【特集】 電子政府の現状と今後
前編 電子政府は、どこまで進んだか?
ネットマークス
/電子申請推進コンソーシアム セキュリティ検討委員会
2002/4/10
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電子政府の言葉を耳にしてから、約1年の時がたったが、目に見えて大きな動きがないように感じている方も多いと思う。しかし電子政府、電子自治体は着実に進んでおり、いくつかの実証実験も行われ、2002年度以降もさまざまな実験および導入が行われる予定となっている。
今回の記事は、電子政府がどこまで進んだかを整理する。そして電子政府に関連する用語がさまざまな機会で使われるようになっており、その用語の意味を簡潔に解説する。
電子政府はどこまで進んだか? |
「特集 GPKIで実現する電子政府構想(GPKIとはなにか?)」というテーマで寄稿してからちょうど1年たつ。しかし私たちが実感する電子政府や電子自治体の効果はまだまだ少なく、どこまで進んでおり、今後何が変わっていくのか、これからどうしたらよいのかといった疑問を大枠の流れの中から紹介したいと思う。
●e-Japan戦略の始まり
e-Japan戦略は、 「特集
GPKIで実現する電子政府構想(GPKIとはなにか?)」でも触れているがここで少し整理するために2001年1月22日の第1回IT戦略本部で決定された事項をあらためて見てみよう。
- すべての国民がITのメリットを享受できる社会
- 経済構造改革の推進と産業の国際競争力の強化が実現された社会
- ゆとりと豊かさを実感できる国民生活と、個性豊かで活力に満ちた地域社会が実現された社会
- 地球規模での高度情報通信ネットワーク社会の実現に向けた国際貢献が行われる社会
であり、5年以内の世界最先端のIT国家実現に向けて計画が実行されている最中である。
2002年度、中央省庁はほぼ電子化に対する体制は整い、地方自治体の電子化に向けた施策や実証実験などが盛んに行われて、身近にその実現を感じるようになってくると思われる。
またブロードバンド回線普及による効果はすでにさまざまなところで語られているが、今回のe-Japan戦略の大きな目標の1つは行政を電子化することによりその波及効果として、
- 新たな雇用を生み出す
- 世界最先端のIT国家を目指す
- 官側の速度の遅さが、民間ビジネスの速度を足を引っ張らないよう、電子化によって世界競争に生き残る
●e-Japan2002プログラム
2002年度の電子政府にかかわるプログラムは、「e-Japan2002プログラム」として策定された。e-Japanプログラムは、 「特集
GPKIで実現する電子政府構想(GPKIとはなにか?)」の記事で紹介したように2005年がその実現の目標となっており2002年度はその実現に向けて表面上に現れて国民が実際に実証実験に参加したり、その効果を目の当たりにする機会が多く出てくると思われる。
その概要の中では、 2002年の位置付けとして、
- 2005年までの中間となる
- 日韓ワールドカップ開催年
となり、2002年度は、
- IT施策をいっそう積極的に推進する年
図1 e-Japanの大きな目標の1つは行政を電子化すること |
(1) 5つの基本方針
e-Japan2002プログラム基本方針は、下記のように5つに重点方針として示されている「IT施策の集中的・包括的実施」である。
以上のような方針で計画は進められる。この計画を進めて「社会経済構造改革断行」を行うというものである。
- 高速・超高速インターネットの普及の促進(競争政策)
- 教育の情報化・人材育成の強化=「IT人づくり計画」
- ネットワークコンテンツの充実
- 電子政府・電子自治体の着実な推進
- 国際的な取り組みの強化
(2) IT人づくり計画
プログラムの2つ目は、人づくりである。教育機関に高速なインターネットの普及をはかりそのうえでITの操作やコンテンツの作成などが行われる。
- 学校教育の情報化など
・高速・超高速の学校インターネット
・教育用コンテンツの充実
・教員のIT指導力の一層の向上- IT学習機会の提供
・国民の情報リテラシーの向上
・IT職業能力開発推進- 専門的な知識または技術を有する創造的な人材の育成
・高度なIT技術者の育成
・民間技術者と地方自治体職員などによる研究開発プロジェクトの推進
・優れたコンテンツクリエイターの育成
・e-ラーニング(遠隔教育)の普及促進
(3) e!プロジェクト
