Insider's Eye

企業コンピューティングに向け攻勢をかける2003年のマイクロソフト(2)

デジタルアドバンテージ
2003/01/08


XML対応を大幅に強化するOffice 11

 現在のOffice XPの後継として、Office 11(開発コード名)が2003年中ごろに発表される。マイクロソフトの発表資料によれば、Office 11の開発目標は、「ユーザーがどのようなシステムやデバイスを使っていても、ビジネス上で記録された情報を透過的に接続可能にすること」だという。このためOffice 11では、XMLサポートを大幅に強化し、Officeアプリケーションで保存したデータを、特定のシステムやプラットフォーム、アプリケーションに依存することなく交換可能にする。具体的には、Word文書やExcelの表計算シート、Visioの図版、Accessのデータベースなどを、それぞれXML形式で保存するオプションが提供される。

 さらに重要なことは、Office 11では、Officeアプリケーションで保存したデータに対し、独自のデータ・モデルやスキーマを適用することで、データ構造をカスタマイズできるようになることである。これまでは、Officeのデータ・ファイルが独自のバイナリ・フォーマットであったため、それが障害となり簡単には連携できなかった情報が、XMLフォーマットで保存されることで開かれた存在になり、再利用の可能性が高まるとしている。

 米国では、すでに2002年10月からOffice 11のベータ・テストが開始されている(この件に関するニュース・リリース)。これに関連してか、米MicrosoftのWebサイトでは、Office 11関連の情報がかなり積極的に公開されている(残念ながら、日本語ページはまだ用意されていないようだ)。英語ではあるが、興味のある方は参照してみるとよいだろう。

ダイナミック・フォーム作成を支援するXDocs

 Officeファミリ製品の1つとして、マイクロソフトは「XDocs(開発コード名)」と呼ばれる製品を開発中である。Office 11と同時かどうかは不明だが、2003年中ごろに発表予定とされている。XDocsの詳細については、以下の米MicrosoftのWebサイトに詳細が解説されている(特に前者のドキュメントには、開発途中の画面キャプチャも紹介されている)。

 簡単にいえば、XDocsはデータベース内部の情報などを収集し、これらを操作するためのダイナミック・フォームを作成可能にするグラフィカル・ツールである。ユーザーが定義した任意のXMLスキーマをサポートし、Webサービス対応機能を搭載することで、さまざまなビジネス・プロセス統合に応用できるとされる。XDocsを利用することで、既存のデータベースや情報サーバへのアクセスや情報共有が可能になり、Webサービスを経由した異なるビジネス・システムの情報を透過的に1つのフォームとしてアクセス、操作できるようになる。XDocsでは、フォームのデザイン・プロセスの一部としてカスタム定義スキーマを生成することもできる。代表的な25種類のサンプル・フォーム(スキーマを含む)が提供されており、これを基に独自のカスタマイズを行うことも可能だ。

Titanium:Exchange 2000 Serverのマイナー・バージョンアップ

 Titanium(タイテニアム。金属元素の「チタン」のこと)は、現行のExchange 2000 Serverをマイナー・バージョンアップしたメッセージング・サーバ・ソフトウェアで、2003年中ごろの発表が予定されている(正式な製品名は「Exchange Server 2003」となる)。Titaniumの最大の目的は、Windows .NET Server 2003に対応することである。現行のExchange 2000 ServerはWindows .NET Server 2003とは互換性がなく、Windows .NET Server 2003上にインストールして使うことはできないからだ(ただしWindows .NET Server 2003で構築したActive Directory環境でも、Windows 2000 Server+Exchange 2000 Serverをメッセージング・サーバとして使い続けることは可能である。ただしこれには、Exchange 2000 Service Pack 3を適用する必要がある)。

 Titaniumの詳細については、以下の別稿を参照されたい。

 TitaniumはWindows .NET Server 2003で新たに提供されるボリューム・シャドウ・コピー(オープン中のファイルでもバックアップ可能にする機能)に対応しており、Windows .NET Server 2003にインストールすることで、メッセージング・サーバを停止することなくデータのバックアップが可能になる。またTitaniumでは、サーバとOutlookクライアント間で交換されるデータの圧縮機能の強化やトラフィック低減を実現しており、メール送受信時のネットワーク・トラフィックおよびサーバの負荷を軽減するという。

 Titaniumでは、iモードや、cHTMLWAP 2.0サポートが追加され、これらのデータ仕様をサポートするモバイル・デバイスから、メール・サーバにアクセス可能になる。

