便利な帳票ツールの登場、そして電子/Web帳票へいまさら聞けない、日本の“帳票”入門(後編)(1/2 ページ)

» 2008年04月03日 00時00分 公開
[吉田育代@IT]

 本稿は「いまさら聞けない、日本の“帳票”入門」と題して帳票とそれにまつわるソフトウェア事情をお届けする特集記事です。前編の記事(「誰もが1度は見たことがある『帳票』のはじめて物語」)では、日本の帳票の歴史を紹介し、プログラミングで帳票を作るのは大変だったところまでお話ししました。そこへ“帳票設計・開発ツール”というものが現れます。

 プログラミングしなくても、ユーザーの要望に沿った帳票が作れるというものです。これは一体どんなことをしてくれるのでしょうか。早速見ていきましょう。

帳票設計・開発ツールを利用する最大の利点とは?

 一番のポイントは、帳票設計や帳票開発といわれる段階を助けてくれることだと思います。帳票の中身を、グラフィック画面を使ってマウス操作で作れるのです。

谷口氏

企業基幹系システムの変化から生まれた帳票技術
帳票ベンダ・インタビュー(1) 「帳票」技術は企業システム全体の開発生産性や保守性を左右するという。技術が生まれた背景からウイングアークの谷口氏に聞いた
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 例えば、自社仕様の「納品書」を作成するとします。納品書に必要な記述といえば、顧客の住所・名称、自社の住所・名称、納品する商品の名称、数量、金額などが入った表でしょう。それらがツールを使うことで、画面上に、“福笑い”をするような感覚で(あまりいい例ではないかもしれませんが)行えます。

 「顧客の住所・名称はこのあたり、自社の住所・名称はこのあたり、当社は1回当たりの納品数が比較的多いから10品は列挙できる表をこのあたりに配置したい」といった要望を、画面上で実際に配置を行いながら満たせるのです。実際に配置してみて気にいらなければ、「うーん、もうちょっと住所欄は下に置いた方がいいかな、このけい線はもうちょっと太くしないと」といった“思考の流れ”に沿って修正できます。

さまざまなオプションも付加

 製品によっては、自社のデザインロゴイラストバーコードなどを入れることができたり、もっと複雑な表(例えば、データ量に合わせて表の行数を加減する、小計を途中にさしはさむ、など)のニーズに応えるものもあります。

編集部注バーコードについて詳しく知りたい読者は、記事「5分で絶対に分かるバーコード」をご参照ください。

服部氏

製品ではなく、自社組み立ての「帳票部品」という発想
帳票ベンダ・インタビュー(10) 帳票システムを購入し直すには莫大な投資がかかる。必要なコンポーネントを付け足すとしたらどうだろう。ユニークな帳票部品ビジネスを取材した
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データベースとのひも付け

 場所が決まったら、そこに入れ込む実際のデータをひも付けます。納品書の例でいえば、顧客の住所・名称データと納品する商品ですが、これはすでに自社でデータベースなどの形で保持しているでしょうから、「このデータベースのここにあるデータを挿入する」といった形で指定をしておきます。そうすれば、帳票を発行するときに作った帳票レイアウトとデータが合体されて、顧客に送れる納品書となって出力されるというわけです。

三浦氏

Eclipse BIRTとスプレッドシートでBIレポーティング
帳票ベンダ・インタビュー(17) Eclipseのレポート生成エンジンであるBIRTやExcel互換のスプレッドシートデータなどを使った製品はデータ分析業務の“壁”を崩せるのか?
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プログラミングが必要な場合も

 これまで、こういったことはプログラミングで制御して、実際にコードを実行して紙に出力し、ああでもない、こうでもない、といっていたのですから、それを思えば画期的な進歩ですよね。

 ただし、複雑な構造の帳票を作成する場合、例えばグラフィック画面で指定するデータを加工して出力する場合や、小計を途中で差し挟むパターンやロジックが複雑な場合などは、ツールごとのスクリプト言語Java.NETPHPなどのプログラミング言語を使って制御する必要性というのはどうしても残ってしまいます。

 ツールの中には、プログラミングをしないことももちろんですが、プログラミングできめ細かいロジックを作るためのモジュール/連携機能を備えているものもあります。

長尾氏

帳票開発者のニーズにきめ細かく対応、テンアートニ
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大島氏

Javaプログラミングなら日本帳票の細部も再現できる
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Crystal Reports

Crystal Reportsで作る高品質なWebレポート
Crystal Reports for Visual Studio .NETの概要 Webアプリケーションに多様なレポート機能を簡単に追加できるCrystal Reportsの概要と基本的な操作法について
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門馬氏

EoD指向のエンタープライズJava用帳票ツール
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既存の紙帳票もスキャナーで取り込める

