スマートデバイスの企業向けアプリ開発はどうなる
- - PR -
ジェナ 代表取締役/MIJS製品技術強化委員会 手塚 康夫氏と東洋ビジネスエンジニアリング クラウドソリューションコンサルティング部 ITアーキテクト/MIJS製品技術強化委員会 苅田 修司氏からは「エンタープライズにおけるスマートデバイスアプリ開発の未来」という講演があった。
手塚氏によると、企業におけるスマートデバイスアプリ開発は「プロモーション型」「サービス提供型」「エンタープライズ型」などの用途向けに分類できるという。
ジェナ 代表取締役/MIJS製品技術強化委員会 手塚 康夫氏 |
特に、最近は日本においてもエンタープライズでスマートデバイスの活用を模索する動きが活発化しており、スマートデバイスアプリは1つの新しい時代に入ろうとしている。「エンタープライズ型」スマートデバイスアプリの台頭だ。
エンタープライス系のアプリでは、派手な見た目が想定されがちだが、逆にかなりシンプルに作り込むこともある。「エンタープライズ用途では利用する方の100人が100人とも同じように利用できる必要がある」(手塚氏)からだ。このためシンプルに作り込むことになる、と氏は自身の経験を踏まえながら説明する。
顧客としてはスマートフォンを活用するという前提から、利用できる機能をできるだけ詰め込みたい欲求にかられるが、スマートデバイスアプリの開発では企画の段階でどれだけ「シンプル」にできるかが重要になってくると手塚氏は力説する。
また、例えばiPadならiPad、iPhoneならiPhoneといったそのデバイスに適切なUIを設計すること、さらにバージョンアップまで含めた運用を計画することが大切だという。
東洋ビジネスエンジニアリング クラウドソリューションコンサルティング部 ITアーキテクト/MIJS製品技術強化委員会 苅田 修司氏 |
苅田氏からは、実際にタブレットデバイスをターゲットとした業務アプリの開発を通じ、どういった要件が必要になり、そしてその要件を満たすためにはどういった技術が必要になるのかといった内容が紹介された。
苅田氏のケースでは、最終的にサーバクライアント技術の活用が要になることが明らかになったとしており、技術の取捨選択も重要になると指摘している。
例えば、プッシュメッセージ技術として苅田氏は電子メールとXMPPを採用し、SMSとSIPを見送った事例を紹介。それぞれ技術ごとに長所と短所があり、その中から要件にあった技術を選択することが大切だと説明があった。
取捨した技術を組み合わせ、見通しの良いミドルウェアレイヤを構築し、業務データをスマートデバイスからシームレスに活用できるようにした事例が紹介されていた。
■ 関連リンク
ガラケー⇒スマホアプリ開発における6つのポイント
野村総合研究所 ユビークリンク事業部 北村雄騎氏 |
携帯ナビゲーションサービス「全力案内!」を展開している野村総合研究所の北村雄騎氏からは、「比べてわかるフィーチャーフォンとスマホのアプリ開発・運用のポイント」という講演で、フィーチャーフォンとスマートフォンそれぞれに対するアプリ開発および運用についてのポイントが紹介された。
企画から運用まで、格段階でまず何を考え、どういう点に留意するべきなのか、そしてフィーチャーフォンとスマートフォンではどいうった点が違ってくるのか、全力案内!の経験を通じて同氏が得たノウハウの発表である。
■ 【1】企画のポイント
企画の際にまず考えるべきことは、「そのサービスによって、誰に、どうなってほしいのか」「なぜ、それが必要か」という点である。そのためには、自身がユーザーになり切ることや、ユーザーに一番近い立場の人の意見を聞くことが重要とのこと。
「全力案内!」の場合には、iPhone版を開発する際に、さまざまな機能のアイデアがあったが、実際の初期リリースでは5つのフィーチャーのみに絞って実装を行ったという。その中には、フィーチャーフォン版ですでに提供されていた「ナビ機能」も含まれていなかった。「全力案内!」のコンセプトを実現するために、最も重要な機能のみに絞って実装し、スモールスタートで磨き上げていったそうだ。
■ 【2】仕様・設計のポイント