 またTitaniumをメッセージング・サーバに、Outlook 11をメッセージング・クライアントにした組み合わせでは、クライアントからサーバへの接続スピードが自動的に識別され、メッセージのダウンロード方法が自動的に調整される。このとき接続速度が遅い場合には、メッセージ・ヘッダだけがダウンロードされ、選択したメッセージの本文のみ後からダウンロードされるようになる。従来は、現在の接続方法を意識して、ユーザーがマニュアルでダウンロード方法を調整する必要があったが、その作業が自動化されるのだ。ノートPCを持ち歩いて、さまざまな場所からさまざまな接続手段(LANや低速なVPN、無線データ通信サービスなど)でメール・サーバにアクセスするようなユーザーにとっては便利な機能だろう。

Jupiter:eコマースとEIPを連携し、ビジネス・プロセスの自動化を可能にするミドルウェア

 アプリケーション・サーバを利用したeコマース・ソリューション(電子商取引ソリューション)とEIP(企業情報ポータル)などの異なる情報サービスを連携し、それらのビジネス・プロセスをトータルに自動化することが、eビジネスの成否を分ける大きなポイントになってきた。しかしこれまで、アプリケーション・サーバやeコマース・ソリューション、EIP、ビジネス・プロセスの自動化などは、それぞれ専用ソフトウェアとして提供される単独のビジネス・ツールを組み合わせて実装されることが少なくなかった。この方法では、各分野で実績を持つ製品を組み合わせることができるという長所がある一方で、刻々と変化するeビジネスの要求に合わせてシステム全体を柔軟に変化させることが困難という欠点があった。

 こうした問題点を解消し、eコマース/EAI/ビジネス・プロセスの自動化を統合的に行えるようにするために、マイクロソフトが開発中のミドルウェアがJupiter(開発コード名)である。具体的にこのJupiterでは、BizTalk Server(ビジネス・プロセス管理)、Commerce Server(eコマース・ソリューション)、Content Management Server(コンテンツ管理)という、現時点では別々のパッケージとして提供される製品群を統合する。製品発表は2003年後半が予定されている。

 JupiterはWebサービスをサポートしており、Webサービス・インターフェイスを提供するものなら、プラットフォームに依存することなく、異なるシステム間での相互運用を可能にし、ビジネス・システム統合を実現する。またシステムのコンポーネント化を進め、業種や販売形態などで多種多様な構成を求められるビジネス・ソリューションに対し、柔軟に対応できるようにするという。

64bit対応版SQL Server 2000 Enterprise Edition

 Windows .NET Server 2003の64bit対応版の発表に合わせて発表されるのが、64bit版のSQL Server 2000 Enterprise Editionである。このEnterprise Editionは、Itanium 2向けに最適化されており、64bitプロセッサが実現する広大なメモリ領域をリニアに使用することで、大規模なeコマースやデータウェアハウス、ビジネス・インテリジェンス(BI。大量に収集される企業情報を統合的に管理し、多次元データベースなどを用いてこれを整理、分析して、その結果を戦略的な意思決定に生かせるようにするツール)など、パフォーマンス・クリティカルな大規模なデータベース処理を可能にする。32bit版のSQL Server 2000との完全な互換性を維持しており、小規模から大規模まで、スケーラブルなデータベース・ソリューションをSQL Server 2000で実現できるようになる。

 さらにマイクロソフトは、SQL Serverの次のメジャー・バージョンアップとして、Yukon(ユーコン=開発コード名)を開発中だ。このYukonでは、SQL Server 2000で追加されたXML対応機能をさらに強化し、データベース・エンジンのコア部分にXML対応機能を追加するという。さらにこのYukonの技術は、次世代Windowsとして開発が進められるLonghorn(開発コード名)のファイル・システムに応用され、さまざまな種類の情報を統一的なメカニズムの上で保持可能にするユニファイド・ストレージとして機能させるとしている。Yukonの詳細については、前出の別稿を参照のこと。

一歩進んだ情報共有環境を提供するSharePoint Team Services

 SharePoint Team Servicesは、複数のユーザーが共同作業する際のワークグループ・コラボレーション環境をWebベースで実現するソフトウェアである。現在は、Office XPに含まれるFrontPage 2002の一部として同名の機能が提供されているが、これが機能強化されて新たに提供される予定だ(現SharePoint Team Servicesのホームページ)。発表予定は2003年中ごろである。

 日本国内では、Webベースのイントラネット・ソリューションを実現するGroupBoard(最新版は2.0)と呼ばれる製品が無償提供されているが、新しいSharePoint Team Servicesはこれを置き換える製品になるものと思われる(マイクロソフトのGroupBoardのホームページ)。一説によればこのGroupBoardは、日本国内で急速にシェアを伸ばしたイントラネット製品に対抗するために、日本独自に企画され、開発された製品だといわれる。米国版は提供されていない。