「2005年に実現される世界最先端のIT国家の姿を国民のみならず世界に提示するためのショーケースとして、e!プロジェクトを推進する」という目的のために2001年度の補正予算で関連事業が計画され現在実施されている。実証実験を主な目的としたe!プロジェクトの担当省庁は6省庁あり、それぞれ重点課題に基づいて進められている。
e!プロジェクトは「世界最先端 ITショーケース」であり
・自治体型ショーケース
(e-行政、e-医療・福祉、e-スクールなど)
・交通ターミナル型ショーケース
(e-エアポートなど)
・多機能都市街区型ショーケース
(e-オフィス、e-ファッション、e-ハウスなど)
というようなプロジェクトが計画されている。その中でも加速、前倒しを行うとされているものには、
・ワールドカップに対応するための情報化の推進
・公共分野における先進的な技術開発および実証実験などの実施
・国際空港/多機能都市街区/地方自治体などにおける、旅行/ビジネス/生活/教育/医療/福祉などの各分野に関するインターネット基盤技術の高度化など、最先端技術およびシステムの開発/実証実験などの実施
があり、ワールドカップ対応は目前に迫ってきておりターミナル駅など人が集まるところでこのプロジェクトの成果を見ることができるという。それから、現在話題になっている公共の場におけるホットスポットの一部もこのプロジェクトの一環として運用されるところがある。電子政府、電子自治体の導入部分として広く国民にそのプロジェクトを認識してもらうめのショーケースという意味合いが強いプロジェクトである。
図2 e!プロジェクトは“世界最先端ITショーケース” |
また、電子自治体は総務省が中心になって取り組んでいる。電子自治体に関しては平成14年度予算概算要求のIT革命の推進として、
- ネットワークインフラの整備 : 264億円
- 電子政府・電子自治体の実現 : 114億円
- デジタル・ディバイドの解消 : 37億円
- 人材育成 : 56億円
- 戦略的研究開発 : 80億円
が予定されている。
電子政府に関する言葉の整理 |
いわゆる電子政府という今回の政府主導で行われる一連の計画の中には似たような用語や聞き慣れない言葉がたくさん出てきて、なかなか全体像がつかみにくいと思われる方も多いだろう。ここでは簡単に用語とその実体の意味について解説する。
●e-Japan
今回の電子化の全体を表す構想の名称。「e-Japan戦略」および「e-Japan重点計画」ともいわれ、内閣にIT戦略会議を設けて検討/計画/遂行を行っている。2001年1月に「我が国が5年以内に世界最先端のIT国家になる」という目標を掲げ「e-Japan戦略」が決定された。
●霞ヶ関WAN
KWAN(ケーワン)とも呼ばれる。電子政府構想の中心的なネットワークのインフラで国の行政機関結び、中央省庁が集まる霞ヶ関を中心に張り巡らされたネットワークの総称。1997年1月に運用を開始しており現在は、電子政府の中心として電子メールや電子文書交換システムなどの省庁間のコミュニケーションに使用されている。ネットワーク的にはインターネットとは独立して構成されいる。
LGWAN(エルジーワン)とも呼ばれる。約3000強の全地方自治体間を結ぶネットワークインフラの総称。都道府県庁と市区町村が接続されている全国的な巨大なネットワーク。電子自治体のバックボーンに当たり、霞ヶ関WANとの相互接続、地方自治体間との情報の交換を行うことにより情報化の推進や各自治体の業務の改善を行う。
図3 全地方自治体を結ぶ巨大ネットワークインフラLGWAN |
●電子政府
電子政府とは中央省庁の業務の電子化のことをさす。ミレニアムプロジェクトとして1999年に基本的枠組みが策定され、2003年度までには基盤の構築が完了することになっている。
その内容の一部は、
- 民間から政府、政府から民間への行政手続きをインターネットを利用しペーパーレスで行う
- 各省庁が自省庁認証局のシステムを構築(全政府的な認証基盤の確立)
- 全地方公共団体による個人認証システムと組織認証システムの構築および順次運用
- ウイルス対策、不正アクセス対策、暗号技術などのセキュリティ評価体系を構築
- 汎用的な情報通信システムを開発(ネットワークの高度化、操作性の向上など)
である。すでに、電子政府はその構築がほぼ終わりつつあり運用段階に入る。一時期「スーパー電子政府」といわれたこともある(電子政府の総合窓口)。
●電子自治体
それぞれの自治体の業務を電子化するといったもの。全国にモデルとして指定されている自治体に関しては電子投票、電子入札などが先行して行われている。2002年度は電子化に関しての実証実験が数多くの自治体で計画されている。
