@ITの人気コンテンツ「いまさら聞けない」シリーズ、今回は特別編で“帳票”入門をお届けすることになりました。
「帳票? 何だか難しそうだな」と構える必要はありません。実は、すごく身近な「給与明細」や「勤務表」、そして「経費精算伝票」なども「帳票」に当たります。
社会人なら、いや、それどころか老若男女問わず、誰でも1度は見たことがあるはずです。
本稿はできるだけ専門用語を使わず平たく分かりやすく書こうと思っています。肩の力を抜いて、さらっと読んでいただければ幸いです。
さて、まずは基本の基本、「帳票とは何か」というところから始めましょう。「帳票」という言葉そのものは会計用語から来ています。「帳」は「帳簿」のことを意味しており、「票」は「伝票」を意味しています。
もう一歩進めて、「帳簿」とは、会社や商店の取引を“記録”しておくもので、仕訳帳、総勘定元帳、現金出納帳、仕入帳、売上帳などを総称する表現です。
一方、「伝票」とはお金の出入りや取引内容などを記入する紙片のことです。取引の詳細を明らかにし、何かのときには“証拠”として利用します。具体的には、入金伝票、出金伝票、振替伝票、仕入伝票、売上伝票などがあります。
この「帳簿」と「伝票」を2つまとめる形で「帳票」という言葉が生まれたというわけです。こう書いてくると帳票のアウトラインが見えてきたかと思いますが、突き詰めると、帳票とは、“証拠”そして“記録”です。
こういう事実があったということを記し、それを形として残そうとするのは、自分の身を守る意味でも、そして伝えるという意味でも、人間にとって一種本能的なものなのかもしれません。
日本の歴史においては、すでに5世紀のヤマト王権(大和朝廷)時代に記録・文書をつかさどって朝廷に仕える「史部(ふひとべ)」という部民(当時の制度上の位)も誕生しており、朝鮮半島からやって来た渡来人によって、執行されていたといいます。
5世紀といえば、いまから1500〜1600年も昔です。当時のことがこのように推測できるのも、「記す」という行為が行われたからこそのことです。証拠や記録は取っておくべきものだと実感しますね。
コンピュータが登場する以前、会社や商店の帳票は“手書き”で作成されるのが一般的でした。文具メーカーなどが販売している帳簿/伝票や組織が自作したものに、人間が書き込んでいたのです。
その時代にはそれしかなかったのですから拒否のしようもありませんでしたが、手書きの帳票にはさまざまなデメリットがありました。
人間の筆跡にはそれぞれ個性があり、それが著しいと、いわゆる「癖字(くせじ)」と呼ばれます。
本人は極めて明確に書いているつもりでも、他人が見るとすぐに判読しかねるというケースは多々あって、つい読み間違いを犯してしまう危険性がありました。
人間はミスから逃れられない生き物です。疲れていたり、ほかのことに気を取られたりしてうまく集中できないと、帳票記入の際に書き込みミスや転記ミスを犯してしまいます。
人間が文字を書くスピードには限界があります。
取引量が膨大であったり、取引先が多岐にわたる場合は、帳票を作成するのに非常に時間が掛かります。いきおい担当者は夜遅い残業を強いられたり、臨時に応援要員を調達して業務をこなさなければなりません。
筆者は、JRの前身である国鉄が、人間と電話だけで新幹線の予約業務を遂行していた時代のことを聞いたことがあります。そこには大きな円卓があって、予約申し込みの受け付け担当者が数名、円卓を囲んで座れるようになっています。それぞれの座席の前には電話が置かれています。円卓の上方には、新幹線の便ごとに分けられた台帳が円形の棚に並べられており、台を回転させて目的の帳簿を取り出すようになっています。
申し込み受け付け開始時間が来ると、一斉に電話が鳴ります。担当者は受話器を取り、申し込み内容を聞くや円形の棚を回して台帳を取り、手元で広げて書き込みをします。書き込みが終わるとそれをまた棚へ戻します。以下、それの繰り返し。担当者は皆ベテランで、そのスピードたるやとても人間業とは思えないものだったといいます。
しかしながら、どんなに究極の職人芸を発揮しても、電話応対と手書き入力では、処理能力は限られました。それどころか新幹線のニーズが高まり便が増発されると、だんだん予約受付業務は人間の力では手に負えないものになっていきました。
その後、この状況を打開する、ある“発明”がされました。それは、いったい何なのか? 次ページで紹介しましょう。
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