 新しいSharePoint Team Servicesの目的は、Office製品を通したチーム・コンピューティングを高機能化、効率化することで、メンバー間でのドキュメント共有を始めとする情報共有を可能にする。例えばSharePoint Team Servicesは、Office 11で導入される新しいドキュメント・ワークスペースと接続される。このワークスペースは、Office 11ドキュメントのタスク・ペインに表示される領域で、ここではドキュメントの編集結果がリアルタイムにチームの各ユーザーに通知されるという。またSharePoint Team Servicesで構築されたWebサイトに接続することで、ユーザーは仕事リストや予定表をほかのメンバーと共有して共同作業を行うことができるようになる。

 なおこの新しいSharePoint Team Servicesは、情報ポータル構築用のミドルウェアとして販売されているSharePoint Portal Serverとも統合されており、SharePoint Portal Serverが運用されている環境では、ワークグループ・レベルのコミュニケーションを超えて、ユーザーはSharePoint Portal Serverによって提供されるエンタープライズ・レベルの情報にもアクセス可能になるという。

企業のIM利用を支援するMSN Messenger Connect for Enterprise/Greenwich

 ネットワークを介したリアルタイム・メッセージ交換を実現するインスタント・メッセージング・サービスの利用者が急増している。マイクロソフトは、インスタント・メッセージ・ソフトウェアとしてMSN Messengerを提供している。このMSN Messengerは、インターネットで無償提供されていることや、Windows XPに標準搭載されていることなどから、多くのWindowsユーザーが利用している(ほかに、特に米国ではAOL Instant Messengerのユーザーも多い)。

 利用者が急速に増えたことで、企業は、インスタント・メッセージをBtoCの新しい販売チャネルとして活用したり、ユーザー・サポートなどの新しい顧客サービスの手段として活用したりする可能性を検討し始めている。しかし現状のMSN Messengerには、通信内容をモニタしたり、制御したりするための方法が用意されていないため、ビジネスでの利用はあまり進んでいない。

 こうした問題点を解消して、企業によるインスタント・メッセージの利用を促進させるのがMSN Messenger Connect for Enterprisesである。このコネクタを利用することで、企業ユーザーは、7500万人以上に及ぶMSN Messengerユーザーに対し、安価で簡易なインスタント・メッセージを利用して、リアルタイムなマーケティング活動を行えるようになる。具体的には、やりとりされるメッセージの内容をログとしてSQL Serverに記録し、メッセージの内容を監査したり、インスタント・メッセージが使用されるドメインを管理したりできるようになる。発表予定は2003年第1四半期である。

 またこの機能は、将来的にはWindows Server OSやActive Directory API、現在のExchange 2000に組み込まれているインスタント・メッセージング・サービスと統合されるGreenwich(グリニッジ=開発コード名。世界標準時の基点となるグリニッジ天文台があることで知られる)に引き継がれる。Greenwichは2003年半ばに発表が予定されるリアルタイム・コミュニケーション・プラットフォームで、音声やデータ・コラボレーションなど、複数の情報のリアルタイム通信を統合的に行えるプラットフォームである。

.NETがビジネス・コンピューティグにもたらすインパクトが浮き彫りに

 以上、駆け足で企業コンピューティグをターゲットとした2003年のマイクロソフトの新製品・技術戦略について見てきた。サーバOSであるWindows .NET Server 2003を核として、開発環境やビジネス・アプリケーション、ミドルウェアまで、本格的な.NETソリューション時代を迎えるための第一歩を踏み出す1年になることが分かる。Microsoft .NETがコンピューティグにもたらすインパクトについては、まだ霧に覆われて見通しが利かない部分も少なくないが、2003年が終わるころには、視界はかなりはっきりすることになろう。Windows .NET Server 2003の十分な評価と、早期導入企業の実績などを踏まえて、2003年後半から2004年には、Windows .NET Server 2003の本格的な企業への展開が始まるものと思われる。またこれとともに、ミドルウェアや上位アプリケーションも含めたトータルな.NETソリューションの普及も広がるだろう。

 Webサービスをインフラとする情報システム連携の時代は、確実に幕開けを迎えつつある。その序章として、2003年はドラマチックな1年になりそうだ。マイクロソフトだけでなく他社の動向も含めて、次世代の企業コンピューティングを占う1年になるだろう。End of Article

 

 INDEX
  Insider's Eye
    企業コンピューティングに向け攻勢をかける2003年のマイクロソフト(1)
  企業コンピューティングに向け攻勢をかける2003年のマイクロソフト(2)
 
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