【4】ソーシャル“ゲーム”は日本のITを救うのか
モデレータを努めたgumi 代表取締役社長 國光宏尚氏 |
「ソーシャルゲームは日本に残された最後の希望。製造業ではもう世界と戦えない。資源も食料もない国で、誰かが外に出て外貨を稼がないと。いまは天の時、地の利、人の和がソーシャルゲームに降りてきている。日本が沈没する寸前に救いに出た宇宙戦艦ヤマトのような感覚でビジネスを展開しています」(國光氏)
セッションの最後、gumi 代表取締役社長 國光宏尚氏は自信をのぞかせていい切った。
成長産業であるソーシャルゲーム業界は、常に人手不足の状態にある。中でも優秀なエンジニアは各社間で激しい争奪バトルが繰り広げられ、「超」が付く高待遇で迎えられるケースも少なくない。そして各社ともにクラウドやNoSQL、HTML5、IPv6、ソーシャルメディア分析など、IT技術の最新トレンドに非常に敏感で、積極的な投資を惜しまない。
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コスト削減を叫びながら、いつまでもレガシーからの移行を果たせず、トップに高いITリテラシを持つ人材が少ない旧来の国内企業とは、まったくITへの取り組み方が違う。現在、IT技術者に魅力的な職場を提供できる数少ない業界、それがソーシャルゲーム業界といってもいいだろう。
「2012年国内市場規模3400億円へ! 急成長するソーシャルゲーム市場における勝ち組が語る未来」と題されたセッションでは、國光氏をモデレータに、gloops 代表取締役社長 梶原吉広氏、ドリコム 執行役員 長谷川敬起氏、KLab 取締役 KLabGames1部 部長 森田英克氏という、今をときめく「勝ち組」プレイヤーによるパネルディスカッションが行われた。「今の時代にあって僕らは完全に肉食系(笑)」(國光氏)とビジネスへの野心を隠すことないソーシャルゲームの雄たちは、何をもって優秀なIT技術者を引き付けようとしているのだろうか。
その前に、なぜ彼らは「勝ち組」と呼ばれるのか。わずか数年で急激に成長したソーシャルゲーム市場だが、現在はいわゆる“レッドオーシャン”な過当競争に突入している。「2011年は勝ち組と、それ以外の差がはっきり出た1年だった。特にわれわれのようなソーシャルアプリケーションプロバイダの間で差が広がった」と國光氏。
その原因は「カードゲームの隆盛をいち早く見抜き、そこに張れるだけ張ったソーシャルアプリケーションプロバイダが生き残れた。コンテンツだけで勝負するのは難しく、マーケティングの力が重要」と長谷川氏は指摘する。長谷川氏と同様、梶原氏もマーケティングの重要性を強調する一方で、新機能のアップデートやUIの変更を慎重にしたことが奏功したとする。
左からドリコム 執行役員 長谷川敬起氏、KLab 取締役 KLabGames1部 部長 森田英克氏、gloops 代表取締役社長 梶原吉広氏 |
「ユーザーは今まで見たことがないようなUIに対しては戸惑いを見せる。新作を出すときはユーザーにとって、なじみやすいUIをベースにし、例えば戦闘部分だけをリアルタイムで提供するなど、まったく新しいエクスペリエンスは一部だけに提供するようにした方が受けがいい」(梶原氏)
こうした視点からも分かるように、元からある機能をベースに、ユーザーの反応を探りながら新機能を追加していくという細かい改善を繰り返すスタイルを国内ベンダの多くが採用しているようだ。
森田氏は「そうはいっても、同じようなものばかり出しているとユーザーは飽きる。分岐点としては売り上げ1億円を超えるか超えないか。ここを超えるゲームは品質と運営のバランスがうまく取れている」と機能にうまくバリエーションを持たせる必要性を説く。
例えば、季節ごとの限定キャンペーンを行ったりIP(知的財産権)をかぶせて違ったものに見せるなど。斬新過ぎても、ありきたり過ぎてもユーザーはすぐに離れていく。ユーザーの心をつかむゲームに育てるには、技術力とともにバランス感覚が必要となる。
現在の国内ソーシャルゲームの勢力図。GREEとMobageという2大プラットフォーマーの下に各ソーシャルアプリケーションプロバイダがゲームを提供している(講演資料より) |
2012年の市場動向については各社ともモバイル、特にスマホの比率が大幅に高くなると予想しており、モバイルプラットフォームへの対応を急ぎ進めている。「スマホ化が進むのは間違いないので、スマホに最適化されたUIをしっかり作り込むのが、ソーシャルゲームの最低条件になる」(梶原氏)
ここで興味深いのはモバイルと相性が良いとされているHTML5に対しての取り組み方に違いが見られることだ。「今後はHTML5が主流になる」と見ているのはgumiの國光氏だけ。海外進出の拡大を2012年の目標にしているKLabの森田氏は「カードバトルのRPGが主軸なので、Webブラウザ読み込みだと重くなってしまうため、ネイティブアプリでやっている。HTML5は海外市場では、まだ時期ではないという見方がほとんど。グローバルの流儀に従ってビジネスをするなら、HTML5ではなくネイティブを選ぶ」と語る。HTML5+スマホの組み合わせで重たいゲームを読み込むには、かなりのストレスが生じるという。ただし、「国内で流行しているカードバトル系はHTML5で十分」とも。