2005年度までには各種の申請や届出が電子化され、国民の広範にわたりそのサービスが受けられるように計画および構築が現在進んでいる。2002年度は実現のためにさまざまな施策が予定されており、身近なところで電子自治体を体験できる場面がでてくると思われる。
●電子申請
電子政府、電子自治体が語られる場合、住民である私たちが一番身近に感じ、その恩恵を受けやすい部分である。自治体の電子化の中で、電子申請は住民や関係する業者などとの窓口となるサービスの1つである。私たち住民はほとんどの場合、電子申請を通じて自治体の電子化を実感できるようになる。
例えば、各種申請がインターネット上で24時間受付が可能になったり、その申請の進行状況についてもインターネット上で確認が可能になる。一般的に政府/自治体の電子化=電子申請という誤解があるが、電子化全体における電子申請はその一部である。
また、電子申請の実現するに向けて、関連技術の標準化の推進などを行っている電子申請推進コンソーシアムがある。
●住民基本台帳ネットワーク
通称「住基ネット(じゅうきねっと)」と呼ばれる。今回の行政の電子化に当たり、住民基本台帳法の一部を改正して住民基本台帳を電子化し、中央省庁や全国の自治体から利用できるネットワーク。例えば従来の申請では住民票を添付するなどの手続きが必要であったが、住基ネットの運用により手続きを簡素化し、受け付ける自治体は申請時にこのネットワークを参照することで住民票の添付を廃止するという検討がされている。また、この住基ネットの情報を基に住民基本台帳カードといわれるICカードが発行される(JPKIと関連する)。
ほかにも居住地の移動などの手続きも簡素化されるなど、メリットが多くなるように検討されている。このネットワークは2002年5月稼働が予定されている(住民基本台帳ネットワークシステム)。
●GPKI
前回の「特集 GPKIで実現する電子政府構想(GPKIとはなにか?)」の記事で紹介した内容のとおり、総務省が運営するPKIによる認証基盤。日本の認証基盤の基となるルート認証局(ルートCA)と、ほかの認証局と相互認証を行うための認証局のブリッジ認証局(ブリッジCA)からなる。現在稼動中である。
●LGPKI
地方自治体の職責証明書を発行する認証局。GPKIの中央省庁の証明書に対応する地方自治体の職責証明書である。地方自治体は市区町村レベルまで含まれるのですべての市区町村に認証局を立てて行う方がよいのか、ある程度まとまった市区町村で認証局を立てる方がよいのかを現在検討中。
●JPKI
自治体が住民に対し電子証明書を発行するときの認証局。個人レベルではこの認証基盤から発行される電子証明書を持つこととなる。取得する手順としては、
- 電子証明書の発行を依頼。
- 依頼された自治体は住基ネットを検索。
- 住基ネットで登録されていれば住民の情報を基にして住民に電子証明書をICカードに格納して発行。
●特定認証業務認定認証機関
「電子署名および認証業務に関する法律に係る認定認証業務を行う機関」は2001年7月に日本認証サービスがその認定を最初に取得して5社6サービスとなっている(2002年4月9日現在)。
特定認証業務は、政府のGPKIに接続されているブリッジ認証局と相互認証された認証機関により行われる。その認証機関から発行された証明書は、そのルートがGPKIの認証局ということになり、出所のはっきりした証明書であると保証されたことになる(日本認証サービスは2002年3月1日にブリッジ認証局と相互認証された。電子署名および認証業務に関する法律による認定認証業務一覧)。特定認証業務を行う場合には経済産業省に届け出、審査を受けた後、業務が行える。
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特定認証業務認定認証機関 |
これからは自治体の整備 |
電子政府という意味では、すでに中央省庁に関しては計画が出来上がっており、現在はその計画に基き構築を遂行するという段階にある。従って、中央省庁においては、これから新しい要素や仕掛けなどが大掛かりに行われることはないといわれている。
地方自治体は国家レベルの計画に従い、2005年度には少なくとも電子的な申請に関しては実現することになっている。しかし実際は、まだまだ具体的な方式や実験などを行っている自治体は少なく、思うように進んでいないというのが現状と筆者は聞いている。
従って、地方自治体に関してはこれから検討や実証実験が行われるようになっていくと考えられる。
◇
次回は、ビジネスチャンスとしての電子政府のとらえ方としての電子政府に関する解説をする。
「特集 電子政府の現状と今後」 |
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