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HTML5が拓く新しいWebHTML5が拓く新しいWeb(5. W3C編)

HTML5に関わらないと
日本企業は世界から遅れる

新野淳一 Publickey
2010/4/6

そもそも、HTML5 JAIGが出来た経緯とは

――― スミス氏のバックグラウンドも教えていただけますか?

スミス 私がW3Cに参加する前、3年前にはWHAT WG(Web Hypertext Application Technology Working Group、もともとHTML5を提唱したグループ)にいて、そこで活動していましたし、いまでも活動しています。

 多くの人がW3CとWHATWGが衝突しているように見ていますが、その人たちはW3CのHTML Working GroupとWHAT WGのメンバーが基本的に同じグループの人たちだということを忘れているのでしょう。HTML Working GroupのEditor、Ian Hickson氏はWHAT WGの中心的存在で、長年WHAT WGで活動している人でもあるのです。

 私は、日本で働いてもいました。オペラソフトウェアで携帯電話向けのPCサイトビューアなどを開発したり、ほかの企業で携帯機器向けのWebブラウザを開発していました。

――― 深見さんのW3Cとのかかわりを教えてください。

深見 私は本業が博士課程の学生です。専攻はエンジニアではなく経営学でして、バックグラウンドもマーケティングの仕事をしていました。具体的には電通リサーチという市場調査会社で、リサーチャーをしていました。

Intern for W3C/Keio
慶應義塾大学 大学院後期博士課程 深見嘉明氏
「HTML5に対して、多分いろいろな見方や誤解もあると思います。例えば、WHAT WGとW3Cは仲が悪いのだろうとか、HTML5が登場したおかげでXHTMLがなくなったじゃないかとか。そうではありません」

 現在は大学院に復学し、ソーシャルメディアの中でのメタデータ、特にセマンティックな機能を持つメタデータを取り扱う技術がコンテンツ流通にどう影響を与えるかについて研究を進めています。もともとはビジネス出身なので、プラットフォームビジネスをどうしていくか、ソーシャルのデータなりインテリジェンスをどうビジネスに活用するかといったという観点でも研究活動をしています。

 その流れで、昨年(2009年)の3月に出来たW3CのソーシャルWebインキュベーショングループのメンバーとして参加しています。このグループは、OpenIDやOAuth、Facebook ConnectやOpenSocialなど、SNSを連動してつなぐ仕様が出てきた中で、W3CとしてそういったソーシャルなWebに関してどんなコミットの仕方をすればいいのかを議論するところです。

――― HTML5 JAIGのチェアでもある矢倉さん。本職とW3Cとのかかわりを教えてください。

矢倉 勤務先であるミツエーリンクスでのいまの仕事は、主に「Web標準Blog」の執筆、HTMLに関する講演やオンラインメディアなどへの執筆などです。会社としてもWeb標準に力を入れているので、他人の書いたコードが標準に合致しているかとか、社内の作業のワークフローの改善などもしています。

 そして、HTML5 JAIGのチェアをしています。特に理由はないのですが(笑)。こういうことをやっている人が僕しかいなかったのでしょう。

――― HTML5 JAIGのチェアになった経緯は?

 HTML5 JAIGが出来た経緯は、実は僕もよく知らなくて、もともとW3Cの日本会員の中で、「HTML5について日本語で情報交換したい」という話があったようで、それについてメンバーで話をしていて、で、じゃあW3Cの中にそういうグループを作ろうということになったようです。

 そこで、グループに必要になるのはチェアとチームコンタクトということになったので、チェアは僕、チームコンタクトはマイクということになりました。

――― そうなったのは、矢倉さんがもともとHTML WGに日本から参加していたからですか?

 はい。昨日(インタビューは、2010年3月8日)でちょうどW3CがHTML5 WGを立ち上げて3年、そのメッセージが出たころに参加して、その後3カ月くらいしてこの会社に入って、Web標準ブログの更新メンバーに加わって、という感じです。

HTML5 JAIGの現状と目的、そして今後は

――― HTML5 JAIGの現状と今後について、どうお考えでしょうか?