2012年、さらなる成長を見せようとするソーシャルゲーム業界は、常に人材が足りない。だが彼らは、もはや日本だけを視野に入れたビジネスは行っていない。優秀な技術者であれば日本人である必要はなく、実際、新卒採用では先に中国で面接を行うベンダもある。韓国やシンガポールはもちろん、「ベトナムやフィリピンでの人材採用も進んでいる。レジェンドカードはベトナムで運用している」(梶原氏)とも。
高待遇で最先端のIT技術に接することができるという側面もあるので、IT技術者にとっては魅力的なソーシャルゲーム業界だが、今後は海外の技術者と同じ土俵で戦うことを求められる。技術力だけではなく、英語力やコミュニケーションスキルも重要になる。
「ソーシャルゲームで世界一といわれるZyngaは、まだモバイルにはほとんど手を出していないので、十二分に戦う余地がある。日本一の称号を手にしたら、次は世界一を狙い、Zyngaを叩きつぶす。これは、もう夢物語じゃない」と断言する國光氏。上昇志向の強いソーシャルゲーム業界で働くなら、IT技術者にも同じような強いマインドが求められるのかもしれない。
【5】本当にコワイ“炎上”、その火消し対策は
イー・ガーディアン 経営企画室長 鎌田誠氏 |
「ソーシャルメディアに炎上は付きもの」とよくいわれるが、実際に炎上の当事者になってしまった場合、その影響はオンラインだけにとどまらず実生活にも及んでくることが多い。個人であればプライバシーの暴露や退職、企業であれば信用失墜や売り上げ減、Webサイトの一時停止など、被害も甚大である。
ソーシャルメディアの負の側面ともいえる「炎上」から身を守るには、どんな対策を講じればよいのか、イー・ガーディアン 経営企画室長 鎌田誠氏の講演「ソーシャルメディアにおけるリスクとその対策」から、その糸口を探ってみたい。
ソーシャルメディアの炎上対策を知る前に、まずは実際に起こった炎上からメカニズムを理解すべきだと鎌田氏。また、企業と個人では炎上のメカニズムもその対策も若干異なってくるという。
企業の場合では、例えば以下の事件が参考になる。
- ネスレのFacebook炎上
キャンペーンを大きくしたかったがために、botを使ってTwitterで配信、フォローしていないユーザーにも配信された - スターバックスのFlickr炎上
「店の写真をアップして」と一般に呼びかけておきながら、店舗側に伝わっておらず、多くの客が店舗から撮影行為を注意されて大激怒 - TSUTAYA店長のTwitter炎上
「3.11以降、地震のニュースばかりでつまらないですね、映画でも借りに来てください」というツイートが反社会的発言とされた
いずれも担当者には悪意がなかったことは理解できるが、ソーシャルメディアの拡散力を甘く見ていた面があったのは否定できないだろう。
「企業はソーシャルメディアの拡散力に期待してFacebookやTwitterに情報を流す。だが良い情報だけが拡散されると思うのは間違い。ちょっとした失言やマナー違反といったダメな情報も同様に拡散される。良いことも悪いことも広がっていく、それがソーシャルメディア」(鎌田氏)
ちなみに、スターバックスはWebサイト自体が閉鎖に追い込まれ、TSUTAYAはアカウントを削除した。企業としてソーシャルメディアに掛けてきた投資、それまで蓄積された有形無形の資産がすべて無効になり、ブランドイメージの失墜によるダメージは計り知れない。
企業の公式アカウントと個人アカウントで炎上しやすいのは、このパターン(鎌田氏の講演資料より) |
一方、個人の炎上は、ある意味企業よりも恐ろしい結末が待っていることが多い。
- アディダスの店員によるサッカー選手への中傷ツイート
- 東電社員による「騒ぐと電気を止めるぞ」といった脅しツイート
- 某ネットサービス企業の社員による中途採用面接のリアルタイム実況(Google+)
いずれも大きなニュースとなった炎上であり、彼らが退職やアカウント削除といった社会的制裁を受けたことも記憶に新しい。だが、企業に比べてフォロワーや読者が少ないはずの無名の一個人の発した短い情報が、なぜ大炎上するのだろうか。鎌田氏はその理由に「炎上仕掛人」の存在を挙げる。
Twitterは「バカ発見器」と呼ばれることもあるが、たしかに飲酒運転やカンニングなどの軽犯罪を自慢するかのようにツイートする個人は少なくない。ネット上には、こうしたツイートや書き込みをしている個人を定期的にチェックしているウオッチャー=炎上仕掛人が多数存在しており、犯罪自慢をしているような個人アカウントを発見すると、まずはじっくりと“泳がせる”という。
「Twitterを手掛かりにすれば、後は比較的簡単にFacebookやmixi、ブログまで見つかり、最終的には学校や職場、生年月日、自宅の住所、携帯の番号、幼稚園から大学までの活動など個人情報のほとんどを特定できる。情報をほぼ入手したら、Twitterで晒し上げが始まり、次第にネット上で騒ぎが大きくなる。この間、約1時間ほど。
