リッチクライアント・カンファレンスW
Bトラックパネルディスカッションレポート


〜自社の帳票システムの生産性は十分ですか〜

 

帳票はセキュリティ強化、開発負荷削減、
エンドユーザー支援がカギに


@IT編集部
2008/10/9
帳票ツールベンダのパネリストたちが、日本の企業情報システムにおける帳票開発業務の現状とそのあるべき未来を語り合った

 去る9月19日、東京・目黒雅叙園において@IT編集部主催によるリッチクライアント・カンファレンスWが行われた。これは、“いま”のWebアプリケーションに求められるニーズを整理・検証し、開発の次なるステージへの進化の道筋を見つけ、“新時代のWebアプリケーション”の形を垣間見ようというもの。ここで、いまやリッチクライアントのB面といえる帳票分野にスポットライトを当て、ツールベンダ各社からのパネリストが集まり、日本の企業情報システムにおける帳票開発業務の現状とそのあるべき未来を語り合った。

帳票のエクスペリエンス・テクノロジーとは?


野村総合研究所 情報技術本部 技術調査部 上級研究員 田中達雄氏

 このカンファレンス、基調講演には野村総合研究所 情報技術本部 技術調査部 上級研究員 田中達雄氏が登場し、「エクスペリエンス・テクノロジーはどこまでUIを最適化していくのか?」と題し、さらなる使い勝手や生産性の向上、パーソナライズによる最適化、オフライン環境での効率化や表現力進化などで、今後ますます発展していくであろうリッチクライアントの進化予測を披露した。中でも、「ITに対して期待以上のエクスペリエンス(経験価値)を提供する技術、つまりホスピタリティーがあって感動を呼び起こす技術が、エクスペリエンス・テクノロジーと呼ぶに値する」という田中氏の持論は、非常に説得力があった。

 このカンファレンスがリッチクライアントと並んでもう一つスポットライトを当てたのが帳票ツールの世界だ。この分野においても電子化が進み、いかに業務効率を支援するUIを提供するかが大きなポイントになっている。

 カンファレンスで開催されたパネルディスカッションでは、帳票ツールベンダ各社からパネリストが集まり、日本の企業情報システムにおける帳票開発業務の現状とそのあるべき未来を語り合った。

パネルディスカッション「自社の帳票システムの生産性は十分ですか」の様子
パネルディスカッション「自社の帳票システムの生産性は十分ですか」の様子

 パネリストとして出席したのは、ブレインセラーズ・ドットコム ソフトウェア営業部 プロダクトマーケティング 青柳敦氏、マイクロラボ 代表取締役 宮森勝彌氏、アドビシステムズ マーケティング本部 エンタープライズ&デベロッパーマーケティング部 部長 小島英揮氏の3氏。モデレータはフリーランスライターの吉田育代氏が務めた。

帳票業務の現状と解決すべき課題を考える


モデレータ 吉田育代氏
モデレータ 吉田育代氏

 ディスカッションは大きく2部構成で展開された。前半のテーマは「日本企業における帳票業務の現状」、後半のテーマは「帳票開発・運用のサポーターとして考えること」である。

 まず前半の部では、電子帳票化の進行状況、印刷に求められる品質、帳票と呼ばれるものの広がり、現在、身近な電子帳票フォーマットとして利用されているExcel、PDFの存在感、セキュリティニーズの高まりなどの観点から、帳票開発業務が抱える課題とテーマに関して意見交換を行った。

 パネリストの諸氏が日々のビジネス活動で感じているところでは、帳票業務の電子化はかなり進んでいるようだ。それもWebアプリケーション化の傾向が高いという。やはりクライアントへのソフトウェア配布が要らず、サーバ集中で開発可能であるため、ニーズの変化に対応・展開しやすいということと、2005年4月に施行された、作成・保存が義務付けられている文書・帳票類の電子化を、例外はあるものの一括して認めるe-文書法も後押ししているのだろう。ただ、電子化を推進するに当たってUIを新たに開発しなければならず、それが情報システム部門の負担となっている面はあるようだ。

 そうした中で、電子帳票化の流れの中で依然健闘しているのが、帳票フォーマットとしてのPDFやExcelだ。前者はこの文書の標準ビューアであるアドビシステムズのAdobe Readerが無償で配布されており、後者はビジネス文書ツールのデファクトスタンダードとして浸透していることから、特に相手を特定できない環境での電子文書流通に重宝されている。

ブレインセラーズ・ドットコム ソフトウェア営業部 プロダクトマーケティング 青柳敦氏
ブレインセラーズ・ドットコム ソフトウェア営業部 プロダクトマーケティング 青柳敦氏

「当社のbiz-Streamは、多様なデータソースを取得して多様な電子帳票に展開することを大きなセールスポイントとしているが、PDFへの出力ニーズは非常に高く、それに呼応するべく、PDFへのデータ展開機能を進化させてきた。しかし、あまりにもPDFといわれるので、ときどき帳票の電子化ソリューションはこれ以外ないのかという気になることもある(笑)」