一色 テレビ、ケータイ電話、カーナビなどHTML5に対応するデバイスがどんどん増えてきています。デバイスが増えていく中で、利用や実装に当たって、どんな問題があるのかないのか、日本の技術者にもっと論議してほしいと期待しています。

 もちろん、それは日本のWebを作る人たち、コンテンツを作る人たちと一緒にやっていかなくてはいけないとも思うので、非常に幅広い人たちを受け入れたいと思っていますし、ここから出た意見をぜひHTML WGの方へ、課題やユースケースなどを提案できるといいと思っています。

矢倉 HTML JIGの目的は3つくらいあります。まずは、HTML5とその関連仕様について分からないことや疑問があったら、それを議論する場所となることです。また、その成果として、疑問をHTML WGに投げられるならそうします。そして、デバイスなどにHTML5を実装している人が、「HTML5の関連仕様に、こういったものはあるんですか?」などの疑問が発生したときの窓口としての役割も考えられます。

W3C HTML5 Japanese InterestGroup Chair
ミツエーリンクス 矢倉眞隆氏
「勧告は、2012年や2022年といわれていますが、勧告を待たずに使える機能もありますし、勧告していないから使ってはいけないというものでもありません」

 多分、僕に与えられている役割としては、前者の方、HTML WGに対してのコミュニケーション、あるいはHTML5 WGに対して日本でどういう情報を集められるかが、特に求められているのではないかと思います。

 HTML5仕様は最終草案を今年(2010年)中に出したいと考えているようなので、これから新しい機能追加の要望を出しても、多分それは望めないでしょう。しかし、その次のバージョンの課題として提案できるものはします。

 HTML5 JAIGについては、いまはまだメーリングリストの流量が少ないのが課題です。あまり高い視線、専門的な話題ばかりではなかなか意見が出にくいと思いますので、簡単な質問でいいからメーリングリストに投稿できる、あるいは投稿されなくてもいいから、WebにあるHTML5に関連した疑問を集めてきて議論する、そうしたやり方がグループとしてまずは動きやすいかなと思っています。

一色 まずは、流量を増やすところですね。難しい話ばかりじゃなくて。

深見 裾野を広げていきたいですね。

スミス HTML5 JAIGのもう1つの目的は、HTML5や関連するAPIにたくさんの興味を持ってもらっているのにもかかわらず、いままでそうした人たちに簡単にW3Cにかかわってもらう場所がなかったので、そのための新しい場所となることだと思います。

 仕様を議論する場所としては、HTML WGやWebApp WGがありますが、もちろん全部英語ですし、真剣にかかわるには一定の時間がかかります。

 ですから、それ以外の方法で、先ほど一色さんが触れたように、家電やモバイルデバイスなどの仕事をしている人たちにも、もっとHTML5の情報を得たり気軽に参加してもらう方法としてHTML5 JAIGを利用してほしいですね。

バズワード化して「なんだかすごいもの」で止まっている

――― そもそもHTML5について、皆さんはどう見ていらっしゃるのでしょうか?

一色 例えばケータイでは、さまざまなWebブラウザの仕様があり、それに合わせてコンテンツを作り直さなくてはいけなかったりします。組み込みでも似たような状況にあり、PCでもアドインを入れないと見られないサイトがある、といったことになっています。

 こうした「Webが複雑多種になった状況から、Webが1つになる」というのは非常に重要で、W3Cとして1つのWeb、どれも同じ仕様にのっとったWebブラウザという時代を作りたい。それに日本からも参加してほしいと思っています。

 「次の10年を見てちゃんとやらないと、日本の企業は大変なことになる」というのが私の認識です。HTML5というのは1つの旗印でしかありませんが、このデファクトスタンダードが日本の企業活動に大きなインパクトがある、非常に重要な話題だと思っていて、HTML5にかかわっていかないと、世界から遅れてしまうのではないかと心配します。ぜひ参加していただきたいですね。

スミス HTML5はW3Cの現在の作業の中で最も重要なものです。われわれは2年とか3年とかではなく、次の20年、25年にわたってWebの基礎となるものを作っています。

 これまでのHTMLは、Webアプリケーションを作ることにはフォーカスしていませんでした。いま私たちはWebブラウザをアプリケーションの実行環境にしようとしています。

