは何だろう、と思ってもヒントがないと分からないことがある。一方、ユビキタス・ネットワーク環境ではucodeによって場所が自動的に分かる。つまり、その場所に“いる”ということが検索のきっかけになっている」という。
さらに、「奈良にやってきて、街中に歴史を感じさせる場所があるのに、それが何なのか、あるいは、それがどこにあるのかが分からないことを体感した。UCに情報がインプットされていれば、それまで路傍の石だったものが突然輝きだすことがあり得る」と自身の体験を語る。
そして、その情報コンテンツはユーザーと一緒になって作ることが大事だと続ける。奈良の実証実験では、住職や宮司などが動画で登場し、UCを持った観光客が名所に近づくと自動的に説明を語り始める。坂村氏は「まるでVIPになったような感じだ」と冗談めかしていうが、例えば、土地の古老などが口伝として語り継いでいる情報などもデジタル化することで立派なコンテンツになるというのだ。
今回の実証実験では、UCというTRONベースのハンドヘルド端末が使われている。これを多くの人が持っている携帯電話で実現することは不可能ではない。しかし、坂村氏は2つの点を挙げて反論する。
1つは通信料の問題だ。ホットスポットのようなアクセスポイントを設置し、携帯電話と通信させると、現在の料金体系では通信コストが発生する。同氏は、「一方的にユーザーにコストを負担させるようでは、誰も使わなくなるだろう」と予測する。
2つ目は、先に述べたように情報インフラは一朝一夕には完成しないということとリンクするのだが、「10年前に使われていた携帯電話をいまでも使っている人は限りなく少数であるように、今日使われている携帯電話と同様のものが10年後にも使われているだろうか」という分析だ。もちろん、UCが10年後も同じものであるはずもなく、その時代の技術に応じた端末を利用すべきだという考え方だ。10年後の携帯電話が端末として最適な要件を満たしているのであれば利用するだろう。
実際に実証実験に参加したモニターとしての感想を述べるとしたら、屋外で見るUCの液晶画面の暗さや、動作の“もっさり感”(タップした時に音が鳴らなかったため、画面が切り替わる前に何度もタップしてしまい、思い通りの画面が表示できずに少しストレスを感じた)など課題はあった。こういった声を吸い上げて、“使える”システムに改善していくための実証実験は、なるほど“大事”である。
UCによる観光ガイドだけでなく、同様の仕組みを利用してレンタルサイクルの在庫管理をする実験も行われている。奈良市では、過去に乗り捨て方式のレンタルサイクルサービスを検討したのだが、近鉄奈良駅への自転車の集中、一元的な管理ができない、自転車の回送に時間がかかる、搬送などに費用がかさむといった課題があり、休止中となっている。
そこで、自転車の貸出/返却時に、管理者が自転車に貼り付けられたICタグにUCをかざして貸出状況、在庫状況の管理を行おうというのだ。今回の実験では、2カ所のサイクルポート間での在庫管理だけだが、数年後にはもっと多くのサイクルポート間で情報を共有する形を想定している。将来的には、街中に設置されたアンテナと自転車のRFIDタグを通信させることで位置情報を収集し、より柔軟な管理を行うと同時に、自転車利用者に経路情報などを提供するイメージを描いている。
レンタルサイクルに貼付されたucodeタグ |
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