だが、この時点では当の本人はまだ気付いておらず、どんどん情報が拡散する。そのうち、友人などから自分の情報がさらされていることに気づくと、慌てて当該ツイートやブログエントリを削除するが、そのときこそが炎上仕掛人たちが待っていた『電凸なう』の瞬間。所属する学校や職場の代表番号に一斉に電話をかけ、回線をパンクさせる。アカウントを削除し、ネットから姿を消しても『魚拓』をしっかり取られているので、一度流通したツイートや個人情報は半永久的にネット上に残ることになる」(鎌田氏)
個人で背負うには、あまりにも大きな代償である。では、ソーシャルメディアでの炎上を避けるには、どんなリスク対策を講じればいいのだろうか。また、不幸にして炎上してしまった場合、どんな火消し対策を打てばいいのか。鎌田氏は「企業アカウントを持つなら炎上に対しての“予防”と“処置”はあらかじめ決めておくべき」とリスク対策の基本を語る。
鎌田氏は、予防対策として以下を挙げている。
- ソーシャルメディアポリシー作成
- 利用規約作成
- 運営マニュアル作成
- 各ソーシャルメディアレギュレーションの理解
- 公式アカウント対応方針社内通知
ソーシャルメディアポリシーとは? (鎌田氏の講演資料より)ソーシャルメディアポリシーといっても難しいものではなく、「基本は人としてちゃんとしましょうということ」と鎌田氏 |
興味深いのは、「ソーシャルメディアレギュレーション」という言葉だ。簡単にいえば「場の雰囲気を壊さない」「空気を読む」という感じだろうか。前掲のネスレのケースではTwitterというユーザーのコミュニケーションの場を荒らしたことが強く批判された。これは、ネスレがTwitterのレギュレーション(決まり、ルール)を理解していなかったからにほかならない。鎌田氏は「レギュレーションはソーシャルメディアごとに微妙に異なる点に注意」と強調する。
炎上時の対策としては、事前に“リスクレベル定義”“緊急連絡網および対応方針整備”を決めておくことで、比較的早期の火消しを図ることが可能になるそうだ。
「社員が個人アカウントで書き込んでいる内容のチェックも有効だ。監視するというよりも、社員が不用意な発言をしてしまった場合、本人にそれを伝え、いち早く救える可能性が高くなる」(鎌田氏)
ソーシャルメディアアカウントから情報を発信する場合はフローを決めておくとよい(鎌田氏の講演資料より) |
ソーシャルメディアの普及に伴い、誰もが炎上のリスクを負うようになった現在、「ソーシャルにかかわらないという選択ももちろんある」と鎌田氏。だが「今の時代、企業・団体として情報を発信するなら、何らかのソーシャルメディアのアカウントは1つくらい、持っていた方がいい」とする。ソーシャルメディアのアカウントを持たないことで、JR東日本やNTTのようにニセアカウントを作られ、“なりすまし”の被害に遭うというリスクも新たに生じていることにも注意したい。
最後に参考文献として以下の3冊を挙げてくれた鎌田氏。ソーシャルメディアで得られるメリットは、これからますます大きくなる。「炎上が怖いから」とむやみやたらに恐れるのではなく、リスクをしっかり把握し、「用法・用量を守って適切に」使うすべを試行錯誤しながら獲得していく。おそらく、それが今の時代に合ったソーシャルメディアへの向き合い方なのだろう。
- 『ソーシャルメディア炎上事件簿』小林直樹 著(日経BP社)
- 『ソーシャルメディア進化論』武田隆 著(ダイヤモンド社)
- 『明日のコミュニケーション』佐藤尚之(アスキー・メディアワークス)
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Social Media Week Tokyoまとめレポート 嫌いな人も知らないと損する9つの「ソーシャル」のカタチ |
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Page1 「ソーシャル」の現在が分かる厳選9講演 【1】「バルス」に驚愕!? ソーシャル“メディア”日米比較 |
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Page2 【2】“プラットフォーム”化するソーシャルメディアの行方 【3】「誰もが主役になれる」mixiのソーシャル“インフラ” |
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Page3 【4】ソーシャル“ゲーム”は日本のITを救うのか 【5】本当にコワイ“炎上”、その火消し対策は |
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Page4 【6】レシピでソーシャル“メディア事業”に参戦した楽天 【7】いいね!より売り上げを増やすソーシャル“コマース” |
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Page5 【8】成功事例に学ぶソーシャル“マーケティング”のあり方 【9】IT技術者の想いをカタチにしたソーシャル“グッド” |
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