Insider's Eye企業コンピューティングに向け攻勢をかける2003年のマイクロソフト(1) ―― Windows .NET Server 2003を核として.NET戦略を加速させるマイクロソフトの新製品戦略 ―― |
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デジタルアドバンテージ |
マイクロソフトが進めるMicrosoft .NET戦略において、昨年(2002年)は.NETソリューションの要素技術と、それがもたらす可能性を評価・検証してもらうという準備期間の最終段階だったといえる。これまでマイクロソフトは、次世代の分散アプリケーション環境を実現するための要素技術として、XMLやSOAP、Webサービスなどを紹介し、.NET対応ソフトウェアを開発するためのフレームワークとして.NET Frameworkを提供してきた。そして2002年4月には、.NET対応ソフトウェアを効率よく開発するためのプラットフォームとして、Visual Studio .NETの製品版を発売した。
これによりプログラマーや情報システムのアーキテクトは、Microsoft .NETで何ができるのかという疑問を、ドキュメントからだけでなく、実際のフレームワーク(クラス・ライブラリ)や開発環境などを通して評価・検証できるようになった。
Webサービスをインフラとして使用する情報システム連携は、当初から標準化を進めていたマイクロソフトやIBMだけでなく、Sun Microsystemsを始めとするITソリューションのキー・プレイヤーたちがこぞって賛同を表明し、もはや疑いようのない大きな時代のうねりとなった。まだスタートラインに立ったばかりとはいえ、2002年は、Webサービスが次世代の情報システムを担うインフラとして機能することを誰もが認めることとなる年となった。
そして2003年、マイクロソフトは、Windows .NET Server 2003の発表を皮切りに、次々と.NET対応ソフトウェアを市場投入することで、企業コンピューティングをターゲットとする.NETソリューションを評価・検証する段階から、実装・展開する段階へと大きくステップアップさせようとしている。本稿では、マイクロソフトが2003年に発表を予定している製品や技術を整理・確認することで、その具体的なアプローチを調べてみよう。
なお、現段階で製品戦略に関して得られる資料の多くは米国向けのもので、発表が目前に迫るWindows .NET Server 2003を始め、日本語対応製品の具体的なスケジュールはまだほとんど明らかになっていない。ここ最近の実績から考えて、米国版発表からそれほど大きな時間差なしに日本語版が発表されるものと思われるが、以下の記事において、特に製品や技術の発表時期については、基本的に米国版を対象としている点をあらかじめお断りしておく。
サーバOSからアプリケーション、ミドルウェアまでを矢継ぎ早に発表
前出の発表資料から、2003年にマイクロソフトが発表を予定している製品や技術を一覧にしたのが以下の表である。サーバOSとなるWindows .NET Server 2003の発表を皮切りとして、開発環境の最新版(Visual Studio .NET)、ビジネス・アプリケーション(Office 11)、各種のミドルウェア(Titanium、Jupiter、Greenwichなど)まで、企業コンピューティングをターゲットとするソフトウェアがめじろ押しであることが分かる。
製品名/開発コード名 | 内容 | 発表時期* |
Windows .NET Server 2003 | Windows 2000 Serverの後継となるサーバ向けWindows OS | 2003年4月(米国版) |
Visual Studio .NET 2003 | Windows .NET Server 2003に搭載される.NET Framework 1.1に対応した開発環境の最新版 | Windows.NET Server 2003と同時期 |
Office 11(=開発コード名) | Office XPの次世代版となるビジネス・アプリケーション・スイート | 2003年中ごろ |
XDocs(=開発コード名) | 複数ユーザーによるダイナミックなフォーム生成を支援することで、効率的な情報収集を可能にするソフトウェア。Officeファミリの1つとして開発が進められている | 2003年中ごろ |
Jupiter(=開発コード名) | BizTalk Server、Commerce Server、Content Management Serverを統合した統合ミドルウェア | 2003年後半 |
SQL Server 2000 Enterprise Edition(64bit版) | SQL Server 2000の64bit対応版 | Windows .NET Server 2003と同時期 |
XML Web Services | すでに提供されている初期版のWebサービス仕様をベースとし、これをビジネスの現場で応用するために求められる機能性や効率、生産性を満たすように、セキュリティ機能を始めとする各種機能強化を施した新しいWebサービス仕様の提唱と開発環境の提供 | 不明 |
SharePoint Team Services | ワークグループ・コラボレーションを実現するWebベースのソリューション。企業ポータル構築向けのパッケージであるSharePoint Portal Serverとの連携も強化し、エンタープライズ・レベルの情報アクセスをも透過的に可能にする | 2003年中ごろ |
