検疫ネットワークの未来
なぜ検疫ネットワークが普及しないのか
鈴木成明チェック・ポイント・ソフトウェア・テクノロジーズ株式会社
セキュリティ技術部
エンドポイント・セキュリティ・スペシャリスト
2005/7/14
なぜ検疫ネットワークが普及しないのか |
検疫ネットワークはその注目度の高さに比べ、実際の導入がそれほど進んでいないのが現状ではないでしょうか。
1つには前ページで説明したように、検疫ネットワークに決まった方式がなく、ネットワークの構成やセキュリティポリシーの考え方、導入後の運用方法などを考慮しながら製品を選択する必要があるためです。
特に認証スイッチ方式は、既存ネットワーク機器が認証機能に対応していない場合、機器のリプレースまたはバージョンアップが発生するため、費用的な面も含めてネットワークの再構築や事務所移転などがない限り実施するのが難しいのが現状です。
2つ目に、検疫ネットワークが登場した当時と比べて、検疫ネットワークを取り巻く環境が変化してきていることも要因であると考えられます。
検疫ネットワークが登場した当時では、OSやアプリケーションの脆弱性が発見されてからそれを攻撃するウイルスやワームなどの脅威が出現するまでにはしばらくの時間があったため、OSのパッチやウイルス定義ファイルのアップデートが行われていれば適切に対応ができました。例えば、大きな被害を出したBlasterの場合でも脆弱性が発見されてからワームが出現するまでに約1カ月かかっており、検疫ネットワークが導入されていれば大規模な感染は防止できたはずです。
しかしながら、現在ではその状況は変わっており、脆弱性が発見されたその日にそれを攻撃する脅威、いわゆるゼロデイ攻撃が現実のものとなっています。OSのパッチやウイルス定義ファイルがリリースされても、すぐにワームの亜種が生み出されるために、“最新”といわれるパッチやウイルス定義ファイルを適用していても感染する可能性があります。
特にクライアントPCに専用ソフトを導入しないタイプの検疫ネットワーク、いわゆるクライアントレスでチェックを行っているシステムの場合、クライアントPCにパーソナルファイアウォールなどを導入しクライアントPC自身でのセキュリティ対策を施しておかないと感染する恐れがあります。
このように検疫ネットワークだけでは未知の脅威に対応できない場合があるため、別途アノーマリ検出機能を持ったIPSなどの導入も併せて検討する必要が出てきます。
最新のパッチやウイルス定義ファイルを適用したくても、社内で利用されているアプリケーションとの動作確認が取れないためにそれらを適用できない、といったような運用にかかわる問題もあります。このような場合、ポリシーサーバで最新のパッチやウイルス定義ファイルのチェックを行っていると、それらが適用されていないクライアントPCは隔離されてしまいます。
このため、ポリシーサーバの定義の更新を遅らせたり、特定のクライアントPCに対して例外的にセキュリティ対策状況のチェックを実行しないという運用を強いられ、管理者の負担が大きいものになってしまうということも挙げられます。
検疫ネットワークを含むセキュリティ製品の場合、導入したらそれでおしまいとはいかず、絶えずセキュリティマネジメントサイクルのPlan、Do、Check、Action(PDCAサイクル)に沿った見直しが必要になります。
マネージドサービスという選択肢 |
検疫ネットワークを導入したいと思っていても、上記の理由から導入を見合わせているような場合、ISPやキャリアが提供を始めた検疫サービスを利用するのも1つの手段です。現在はゲートウェイ方式やクライアントファイアウォール方式での提供が中心のようです。
このようなマネージドサービスを利用する場合、検疫ネットワークを導入する側には追加機器やソフトウェアの購入といった新規の設備投資が必要なく、クライアントPCの数に応じた月々の使用料だけで済みます。また、日々の運用に関しても、パッチやウイルス定義ファイル情報といったポリシーサーバの定義の更新などもサービス提供者が行うので運用にかかる負担を軽減できます。
まずは、このようなサービスを利用して検疫ネットワークを導入して効果を検証しつつ、今後の検疫ネットワークの標準化などの動きを見ながら自分たちで製品選定を行い、検疫ネットワークを展開するのもよい方法だと思います。
2/3 |
Index | |
なぜ検疫ネットワークが普及しないのか | |
Page1 4種類の検疫ネットワーク -DHCP方式 -認証スイッチ方式 -クライアント(パーソナル)ファイアウォール方式 -ゲートウェイ方式 |
|
Page2 なぜ検疫ネットワークが普及しないのか マネージドサービスという選択肢 |
|
Page3 検疫ネットワークの今後―TNCとSDN |
関連リンク | |
持ち込みPCをLANに安全につなぐ検疫とは? | |
2つの事例から考える検疫の効果と課題 | |
脅威に対して自動的に防衛するネットワーク |
Security&Trust記事一覧 |
- Windows起動前後にデバイスを守る工夫、ルートキットを防ぐ (2017/7/24)
Windows 10が備える多彩なセキュリティ対策機能を丸ごと理解するには、5つのスタックに分けて順に押さえていくことが早道だ。連載第1回は、Windows起動前の「デバイスの保護」とHyper-Vを用いたセキュリティ構成について紹介する。 - WannaCryがホンダやマクドにも。中学3年生が作ったランサムウェアの正体も話題に (2017/7/11)
2017年6月のセキュリティクラスタでは、「WannaCry」の残り火にやられたホンダや亜種に感染したマクドナルドに注目が集まった他、ランサムウェアを作成して配布した中学3年生、ランサムウェアに降伏してしまった韓国のホスティング企業など、5月に引き続きランサムウェアの話題が席巻していました。 - Recruit-CSIRTがマルウェアの「培養」用に内製した動的解析環境、その目的と工夫とは (2017/7/10)
代表的なマルウェア解析方法を紹介し、自社のみに影響があるマルウェアを「培養」するために構築した動的解析環境について解説する - 侵入されることを前提に考える――内部対策はログ管理から (2017/7/5)
人員リソースや予算の限られた中堅・中小企業にとって、大企業で導入されがちな、過剰に高機能で管理負荷の高いセキュリティ対策を施すのは現実的ではない。本連載では、中堅・中小企業が目指すべきセキュリティ対策の“現実解“を、特に標的型攻撃(APT:Advanced Persistent Threat)対策の観点から考える。
|
|