第4回 実例で見るシステムチューニングの実際


布施 圭介
ソーバル株式会社
ワイヤレス事業部
フィールドエンジニアリンググループ
ユビキタスプラットフォーム開発チーム
課長
2007年9月13日
RFIDシステムを導入したものの期待どおりのパフォーマンス向上につながらない。高度な無線通信技術のノウハウを持つエンジニアがチューニングポイントを伝授する(編集部)

 これまで3回にわたりRFIDを利用したシステムを構築するためのポイントを説明しました。今回は実例を挙げて、どのようにシステムをチューニングし、使いやすくしたのかを紹介します。

 貸出物品管理システムの要求仕様

 ここで取り上げる貸出物品管理システムは、多種多様な業務用機器の貸出を行っている顧客から「RFIDを使って貸出物品管理ができないか」と相談されたことがきっかけで開発したものです。

 システム化対象は物品ごとに貸出、返却、点検、修理などの履歴情報を管理する業務です。いままでは貸出品の物品番号を台帳管理していてデータベースなどは使っていませんでした。

●要求仕様

 システムを開発するに当たって要求されたポイントは以下の3点です。

1. 全情報を集約して管理できる

 管理者側から貸出履歴情報を一元的に集約して確認できることを要求されました。

2. 貸出履歴情報をスタンドアロンでも参照できる

 上記の要求と矛盾するようですが、いままで台帳ベースで管理してきたことから、データベースを参照せずとも使えるシステムにしてほしいとの要求です。出張貸出をすることもあり、その際には必然的にオフライン運用もあり得るのでスタンドアロンでも使えることが必要となりました。

3. 操作が簡単

 システムを実際に使う人はコンピュータやシステムに詳しい人ばかりではないので、直感的に分かりやすい操作性が必須となりました。

 もし、既存のシステムでデータベースが使われていた場合は、2の要求はなかったかもしれません。1と2の要求を同時に満たし得るソリューションとしてRFIDに期待されていたようです。「いままでできていたことができなくなるようなシステムは、現場に受け入れられない」ということをよく分かっているからこその要求と考えられます。

●概要設計

 各要求仕様を満たすための概要設計を行い、開発方針を決めました。

1. 情報を集約するサーバを用意する

 まだ概要設計ですので、どのようなデータベースにするかはさておき、なんらかのサーバが必要になるのは当然でしょう。この部分に関しては一般的なシステムと同様のものを想定しました。

2.RFIDタグに貸出履歴情報を書き込む

 ここがこのシステムの最大の特徴になります。RFIDの使われ方の多くはRFIDタグのIDを読み取るだけですが、このシステムではRFIDタグを貸出品に取り付け、貸出履歴情報をRFIDタグに書き込むことで、データベースにアクセスすることなく履歴情報を取得できるように設計しました。ただし、1の情報集約のための仕組みを別途考えなくてはなりません。

3. PDAでRFIDタグ読み書きを行う

 出張貸出のことも考慮に入れ、PDA+RFIDリーダ/ライタで読み書きできる仕組みを作ることにしました。もちろん据え置き型との併用も想定しますが、PDAならば出張時にも容易に対応できますので両者併用可能な設計としました。

 RFIDタグに関する課題の洗い出し

 情報集約サーバを立てる部分は一般のシステムとなんら違いはありませんので説明を省きます。

 まず、RFIDタグに情報を書き込む部分に着目しましょう。このようなRFIDの使い方を「データキャリー型」と呼びます。RFIDタグのIDだけを読み出して使うならば、性質的にはバーコードと大差ありませんが、データキャリー型の場合はさまざまな点を注意しなければなりません。

・キャリーできるデータ量

 RFIDタグのメモリ容量は数バイト〜数メガバイトと多種多様ですが、ハードディスクやUSBメモリなどと比べればはるかに容量が少ないのが現状です。よってデータベースの代わりとして無制限にデータを書き込むことはできません。

・アクセス時間/速度

 数バイト〜十数バイトのID読み出しではアクセス速度が数十ミリ秒程度でも十分なのですが、データの読み書きになると、データ量によりますが数百ミリ秒〜数秒かかってしまうこともあります。データ量から見れば仕方がない時間なのですが、あまりに遅いと使い勝手の面で問題となるでしょう。

 また、書き込みで時間がかかる場合は、その間リーダ/ライタとRFIDタグの通信を維持しなければなりませんので、エラーの発生率も増えるでしょう。

・セキュリティ対策

 RFIDタグ上に書き込んだデータは電波を使って読み書きを行います。このためRFIDタグが対応しているリーダ/ライタの読み取り範囲内にあれば、気が付かないうちにデータを読み取られる恐れがあります。

 情報セキュリティの観点からは、データが常に公開されているという前提で対策を取らなくてはなりません。不用意にデータを書き込むと情報漏えいや改ざん、偽造の危険性すらあります。

 PDAに関する課題の洗い出し

 次にPDAの採用についての課題を考えてみましょう。出張貸出時の持ち運びを想定してPDAを採用しましたが以下の課題があります。

・短い通信距離

 据え置き型のリーダ/ライタと異なり、出力が弱く、読み書き距離が短くなりがちですので、使い勝手が悪くならないかどうかの検討が必要です。

・限られたユーザーインターフェイス

 多くのPDAではキーボードではなくスタイラスペンによる操作になります。操作体系がPCとは異なり、文章入力には習熟が必要となります。また、画面が小さく、かつ解像度も低いので、それらを踏まえたユーザーインターフェイスデザインにしなければならないでしょう。なお、ショートカットボタンを活用できれば、より直感的な操作性を実現できそうです。

・履歴情報の同期方法

 PDAをスタンドアロンで使った場合には、RFIDタグの読み書き履歴つまり貸出履歴情報はPDAのメモリ上に蓄積されることになります。この情報をどのようにして情報集約サーバに集めるかの検討が必要です。

 
1/2

Index
実例で見るシステムチューニングの実際
Page1
貸出物品管理システムの要求仕様
RFIDタグに関する課題の洗い出し
PDAに関する課題の洗い出し
  Page2
どのような貸出物品管理システムになったのか
押さえておくべきRFIDシステムのチューニングポイント


RFIDシステムのチューニングポイント 連載インデックス


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