MSN Messenger Connect for Enterprises | 企業がBtoCの手段としてインスタント・メッセージングを利用可能にするコネクタ。利用にあたって多くの企業が求める各種機能(会話ログ記録、会話の監査など)が追加される | 2003年第1四半期 |
Greenwich(=開発コード名) | 音声やデータなど、さまざまな種類のリアルタイム通信フォームを統合したコラボレーション・プラットフォーム | 2003年中ごろ |
.NET Speech technologies | スピーチ機能対応アプリケーションの普及を促進するためのソフトウェア基盤 | 2003年中ごろ(.NET Speech SDK) |
MS Automotive | 自動車から各種のネットワーク情報サービスにアクセス可能にするソフトウェア・プラットフォーム | 2003年前半(MS Automotiveを実装した製品が販売される予定) |
Windows .NET Server 2003に関連し、企業コンピューティング向けとしてマイクロソフトが2003年に発表する予定の製品・技術(主要なもの) | ||
*米国版の発表時期。 |
以下、この表に記載されたもののうち、主要な製品・技術について詳しく見ていこう。
.NET Framework 1.1を標準搭載するWindows .NET Server 2003
Windows 2000 Serverの後継となるサーバOS、Windows .NET Server 2003の発表予定は4月である。マイクロソフトの言葉を借りれば、Windows .NET Server 2003は「これまで発表されたどのWindowsサーバよりも信頼性が高く、拡張されたセキュリティ機能を持ち、高速なサーバOS」ということになる。Windows .NET Server 2003の新機能・機能改善の詳細については、本フォーラムの別稿で紹介しているので、併せて参照されたい。
この一覧から分かるとおり、Windows .NET Server 2003の新機能や機能改善点は数多い。しかし.NET戦略においてWindows .NET Server 2003が担う大きな働きの1つは、.NET対応ソフトウェアを実行するための.NET Frameworkを標準搭載することだ。Windows .NET Server 2003には、最新版の.NET Framework 1.1が標準搭載される予定である。既存のWindows 2000/Windows XP環境で.NET対応ソフトウェアを実行するには、ユーザーが明示的に.NET Frameworkをインストールする必要がある。
.NET Framework 1.1の詳細については以下の別稿を参照されたい。
システムの信頼性や安定性を重視する企業ユーザーが、不要な追加ソフトウェアをインストールしたくないと思うのは自然なことだろう。特に.NET Frameworkのように、システムの根幹に影響を及ぼすと考えられるソフトウェアではなおのことだし、さらにそれがサーバ向けとなれば、たとえわずかな可能性でも「厄介の種」は避けたいと考えるのは当然である。例えばWindows XPのService Pack 1のCD-ROMには、.NET Frameworkが収録されているが、明示的に指示しないかぎり、デフォルトではインストールされない。また.NET Frameworkは、Windows Update(追加モジュールやhotfixなどをインターネットで提供するマイクロソフトのサービス)にも登録されているものの、簡単には見つかりにくい「Windows Updateカタログ」と呼ばれる奥まった場所にモジュールが置かれている(「Windows Updateカタログ」を表示する方法については「TIPS―Windows Updateのファイルを個別にダウンロードする」を参照)。このように強く意識しないかぎり、.NET Frameworkがインストールされないようにしている背景には、前述したような企業ユーザーの心理があるものと思われる。
つまり現時点で.NET Frameworkをインストールしているのは、すでにVisual Studio .NETで開発した.NET対応アプリケーションを積極的に使っているユーザーに限られる。企業の情報システムでは、実績が何より重要である。.NET Frameworkが安心して使えるものだと知らしめるためには、より多くのシステムに組み込んで使ってもらうのが早道だが、この試みは現時点ではあまりうまくいっているとはいえない。
これに対し、.NET Frameworkを標準搭載したWindows .NET Server 2003の導入例が増えれば、そこで.NET Frameworkを実際に使う.NET対応ソフトウェアが稼働しているかどうかは別として、プラットフォームとしての.NET Frameworkの信頼感は自然と高まるだろう。こうした信頼感が高まれば、.NET対応ソフトウェア開発のハードルが一段と低くなることは間違いない。
.NETソリューション実装・展開のためのWindows .NET Server 2003の機能強化
