Android、iPhone、Windows Phoneの3つのOSを、ソフトウェア、ハードウェア、コンテンツの面から見比べる。2012年の進化の方向性を占う
日本で初となるWindows Phoneが発売された2011年は、アップルもスマートフォンの最新OSとして「iOS 5」をリリースした。Androidも「Android 4.0」を発表した、スマートフォンOS競争においても記念すべき年でもある。今後もさらなる成長が期待されるスマートフォン業界において、それぞれのOSのコンセプトや特徴をOSごとに考えてみたい。
3つのスマートフォンOSの中のうち先行するiOSとAndroidだが、2つのOSが登場し始めたころこそ機能やコンセプトに違いがあったものの、幾度ものバージョンアップを重ねることで2つのOSは非常に近い存在になりつつある。
もともと一度に1つのアプリを起動するシングルタスクだったiOSは、iOS 4.0でマルチタスクに対応し、壁紙のカスタマイズやフォルダによるアプリ管理といった機能も取り込んだ。最新OSでもPCを使わない単独でのアップデート、通知センターなど、Androidが持っていた機能を新たに搭載している。
一方Androidもスマートフォンとタブレットで別だったOSを最新バージョン「Android 4.0(コードネーム:Ice Cream Sandwich)」で1つに統合。アプリのフォルダ管理はもともとAndroidが先行していた機能だったが、4.0ではアプリを重ね合わせることでフォルダを作成するという、iOSに近い操作方法を搭載しており、2つのOSは競争を重ねる中で互いの良さを取り入れつつ進化を遂げている。
機能面では非常に近づきつつあるiOSとAndroidだが、カスタマイズ性の高さではAndroidの方が上。ホーム画面を丸ごと入れ替えられるほど柔軟なカスタマイズが可能なほか、URLや画像といったコンテンツをアプリ間で連携するインテントはAndroidならではの拡張性の高さだ。
その一方、自由度が高いがゆえに操作が煩雑になり、使い方が分かりにくいという面もある。Androidはメーカーによって画面インターフェイスが異なることもあってか、Androidは使いにくい、分かりにくいという声も多い。その点でアプリの操作は基本的にホーム画面へ集約し、物理ボタンもホームボンのみというiOSはシンプルがゆえに操作も分かりやすい。多機能がゆえにできることが増え、その結果として操作が分かりにくくなるというのは、今後もさらに多機能化が進むスマートフォンにとって大きな課題の1つだろう。
iOS、Androidと比べるとWindows Phoneは機能の割り切りがさらに強い。独自のホーム画面であるタイルメニューはアプリがひたすら縦方向に並ぶ仕組みで、フォルダや複数画面で管理するようなことはない。機能面でもマルチタスクには対応せず、常に1つのアプリを1つだけ起動する仕組みになっている。そうした機能の割り切りにより操作メニューは非常に分かりやすく、Windows Phoneは分かりやすいという声も多い。
iOS、Androidと比較してWindows Phoneはソーシャルサービスへの対応が充実している点も特徴の1つだ。TwitterやFacebookといったソーシャルサービスを設定することで、各種ソーシャルサービスの新着情報を一覧で確認できたり、TwitterやFacebookの連絡先を電話帳へ登録するという機能も標準で備えている。
とはいえ、Windows Phoneのソーシャル対応は非常によくできているものの、この点もソフトウェアという意味では独自の差別化には難しそうだ。Androidの最新OS「Android 4.0」でも、「People」という、名称からしてWindows Phoneの「People Hub」に近いソーシャルアプリを標準搭載する予定になっている。
こうした事情を見ると、ソフトウェアの機能による差別化というのは、長い目で見ると大きなアドバンテージにはならなそうだ。もちろん特許などで自社技術は守ることはできても、コンセプトそのものを他のOSが踏襲することで機能はどんどん近づいていく。今後ますますバージョンアップを重ねていくスマートフォンOSが、どのように独自性を保持しながら機能を拡張していくのかは注目したいところだ。
ハードウェアの面で見ると、アップルのみが唯一のメーカーとして端末を開発するiOS、メーカーがそれぞれ独自に開発できるAndroidとWindows Phoneの2グループに分類できる。
世界各国で共通の仕様を採用するiOSでは、国ごとやユーザーごとの機能を盛り込むことは難しい。日本の携帯電話ではおサイフケータイや赤外線通信、ワンセグといった独自機能が主流になっているが、iOSではおサイフケータイこそ次世代の近距離通信であるNFCで対応する可能性はあっても、赤外線やワンセグが標準搭載されることはないだろう。女性向けのカラーバリエーションや小型な筐体を採用する、といった展開もiOSの端末には存在しない。
こうした世界標準の仕様とすることで、独自性こそ薄れるが、本体色も含めて部品がすべて共通化されることで調達費も含めた部材のコストを大きく抑えられる。それもすべては世界でこれだけの人気を集めるだけのスマートフォンであったこそではあるが、このメリットは非常に大きい。その点シェアとしては大きいAndroidも、各メーカーがそれぞれ端末を開発していることを考えると、コスト面では厳しい戦いになるという面もある。
