「Social Media Week Tokyo」レポート

嫌いな人も知らないと損する
9つの「ソーシャル」のカタチ


Social Media Week Tokyoまとめレポート

五味明子
2012/3/19

【2】“プラットフォーム”化するソーシャルメディアの行方

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 「ここ数年のアップルとマイクロソフトの成長率の差は、何が大きいのか。それはiPhoneという優れたプラットフォームをアップルが持っているから。プラットフォームこそがビジネスを拡大させ、強力な競争優位を実現する」

 トライバルメディアハウス アナリストの西村顕一氏は「ソーシャルメディア・プラットフォームの背景と今後」と題されたセッションの冒頭で、プラットフォームを持つことの重要性を、こう強調した。

 ソーシャルメディアがプラットフォームとしての地位を獲得した現在、プラットフォーマー同士の競争が激化し始めている。プラットフォーマーたちは今後もプラットフォームであり続けるために、どんな手を打っていこうとしているのだろか。

 まず西村氏は、プラットフォームの定義として「ひと言でいうなら築地市場のようなもの」とする。それは以下の3つの要素を満たしていることを意味するという。

  1. マッチングコストの削減
    需要と供給がひとりでに成立する
    →築地には、おいしい魚があるから客が来る
  2. 信頼性
    「◯◯ならば安心できる」という感覚
    →築地ならば安心
  3. フレーム化
    ルールが明確で設計図が用意されているので、アクションが取りやすい
    →築地では、どこにどの魚を並べるかが決まっている

 さらに、クチコミでユーザーが増えていく「ネットワーク外部性」もプラットフォームには重要で、これで成功したのがmixiだとしている。

 一方で、一度「プラットフォーム」の座から落ちると、その滑落は止めようがないとも西村氏は指摘する。その代表例がMySpaceで、Facebookが登場する前まではソーシャルメディアのトップの地位にあったのに、Facebookに抜かれてからの凋落ぶりはわざわざ語るまでもないだろう。

一時はNo.1ソーシャルメディアの座にあったMySpaceだが、Facebookに抜かれてからの凋落ぶりは数字で表すと、より痛々しい……(西村氏の講演資料より)

 それでは、ソーシャルメディアはいかにしてインターネット上におけるプラットフォームの地位を獲得したのか。西村氏は以下の3点を理由として挙げる。

  1. オンラインアイデンティティがリアルと結び付いた
    →リアルデータに基づいた結び付き
  2. 情報発信のハードルが低くなった
    →Facebookの「いいね!」など表現のしやすさ
  3. 価値のある情報が既存メディアではなく、友人や知り合い
    =個人からもたらされるようになった
    →個人のメディア化
インターネット上のプラットフォームの変遷。ソーシャルメディアがプラットフォームとなったのは2005年からだという(西村氏の講演資料より)

 特に西村氏は、数あるソーシャルメディアのプラットフォーマーの中でもFacebookが爆発的な伸びを見せた理由は、創業者CEOであるマーク・ザッカーバーグ氏の「世界を透明に」というコンセプトにあるとしている。「透明にすることで、人々に共有する力を与え、オープンにつながるメリットを証明した功績は大きい」(西村氏)

 リアルを取り込み、プラットフォームという、よりインターネットそのものになったフェイスブックに対し、ソーシャルメディアプラットフォーマーとして追い上げを図っているのがグーグルだ。現在、Facebook内の情報にグーグルはアクセスできない。これは「世界のすべての情報をインデックス化しよう」とするグーグルにとっては非常に厄介な存在である。そこで自ら開発したソーシャルメディアが「Google+」だ。

トライバルメディアハウス アナリスト 西村顕一氏

 「Facebookの問題点はアイデンティティが1つしかないところ。対してGoogle+は、コミュニケーションの権利を個人に任せている点が特徴だ。これはクローズドへの回帰として興味深い。2ちゃんねるやmixiは、ユーザーにとって居心地の良いクローズドなメディアだが、TwitterやFacebookはオープン性がウリだ。たとえカギをかけたとしても、基本はオープンなので、どこからか情報が拡散していくことは避けられない。かつての居心地の良さを求める人々がクローズドな場所を探しているので、Google+はこの先、ソーシャルメディアのマイルストーン的存在になる」(西村氏)

 今後、プラットフォーマー間の争いは激化する一方で、プラットフォーム同士の連携も避けられない流れと西村氏は予測する。また、プラットフォーマーであるならモバイル端末への対応も必須であるとのこと。情報発信のハードルがますます下がっていく中、プラットフォーマー各社はプラットフォームであり続けるために、多方面からのアプローチを模索し続けなければならないようだ。

【3】「誰もが主役になれる」mixiのソーシャル“インフラ”


ミクシィ 代表取締役社長 笠原健治氏

 ある意味、現在国内で最も注目されているソーシャルメディアがmixiなのではないだろうか。日本で独自の発展を遂げ、数々のサービスを生み出したmixiの今後の方向性に関心を寄せる業界関係者やネットユーザーは多い。「国産SNS『mixi』のこれまでと今後の展望について」と題されたセッションで、ミクシィ 代表取締役社長 笠原健治氏がmixiのローンチから現状のビジネス、近い将来の展望について語った。

 「FriendStarに触れたのがmixiローンチのきっかけだった」と笠原氏は振り返る。1997年、笠原氏が大学在学中に運営を開始した求人サイト「Find Job!」を皮切りに、当時、まだ世の中にとって新しい存在だったインターネットを使って、何か社会を変えていくような、便利にするサービスを作っていこうと、アウトプットを積み重ねていったという。その最たるものが2004年にサービスを開始したmixiだった。

