HTML5に関わらないと
日本企業は世界から遅れる
新野淳一
Publickey2010/4/6
HTML5について日本語で議論する「HTML5 JAIG」メンバーに、そもそもHTML5の仕様はどのように決められているのかを聞いた
日本語でHTML5についての議論を行うW3Cのグループ
HTML5の仕様は現在、W3C(World Wide Web Consortium)のHTML Working Group(以下、HTML WG)を中心に策定が進められています。HTML WGのHTML5に関する議論は、メーリングリストに入ることで誰でも参加可能ですが、英語でのコミュニケーションであり、また仕様策定に関する内容が中心であることなどから、日本人で参加している人はそれほど多くありません。
そこで、日本語でHTML5についての議論を行うことを目的に、W3Cのグループとして昨年の12月に活動を開始したのが「HTML5 Japanese Interest Group」(以下、HTML5 JAIG)です。
Working Groupが仕様を策定する目的であるのに対し、Interest Groupは、仕様を決め、普及させるに当たってできるだけ幅広い人の意見や実情を吸い上げるために、気軽に参加してもらうためのコミュニティです。
HTML5 JAIGも誰でも参加できるオープンなコミュニティで、現在メーリングリストには約300人程度が参加しています。2010年1月には、フェイス・ツー・フェイスミーティングも行われ、慶應義塾大学の日吉キャンパスの会場には100人以上が集まりました。
このHTML5 JAIGは、どのようなことを目指し、HTML WGとどのような関係にあるのか。そしてHTML5そのものはどのような仕組みで議論されているのでしょうか。W3Cの運営に携わっている慶應義塾大学の一色氏、スミス氏、深見氏と、HTML5 JAIGのチェア(議長)であるミツエーリンクスの矢倉氏に聞きました。
意外と知らない慶應義塾大学とW3Cの関係
――― まず、慶應義塾大学とW3Cの関係や、HTML5仕様策定のプロセス、そして皆さんがその中でどのような役割を果たしているのかを教えてください。
一色 W3Cは世界組織で、米国のマサチューセッツ工科大学(MIT)、欧州情報処理数学研究コンソーシアム(ERCIM)、そして日本の慶應義塾大学が共同でホストしています。ホストの役割は、会員企業による標準仕様策定活動(議論)のサポート、標準規格の普及活動、そして標準化活動を支援するための資金獲得です。
私がここ、W3C/KeioのSite Manager(日本サイト=慶應義塾大学内の総責任者)になったのが、昨年(2009年)の1月です。その前は、東芝でホームネットワークなどを担当し、機器とネットワークの接続、新規事業の開発や事業投資などを担当していました。ネットワーク技術とビジネスの両方を理解しているということで、このポジションにやってきました。
W3Cは国際的な仕様を作るための組織です。その特徴として、技術的な検討を行って仕様書へ落とし込むといったWoriking Groupの活動は、会員企業などから集まったエンジニアたちがやっています。W3Cの専従職員(Team)はWorking Groupの運営をサポートするのが主な役割です。HTML5でいえば、ここにいるマイク(マイケル・スミス氏)がそのサポートを担当しています。
もちろん、いまW3Cで一番注目されているのは、HTML5です。10年ぶりにHTMLの仕様をアップデートするという大きなプロジェクトですし、それ以外にも、さまざまな機器が連係するための仕様なども注目されています。
W3C Site Manager for W3c/Keio 慶應義塾大学 大学院 政策・メディア研究科教授 一色正男氏 「次の10年を見てちゃんとやらないと、日本の企業は大変なことになる」 |
HTML5の仕様策定のプロセスは、もめている?
スミス 私がいま主に担当しているのはHTML5の仕様ですが、それに関連したAPI、例えばWebWorkers、WebSockets、WebStorageなども担当しています。これらを適切なプロセスを通じてW3Cの標準仕様にすることを担当しています。
いちばん難しいのは、正しいリーダーシップをグループにもたらすことです。それに関して昨年(2009年)の夏、HTML WGの議長(Chair)をマイクロソフトとアップルから迎えました。外部からは分かりにくいのですが、そのために多くの折衝や議論をしてきました。
私はHTML WGのTeam Contact(以下、チームコンタクト)としてワーキンググループがうまくいくように仕事をしています。最近の大きな仕事は、この議長を迎えることでした。
そしていまの課題は、アクセシビリティについてです。HTML5を、例えば障がい者の人たちにも使えるようにすることです。VideoタグやAudioタグのフォールバックなども行っています。CanvasタグはVideoやAudio以上に難しいのですが、これについても取り組んでいます。
また、HTML5の仕様そのものもラストコールへ進むために10個ほどの課題があり、それを議長たちが解決できるように助けてもいます。
――― HTML WGのエディタ(Editor)はイアン・ヒクソン(Ian Hickson グーグル)氏ですね、そしてチェアはポール・コットン(Paul Cotton マイクロソフト)氏、サム・ルビー(Sam Ruby アイ・ビー・エム)氏、マチェ・スタコビアック(Maciej Stachowiak アップル)氏と3人います。この関係はどうなっているのでしょう?
スミス エディタであるHixie(Hickson氏のこと)はフルタイムで仕様を書いています。HTML5の仕様書と関連APIの多くが、彼によって書かれています(参考:Web Applications 1.0が登場、HTML5最終草案に一歩)。
そのエディタと3人のチェアの関係について、例を挙げましょう。以前、aタグのping属性について議論されたことがありました。Hixieはping属性を支持して仕様を書きましたが、ワーキンググループのメンバーの中には、その仕様はあまりよいものとは思えず反対する人もいました。
そこでチェアの1人、スタコビアック氏が、このことについてW3CのDecision Policy(決定方針)に沿って、メーリングリストでワーキンググループのメンバーと議論を始めました。
そして、スタコビアック氏はエディタであるHixieとは異なる判断、つまり「ping属性は仕様に含めるべきではない」と判断しました。これによって、W3CのHTML5仕様からはping属性が外されることになりました。エディタであるHixieもそのことに同意しています。
W3C HTML and Web Applications Working Groups Team Contact 慶應義塾大学 大学院 政策・メディア研究科 プロジェクト専任講師 マイケル・スミス(Michael Smith)氏 「HTMLにCSSが不可欠なように、SVGも同様に重要なものになり、デザイナはCSSと同様にSVGも学ぶようになるでしょう」 |
もちろん、この決定でがっかりした人もいますが、これは仕様の作業をラストコールに向かって前に進めるという点で全員にとって良いことでもあります。チェアは意思決定をし、問題をクローズするためにいるのです。
ほかの例でいえば、HTML5仕様からMicrodataの部分を分離することについても、Hixieは反対で、チェアの決定により分離することになりました。つまり、私たちはチェアによってプロセスを前進させていくための強力なプロセスを備えており、これは非常に前向きなステップだと思います。
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HTML5が拓く新しいWeb(5. W3C編) HTML5に関わらないと日本企業は世界から遅れる |
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