 HTML5だけでなく、例えば「SVG」といった技術もあります。いままでSVGはそれほど使われてきていません。しかし、これから注目されようとしています。HTMLとSVGを組み合わせることで、高度なベクターグラフィックとアニメーション効果などがプラグインなどなく簡単に表現できるようになるからです。

スミス氏が提示したSVGのデモ

 SVGはFirefox、Safari、Chrome、Operaなどでサポートされていますし、Internet Explorerでも今後サポートされるようになります(参考:IE9、HTML5やCSS3、SVG対応を大幅強化へ)。HTMLにCSSが不可欠なように、SVGも同様に重要なものになり、デザイナはCSSと同様にSVGも学ぶようになるでしょう。

矢倉 HTML5はバズワード化してしまい「なんだかすごいもの」という認識で止まっている人が増えているように感じます。

 HTML5は、HTMLやAPIが順当に進化した結果だと思っているので、そこまで革新的・革命的だとは思っていません。ただ、Webプラットフォーム全体の発展を考え、互換性を確保するための仕様作りなど土台固めも行っていることは重要です。Webのさらなる発展には互換性の確保が不可欠ですから、標準化団体がそこに向き合い結果を出しているのは、とても大きなことだと思います。ですから、HTML WGの参加者として、そしてHTML5 JAIGのチェアとして、日本からも多くの人がこの動きに加わってほしいです。

 一方で、ただ「すごいもの」で終わらせず、もう一歩踏み込んで、何ができるか、どう変わるのかといったことについて考えてほしいなとも思います。勧告は、2012年や2022年といわれていますが、勧告を待たずに使える機能もありますし、勧告していないから使ってはいけないというものでもありません。勧告というラベルは仕様書としてまとめる側の都合なので、利用者はあまりこだわらずに使えるものから使っていけばいいと思っています。

 使う人の声に呼応する形で仕様も進化できます。HTML5では無理かもしれませんが、次のバージョンやレベルの策定もそう遠くないうちにスタートするでしょう。そういったサイクルはCSSで少しずつ進んでいますが、HTMLやAPIでも同じことが起こりつつあります。

深見 HTML5に対して、多分いろいろな見方や誤解もあると思います。例えば、WHAT WGとW3Cは仲が悪いのだろうとか、HTML5が登場したおかげでXHTMLがなくなったじゃないかとか。そうではありません。切り捨てているわけではなくて、いままでいろんな形であったWebの進化をまとめているのだよと、そのための活動なんだよと、とらえ直していただけるとうれしいなと思います。

 また、大きな企業が独自の仕様を作るわけではなく、Webのコミュニティでいろんな人が仕様を作っているプロセスにも注目してほしいなと。

 HTML5が進化することによって、いろんなコンテンツやアプリケーションが乗ってくるプラットフォームとしての役割がどんどん強くなっていきます。しかし、オープンなプラットフォームだからといって、それが誰にとっても平等に使い勝手が良いというわけではありません。

 プラットフォームのルールは仕様です。だからこそ、そのルールを決めるところにもっと注目してほしいし、そこに参加する意欲がある方、企業が出てくれば、W3Cとして大歓迎しますしサポートします。

矢倉 そうですね。HTML WGの一員でもある私としては、仕様を作る側にも注目してほしいと思います。

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新野 淳一(にいの じゅんいち)Publickey

アスキーでリレーショナルデータベースInformixのテクニカルサポートを担当し、Windows Magazine編集部でnetPCを創刊、ASCII NT副編集長となる。フリーランスを経て、2000年にアットマーク・アイティの創立に参画、取締役に就任し、Webサイト@ITの立ち上げを行う。2008年再びフリーランスとなり、2009年、Webサイト「Publickey」を立ち上げる

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HTML5が拓く新しいWeb(5. W3C編)
HTML5に関わらないと日本企業は世界から遅れる
  Page1
日本語でHTML5についての議論を行うW3Cのグループ
意外と知らない慶應義塾大学とW3Cの関係
HTML5の仕様策定のプロセスは、もめている?
Page2
そもそも、HTML5 JAIGが出来た経緯とは
HTML5 JAIGの現状と目的、そして今後は
バズワード化して「なんだかすごいもの」で止まっている

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