各メーカーが独自に開発するAndroidとWindows Phoneも、細かな点では大きな違いが見られる。前述の通りカスタマイズ性の高いAndroidはホーム画面や電話帳アプリ、プリインストールアプリなどを自由に選択できる。一方でWindows Phoneのメーカーによるカスタマイズは本体のテーマカラーに1色を追加できる程度。おサイフケータイや赤外線通信といった日本独自の機能も搭載は可能とのことだが、こうしたハードウェアスペック以外での差別化はWindows Phoneでは難しい。
その半面、開発する部分が少ないという意味ではメーカーの負担も小さいというメリットもある。Androidではメーカーがそれぞれ独自のホーム画面やアプリの開発に注力しなければいけないが、Windows Phoneではそうした負担を抑えて端末開発に集中できる。このあたりも独自性を取るか、その独自性を引き出すだけの開発コストを掛けるかはどのOSを選ぶかによっても大きく違いがあるのだろう。
独自性という点でAndroidが最も特異であるのは端末の形態が「スマートフォンやタブレットに限られない」ことだろう。ソニーはミュージックプレーヤーであるウォークマンブランドの最新モデルとしてAndroidベースの端末を発表。AmazonもAndroidベースの電子書籍リーダー「Kindle fire」を発表した。こうした自由度の高さもAndroidならではの特徴の1つだ。
その点ではアップルのみが端末を開発するiOSはもちろん、Windows Phoneもこうした端末のOSとして用いられることはない。Windows PhoneにおいてはタブレットOSという方向性も現在のところはないとのことで、この点でもOSごとの違いが見えてくる。
スマートフォンOSとして最もコンテンツが充実しているのはやはり先行するiOS。有料・無料、iPad用含めて40万を超えるアプリを有するだけでなく音楽や動画コンテンツも充実。すでに150億以上のダウンロード数を達成している。特に楽曲を手軽に購入でき、PCとも共有できるiTunes Storeの存在は非常に大きい。
カスタマイズ性が高い一方でこうしたコンテンツ面で弱いのがAndroid。アプリの数は確実に増えているものの、ゲームなどのエンターテインメント系はiPhoneに比べると弱い。また、アプリを配信する「Android Market」もiTunes Storeに比べると分かりにくくアプリが探しにくいという面もある。
最大の課題はiOSにおけるiTunes Storeのような役割を果たす、Android用のコンテンツ配信サービスが存在しなかったことだが、この点についてはGoogleが海外で新たな音楽配信サービス「Google Music」を発表し、注目を集めている。日本での提供は未定だが今後の流れは期待したいところだ。また、マーケットについてもAndroid Marketだけでなく携帯電話キャリアやコンテンツメーカーが独自のマーケットを次々にリリースを始めており、こうしたキャリア主導、コンテンツ主導でのマーケット充実が今後は期待できそうだ。
後続ながらもこうしたコンテンツ環境が充実しているのがWindows Phone。専用ソフト「Zune Software」を組み合わせることでiTunesのようなコンテンツ管理が可能になり、CDの音楽を取り込んで簡単に転送できる。WindowsブランドながらもMac用ソフト「Windows Phone 7 Connector(for Mac)」も提供しており、Mac環境でも利用できるなど対応は幅広い。
有料コンテンツ配信の仕組みも搭載しており、音楽や動画コンテンツをZuneやWindows Phone経由で購入できる。日本ではまだ音楽配信が提供されていないが動画コンテンツは購入可能になっており、音楽配信自体も仕組み自体はすでに実現されているため、今後の端末数拡大によってはコンテンツの拡充も期待できるだろう。
他の2つのOSと最も異なる特徴は、ゲーム機「Xbox 360」と標準で連携していること。Xbox 360とゲームの実績を共有できるだけでなく、Xbox 360とWindows Phoneで同じゲームをプレイする、ということも仕様上は可能。ゲーム機との連携を視野におけるという点でWindows Phoneのコンテンツ分野での可能性は大きい。
課題を挙げるならばWindows Phoneがスマートフォン業界において「第3」のOSであるということ。Webサービスやコンテンツを提供する事業者にとっては、対応しなければいけない端末が1つ増えたということでもあり、iPhone向けアプリ、Android向けアプリに追加して今度はWindows Phoneアプリを開発する必要が出てくる。「対応しなければいけないスマートフォンが増えるのは大変」「これ以上OSが増えないでほしい」とネガティブな声もアプリ開発事業者から聞こえてくるということもあり、コンテンツ拡充にとって最も重要な開発者の力をどれだけ集められるかは大きな課題だ。
OSというソフトウェア、ハードウェア、そしてコンテンツの面から見ても、3つのOSは似ているところもあれどそれぞれが独自の魅力や特徴を持っている。ますます激化するであろうスマートフォン業界においてこの3OSがどのような進化を遂げていくかは注目すべきポイントだ。特に先行してシェアを二分する存在になりつつあるiOSとAndroidに対し、後続となるWindows Phoneがどのような展開で普及を狙うか、今後の展開に期待したい。
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