Windows .NET Server 2003は、従来は特定のシステム内部で閉じてしまいがちだったビジネス・プロセス連携をオープンなXMLベースのWebサービスに置き換え、小規模から大規模なエンタープライズ環境までをカバー可能なビジネス・アプリケーション・プラットフォームを提供する。このためWindows .NET Server 2003の製品構成としては、単機能Webサーバを想定した最下位クラスのWeb Editionから、Standard Edition(小〜中規模向け)、Enterprise Edition(中〜大規模向け)、Datacenter Edition(超大規模向け)の4種類が提供される。そしてこのうち、Enterprise EditionとDatacenter Editionについては、32bit版に加え64bit版(Intel Itanium搭載システム向け)が提供される。これらWindows .NET Server 2003の各エディションの詳細や、必要システム構成などについては、前出の「特集:Windows .NET Server 2003完全ガイド」を参照されたい。なお、「Windows .NET Server 2003レビューアーズガイド」を元にして執筆された前出の記事では、Windows .NET Server 2003 Datacenter Editionの対応プロセッサ数が32 CPUまでとなっているが、2002年12月付けのリリースによれば、64 CPUまでのマルチプロセッサ・システムをサポート予定とされている。
.NET Frameworkの標準搭載以外にも、Windows .NET Server 2003では、.NETソリューションを実装・展開するためのベース・サーバOSとして、いくつもの機能強化が図られている。このうち大きなものの1つは、コードをゼロから書き直したというIIS 6.0(Internet Information Services 6.0)だろう。Webサーバ・ソフトウェアであるIISは、Webソリューションを実装するためのアプリケーション・サーバとして重要な位置付けにあるが、既存のIIS 5.0は、信頼性やセキュリティ強度の面で不安があったのは事実である。この点IIS 6.0では、プロセス・モデルの抜本的な見直しを含めて、最初から設計をし直し、さらにXMLやSOAP、IPv6といった最新のWeb標準技術をサポートするにように改良された。IIS 6.0の詳細については以下の別稿を参照されたい。
さらにWindows .NET Server 2003では、Active Directoryの柔軟性やネットワークの利用効率が大幅に改善されている。この詳細については以下の別稿を参照されたい。
.NET Framework 1.1に対応するVisual Studio .NET 2003
Windows .NET Server 2003の発表に合わせて、開発環境であるVisual Studio .NETもVisual Studio .NET 2003(以下VS.NET 2003)にバージョンアップする。このVS.NET 2003は、開発コード名Everett(エヴェレット)と呼ばれていたもので、Windows .NET Server 2003をベースとするサーバ・アプリケーション開発をサポートする。
VS.NET 2003最大の特徴は、Windows .NET Server 2003に標準搭載される.NET Framework 1.1に対応することである。VS.NET 2003(および.NET Framework 1.1)の主要な特徴をまとめると次のようになる。
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.NET Compact Frameworkの統合――.NET Compact Frameworkは、携帯電話やパーム・トップ型コンピュータなどのPDAなどを対象に、Webサービス対応アプリケーション開発をサポートするフレームワークである。ASP.NETモバイル・コントロールによってサポートされるモバイル・デバイスは200種類を超えるとされる。
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Web Services Enhancements 1.0(WSE 1.0)サポート――WSEは、現実のビジネスにおいてやりとりされる機密性の高い情報や、完全性が求められるトランザクションなどをWebサービスを使って処理可能にするための拡張仕様(WS-Security、WS-Routing、WS-Attachments、DIMEなど)。WSE 1.0は、この拡張仕様に対応した開発キットの初期版。
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C++言語におけるANSI/ISO C++標準仕様への準拠の強化
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既存のVB環境からVisual Basic .NETへの移行支援機能の強化
WSE 1.0は、以前はWeb Services Development Kitと呼ばれていた拡張Webサービス仕様対応の開発キットを最新のWebサービス仕様に対応させたもので、.NET Framework 1.1ではこの開発キットがバンドルされる。WSE自身もまだ将来に向けて改良が続けられており、さらなる改良版が次の.NET Framework 2.0に搭載されることになるだろう。Visual Studioおよび.NET Frameworkのロードマップについては、先にもご紹介した以下の記事を参照されたい。
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