 「FriendStarは多分フェイスブックのマーク・ザッカーバーグ氏もインスピレーションを受けたと思う」と笠原氏は指摘する。2003年にFriendStarに初めて触れたとき、友人やプロフィールなど自分のアイデンティティを公開し、自分の情報を惜しみなく世界に出していくというサービスを「ひどく斬新に感じた」と受けた衝撃の大きさを述懐する。

 だが同時に、FriendStarでは「つながった後に、できることが限られていた。使い続けるには難しいサービスだった」とも指摘する。であるならば、「人々がつながった後、そこにコミュニケーションサービスを載せれば、より使ってもらえるプラットフォームになるのではないだろうか」(笠原氏)。そうして「あしあと」サービスや日記などのコミュニケーション機能を充実させ、mixiが始まった。

 その後のmixiの発展は周知の通りだ。2008年ごろまでは日記などのシンプルなコミュニケーションサービスが中心だったが、2009年にはソーシャルアプリケーションプロバイダにプラットフォームを開放するmixiアプリに進出、2010年にはユーザー数は「2000万人を超えた」と同社は発表している。「20代であれば半数以上がアクティブなmixiユーザー」と笠原氏は明言する。

 mixiが多くのユーザーに使われるようになった理由はいくつもあるだろうが、“誰にとっても違和感のないユーザーインターフェイス”(以下、UI)にこだわってきた点も大きい。笠原氏は「女性に嫌われないデザインにしたかった」というが、たしかにロゴやネーミングといった部分にそうした思いが投影されている。「すべての人に心地良いつながりを提供し、誰もが主役になれる世界を創造する」をポリシーを掲げるmixiにとって、女性や若者になじみやすいデザインであることは、サービスを提供するうえで欠かせない要素である。

mixiロゴの変遷(笠原氏の講演資料より)。「女性はデザインに厳しい。とにかく女性に嫌われるようなものにはしたくなかった」と笠原氏

 一方で、ここ1、2年ほど、具体的にいえば2010年にこれまでの招待制から登録制に移行した辺りから、FacebookやTwitterなど、他のソーシャルメディアの勢いに押され気味の傾向も否定できない。対抗策としてか、2011年には新サービス「mixiページ」を開始し、誰でもオープンでソーシャライズされた情報ページを持てるような仕組みの構築に注力している。また、2011年12月に行った「mixiクリスマス」のようなTwitterとの連携を今後も検討していくという。

2011年12月に行われた「mixiクリスマス」でのTwitterとの連携は大成功(笠原氏の講演資料より)

 笠原氏は他のプラットフォーマーとの比較についてはあまり語らない。ただ「それぞれの会社(プラットフォーマー)が狙っているポジションが違う。今後、ユーザーの使い方に合わせて、ある程度サービスが収斂していくことは避けられない」とする。

 特に、比較されることが多いFacebookとの違いについては「mixiは実名を推奨しているが強制はしない。対してFacebookは退会させられることもある。ユーザーの『つながりたい範囲をコントロールしたい』という要望を重視すれば、mixiの方が狭くなりがちなのは確かで、自分のことを知っている人とのつながりに限定される傾向がある」との見解を明らかにした。

 mixiは今後、どういう方向性を目指そうとしているのか。笠原氏は「コアは友人/知人間のコミュニケーション(『ホームエリア』)であり、これは変わらない。それに加えて『mixiページ』『mixiゲーム』といった『タウンエリア』のサービス拡充を図る。ホームエリアが『自宅のリビング』ならタウンエリアは『繁華街』。たまに友人と繁華街に行くことで自宅で過ごす時間がより楽しくなる」と語る。

 また、直近の取り組みとして、以下の3つを挙げた。

  1. より地域密着&ローカルに
    商店街の小さな店にmixiページを開いてもらう、100円から出稿できる広告メニューやクーポンの提供
  2. オリンピックなどビッグイベントのリアルタイムな感動の共有を支援
    イベントの「いいね!」でつながりやすくする、チャットを通してイベントに参加していない人をも巻き込んでいく
  3. 災害時のインフラなど行政との連携
    地震や洪水などの災害時にインフラとして機能できるよう行政と協力

 「コミュニケーションに特化した会社として、心地良いつながりを基本に、新しいユーザー体験、新しい価値を提供しながら、パートナーと一緒に豊かな社会を作ることに貢献したい」と締めくくった笠原氏。ある意味、ソーシャルネットワークのプラットフォームとして国内での頂点を極めた同社が次に目指すのは、より深くて濃い、密なつながりを提供するソーシャル“インフラ”なのでは、と感じた講演だった。

国内最大級のソーシャルメディアプラットフォームとしてmixiが目指すところ。ベースの「心地良いつながり」はこれからも変わらない

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 INDEX
Social Media Week Tokyoまとめレポート
嫌いな人も知らないと損する9つの「ソーシャル」のカタチ
  Page1
「ソーシャル」の現在が分かる厳選9講演
【1】「バルス」に驚愕!? ソーシャル“メディア”日米比較
Page2
【2】“プラットフォーム”化するソーシャルメディアの行方
【3】「誰もが主役になれる」mixiのソーシャル“インフラ”
  Page3
【4】ソーシャル“ゲーム”は日本のITを救うのか
【5】本当にコワイ“炎上”、その火消し対策は
  Page4
【6】レシピでソーシャル“メディア事業”に参戦した楽天
【7】いいね!より売り上げを増やすソーシャル“コマース”
  Page5
【8】成功事例に学ぶソーシャル“マーケティング”のあり方
【9】IT技術者の想いをカタチにしたソーシャル“グッド”


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