 このお話は新規に帳票を作成する場合のことでしたが、すでに紙の帳票としてあるものをそのまま流用したいという場合もあるでしょう。こんなときは、紙の帳票をスキャナーなどで読み込んで、それを下敷きにして帳票を作っていくといったことができる製品が役に立ちます。

高橋氏

帳票設計/出力フェイズの開発負担軽減、日立製作所
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 スキャナーで取り込んだイメージがそのまま使えれば楽なのですが、それはさすがに“にじみ”や“ゆがみ”が生じるので(FAXで送られてきた書類のような感じです)、その上から“なぞり書き”をしていきます。それでもまったく一から設計し直すことを考えれば、ずいぶん時間の節約になります。

電子文書/Web帳票の作成を支援するものも増えてきた

 帳票というと、“”、または“紙に印刷して利用するもの”という印象がありますが、昨今は電子文書/帳票の流通も増えてきました。

電子文書/帳票、その代表格「PDF」

 これは「e-文書法」の施行によるところも大きいと思います。あらためて電子文書とは、「コンピュータ上で扱う書類」のこと。または、「ファイル」といい換えると分かっていただきやすいかもしれませんね。

e-文書法とは

e-文書法施行が企業活動に与えるインパクト
e-文書法とは 4月に施行されたe-文書法によって、紙の書類のデジタル化が加速した。コスト削減という長所もあるが、デジタル化のためのセキュリティにも留意すべきだ
Security&Trust」フォーラム 2005/7/20


 この電子文書のフォーマットとして広く普及しているのが、アドビシステムズ社の「PDF」というフォーマット形式です。このファイルを読むことができるAcrobat Readerは無償で配布されているため、PDFファイルにしておけばPCの環境を問わず、誰でも見られるからでしょう。

小島氏

PDFが業務アプリケーションのプロセスになる日
リッチクライアントベンダ・インタビュー(2) PDFの文書ソリューションが、ビジネスプロセスに与えるインパクトとは? アドビが描く将来像を小島氏に聞いた
Web Client & Report」フォーラム 2004/12/22


 帳票設計・開発ツールの中には、このPDFに対応しているものも数多くあります。対応しているとはどういうことかというと、作成した帳票レイアウトとデータを合体させた完成帳票をプリンタ上に出すのではなく、PDFファイルとして出力するのです。PDFファイルをプリンタで出力すれば、従来どおり紙の帳票として利用できます。

伊藤氏

帳票でなく、オンデマンドPDFジェネレータという考え方
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PDF以外の電子文書フォーマットも

 ただ、PDFファイルの生成は紙の帳票作成に比べると少々時間がかかる傾向があったり、日本ならではのきめ細かい帳票ニーズを満たせないこともあるため、ツールベンダの中にはPDF生成のためのエンジンを自社で開発したり、独自仕様の電子文書フォーマット(例、マイクロソフト社のXPS(XML Paper Specification))を提案したりしているところもあります。

金南甬氏

韓国からの使者、「まずは無料で帳票ツール提供」
帳票ベンダ・インタビュー(11) 韓国で帳票シェア60%を占めるというオズウェブテクノロジ。3〜10倍という生産性の高さとツール無料提供を武器に日本市場に本格上陸した
リッチクライアント & 帳票」フォーラム 2006/11/17


 後者については、このファイルを読み込むためのソフトウェアを何らかの方法で入手しなければならないので、一長一短というところかもしれません。

そして、ファイルさえも使わない“Web帳票”

 また、ファイルを使わない電子文書も出現しています。いわゆる“Web帳票”です。「Webブラウザをそのまま帳票の媒体にしてしまう」というのがこの発想。最近は、企業情報システムが次第にWebアプリケーション化しており、どうせなら帳票もWeb上で、というニーズが増えてきているのです。

岸本氏

Biz/Browserの印刷機能を強化する帳票生成エンジン
帳票ベンダ・インタビュー(15) 40万クライアントの導入実績を持つアクシスソフトのBiz/Browserに、Javaのクラスファイルとして提供される帳票生成エンジンが登場した
リッチクライアント & 帳票」フォーラム 2007/5/17


 帳票設計・開発ツールでは、PDF出力のように、設計したものをファイルとして出力するというよりも、帳票レイアウトを作成するような感覚でWeb画面を作成するといった形で実現されています。

Web帳票はWebブラウザの印刷機能が問題

 ただし、Web帳票はWebブラウザの印刷機能を使って印刷すると、ページの両端の印字が切れたり、うまく1ページに収まらないなど、帳票としては品質の低いものになってしまいます。「それではとても許されない」という場合は、ベンダの用意する専用ツールを利用する必要があります。

 さらには、「帳票」という概念を超える帳票も存在します。それは、いったい何なのか? 次ページで紹介しましょう。また、帳票の設計・デザイン以外にも、運用面で帳票活用を便利にするツールもあるので、併せて紹介します。

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