仕様・設計の段階では、まず実機を買い、そしてそれを使い倒すことが何よりも先決である。そうすることで、その機種の特性や問題点、ユーザーの利用シーンなどが見えてくる。「特に、ユーザーの日常において、どこで使ってもらえるかを考えることは極めて重要だ」と北村氏はいう。この段階で、フィーチャーフォンとスマートフォンでは、さまざまな前提が異なってくるという。
- フィーチャーフォン
- 操作性の前提
- 物理キー中心の操作
- 片手で使える
- 見た目の前提
- 画面サイズがある程度限られている
- プラットフォームの前提
- SUID認証
- マイメニュー登録
- 操作性の前提
- スマートフォン
- 操作性の前提
- タッチ中心の操作
- 両手で使う場合もある
- 見た目の前提
- 画面サイズが多様
- Androidでは画面密度の違いもある
- プラットフォームの前提
- GPSやセンサ、Wi-Fiなどが使える
- APIによる課金
- アプリ間連携が可能
- マルチタスク
フィーチャーフォンからスマートフォンへの移行の場合、現実的にはUIやサービス仕様は再構築が必要で、特にスマートフォン特有の操作性を考慮することや、フィーチャーフォンの機能をどこまで実装するのかを明確にすることなどが重要とのことである。
■ 【3】開発・テストのポイント
開発・テストの段階では、特に1人当たり複数台の実機が必要となる。実機がなければ分からないことが、たくさんあるからだ。
そして、実機を使って開発するうえで大事なポイントは「節電」である、と北村氏は強調した。バッテリへの影響はアプリの評価に大きく影響する。特に「全力案内!」の場合は長時間続けて使われるケースもあるため、センサを繋いでの実測とバッテリ計測アプリを併用しながら開発を進めたという。
また、フィーチャーフォンとスマートフォンではライフサイクルが大きく異なるので、その違いにも注意する必要があるとのこと。
フィーチャーフォンのライフサイクル(北村氏の講演資料より) |
スマートフォンのライフサイクル(北村氏の講演資料より) |
テスト段階では、特にGPSや各種センサ、Bluetooth、SDカードなどといったデバイス固有の機能へアクセスする部分は入念にチェックする必要がある。可能であればターゲット機種ごとに確認するのが望ましいという。
また、課金系のAPIについては、通信キャリアによって課金遷移が異なるので、注意が必要とのことだ。
■ 【4】デプロイのポイント
デプロイの段階では、アプリのサイズに気を付ける必要がある。スマートフォンの場合、大容量アプリの配布も可能だが、ユーザーの通信環境や端末容量を考慮しなければならない。
SDカードによるインストールを許可しない場合には、端末の内蔵メモリを圧迫する可能性もあるので、最終的にアプリがどれだけのサイズになるのかをアナウンスする気遣いも必要とのことだ。
■ 【5】リリースのポイント
iPhoneの場合、App Storeでの配布には審査が必要で、場合によっては差し戻されることもあるので、それを前提としたスケジュールを組まなければならない。
その一方で、審査に入って以降は差し戻しや旧版へ戻すことはできないので、その点にも注意が必要となる。
■ 【6】運用のポイント
Webサービスの場合、「リリースすれば完成」というわけではない。安定した運用がサービスの評価を大きく左右する。スマートフォン特有の問題としては、マーケット側のスケジュールなどがアプリの販売などに大きく影響してくる点が挙げられた。
例えば、App Storeでは一斉に価格変更が行われたケースもある。そのような事態に対応するため、マーケットのアナウンスや開発者向けメールは注視しておかなければならない。その他、利用者統計情報などを参考にマーケットを動きを把握することも重要だと北村氏は指摘している。
■ 10年後、世界で通じるエンジニアであるために
最後に北村氏は、世界で通じるエンジニアになるために同氏自身が意識している2つのポイントを挙げた。1つは「使う人の近くでものを作ること」、もう1つは「時には、コードから離れること」である。技術だけでものを考えるのではなく、ユーザーの目線を持つことによって見えてくるものがある。それを大切にしていきたいとのことである。