 青柳氏は冗談めかして発言した。これに対し、アドビシステムズの小島氏は、

「ほかのフォーマットでもまったく構わないと思うのだが、これに変わるものが見当たらない。やはりAdobe Readerが広く行き渡っているのが大きいと思う。長い時間をかけて普及に徹してきた当社に一日の長がある」

と答えた。

 一方、もう一つのExcelに関して小島氏は次のように発言した。

「Excelは帳票のオーサリングツールとしては優れていると思う。エンドユーザーが情報システム部門に対して“こんなイメージで作りたい”と伝えるときには非常に役立つ。しかし、電子帳票として利用するときには、結局はスプレッドシートなのであまり洗練されたものにならないのが難点だ」

 青柳氏もその意見に賛成のようだ。

「社内で簡易的に利用するならいいが、Excelできちんと帳票の体裁を整えようとすると、かなり工夫の要る開発になる」

マイクロラボ 代表取締役 宮森勝彌氏
マイクロラボ 代表取締役 宮森勝彌氏

 マイクロラボはExcelを使った帳票開発に力を入れてきたベンダだが、宮森氏は両氏の意見に大きく反論しなかった。

「企業の帳票開発にはコストの見極めがつきもの。それが体面にかかわると判断すれば、何千万円も予算を掛けて、どこかに発注してでも開発する。しかし、その半面、コストも時間もかけられないものもある。そういう場面でExcelが重宝されてきたのではないか」(宮森氏)

これからの帳票開発・運用で何が一番重要か

 後半の部に入る時間となった。「帳票開発・運用サポーターとして考えること」の大テーマの下に、この分野で何が一番重要なことかを話し合ったのだが、小島氏は次のように発言した。

アドビシステムズ マーケティング本部 エンタープライズ&デベロッパーマーケティング部 部長 小島英揮氏
アドビシステムズ マーケティング本部 エンタープライズ&デベロッパーマーケティング部 部長 小島英揮氏

「これからの帳票で一番大切なのは正確性とWebアプリケーション化が進む企業情報システム環境との連携性だ」

 後者から説明しよう。今日、システム環境はWebアプリケーション化が進んではいるが、企業のシステム環境はまだまだいつでも常にオンラインというわけにはいかない。故に、オフライン環境であっても利便性を下げることなくデータ流通可能な環境を整えることが必要だということだ。

 前者の正確性とは、真正性ともいい換えることができる。コーポレート・ガバナンス強化の要望も社会的にも大きく叫ばれている昨今、企業は社内外に流通させる帳票が改ざんの余地のないものであることを証明していく必要があるという。そうした状況を踏まえて、アドビシステムズは、コピー・印刷制御ばかりではなく、電子署名・タイムスタンプによる改ざん防止、電子透かし、文書配布後にその閲覧可不可がコントロールできるDRM(Digital Rights Management)機能など、セキュリティ機能の拡張に注力しているようだ。

 実際、企業におけるセキュリティニーズはどうなのかというと、それほど高まっていないのが現状だ。電子署名・タイムスタンプの提案でも、“まだそこまでは”という反応が一般的、と小島氏。ブレインセラーズ・ドットコムの青柳氏も、電子透かしなどの機能を紹介するが実装に至るケースはそれほどないという。議論の中で出てきたのは、“火がつくかどうかは法整備がカギになる”ということだった。e-文書法が改正されるなりしてセキュリティ要件が高まるような法律の制定があれば、一気にこうした機能の利用が進むだろう、というのがパネリストの一致した意見だった。本来は企業自らのセキュリティポリシー確立から入るのが望ましいのだが、あまりにも取り組むべき課題が多いため、そこまで手が回っていないのだ。

 “これからはニーズが生じるたびに帳票を開発するのではなく、エンドユーザーがオンデマンドでデータを取得できる環境を整備するという方向性もある”という意見も出た。青柳氏はいう。

「帳票という言葉からは離れるかもしれないが、情報システムの中央にデータストレージを据えた、ビジネスインテリジェンスを活用した形でのソリューションは、情報システム部門の負荷軽減、エンドユーザーの利便性向上という意味でも今後有望なのではないかと思う」

 一方、エンドユーザーが誰でも気軽に帳票を開発できる体制こそが重要と主張して議論を結んだのは宮森氏だった。

「企業には帳票を必要とする業務が山ほどあって、そのニーズも刻々と変わって事前に想定し尽くすことができない。それなのに、いちいち情報システム部門に依頼して作ってもらわなければならないという現在の体制が一番に問題。情報システム部門に頼ることなく、エンドユーザー自らが思い付いた時点で気軽に開発し、展開できるようにしていくことが何より大切だ」

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