■ 関連リンク
その他のスマホアプリ開発に関する講演資料のまとめ
最後に、上記セッション以外でのスマートフォンアプリ開発に関するセッションの資料をまとめておく。
■ iPhoneアプリ開発者座談会2012
■ 実践Android Developer Testing
■ Androidの最新技術動向
■ 3分ではじめるスマホアプリのビジュアル開発
■ デブサミオフィシャルコミュニティから選出のLT大会
■ Java/Android セキュアコーディング入門
■ 非ゲーム系ソフトウェア開発者のためのゲーム開発プロジェクト入門
■ @IT関連記事
2012年スマホアプリを作り始めるのに役立つ記事35選 スマホアプリの作り方【超まとめ】(基本編) iPhone、Android、Windows Phoneなど、さまざまなスマートフォンのプラットフォームのアプリを作るための@IT記事のまとめです 「Smart & Social」フォーラム 2011/12/26 |
Androidが業務システム開発者に大人気な理由とは @IT Smart&Social第1回読者調査結果 Android、iPhone/iPad、Windows Phoneなどスマートフォンで使うアプリ開発にかかわる読者向け調査の結果を発表します 「Smart & Social」フォーラム 2012/2/13 |
ここが大変だよiPhone開発 日本人のエンジニアがはまりやすい開発の落とし穴を紹介。そして、iPhone SDKを使ったiPhoneアプリの作成の仕方を一から説明していきます 「Smart & Social」フォーラム |
スマホ元年に賭けるAmebaソーシャルプラットフォーム 第2回@ITスマソ勉強会レポート 先日「Smart&Social」フォーラムが主催した勉強会でサイバーエージェントの長瀬氏が語ったソーシャルアプリ開発のポイントを紹介する 「Smart & Social」フォーラム 2011/7/22 |
開発者は覚えておきたいアプリストア/マーケット大全 安藤幸央のランダウン(55) iPhoneの大ヒットにより一般的になった、アプリの新しい流通形態の現状をお伝えする。今の“アプリ”には多種多様なサービスが必要だ 「Java Solution」フォーラム 2011/2/7 |
3つのスマホOSの2012年を占う カイ士伝のアプリライフ(8) Android、iPhone、Windows Phoneの3つのOSを、ソフトウェア、ハードウェア、コンテンツの面から見比べる。2012年の進化の方向性を占う |
Index | ||||||||
|
Smart&Social フォーラム トップページへ |
- 夏休みの自由研究にマイコンボードで「電子サイコロ」を作ったり、音楽プログラミングをしたりしてみよう (2017/7/24)
子ども向け電子工作&プログラミング用マイコンボード「chibi:bit」の基本的な使い方を紹介する企画。夏休みの自由研究に「電子サイコロ」を作ったり、音楽プログラミングをしたりしてみよう - 子ども向け電子工作&プログラミング用マイコンボード「chibi:bit」の基本的な使い方 (2017/7/20)
子ども向け電子工作&プログラミング用マイコンボード「chibi:bit」の基本的な使い方を紹介する。夏休みの子どもの自由研究などに役立てつつ、プログラミングを始めるきっかけにしてみてはいかがだろうか - 3DゲームのAIをiOSのSceneKitとGameplayKitで作る基本 (2017/7/10)
3Dゲーム用のフレームワークSceneKitを使った簡単なアプリ制作を通して、3Dゲーム用の人工知能(AI)について学ぶ - UnityアプリをWebGL、UWP、Android、iOS用としてビルドしてみた (2017/6/27)
アプリをWebで実行できるように書き出す方法やWindows上でUWP、Android、iOS用などにビルドする方法について解説する【Windows 10、Unity 5.6に対応】
|
|