XML&Webサービス開発事例研究(1)
Webサービスで運用するRFID制御システム
〜IC Serverが実現する無線ICタグ・ソリューション〜
トッパン・フォームズ(株)
玉木 栄三郎
2003/11/1
主な内容 なぜWebサービスとRFIDなのか Webサービスのビジネス展開 IC Serverによる開発例 RFIDとWebサービスの未来 |
RFIDとWebサービスの相性の良さについてはご理解いただけたと思う。だが、ここで問題が残る。Webサービスによるリーダ・ライタの制御が有益なことは分かったが、各社のリーダ・ライタのネイティブドライバをWebサービスでラッピングしなければならないという作業は残るということだ。これでは、いずれにせよ低水準APIの洗礼を受けることになる。誰か代わりにラッピングしてくれれば、それに越したことはない。そういうミドルウェア製品があれば、RFIDとWebサービスをスムーズに結び付けることが可能になる。
RFIDのAPIをWebサービス化したミドルウェアによる開発手法を紹介するに当たり、本稿ではトッパン・フォームズのIC Serverを想定した。IC Serverは各社のリーダ・ライタのネイティブドライバをWebサービスでラッピングしたミドルウェア製品である(標準構成ではFEC社のURWI-001用のみ)。利用したいリーダ・ライタと情報システム間にIC Serverを設置することにより、ネットワーク経由でのリーダ・ライタの制御を可能にする。IC Serverは単純にメーカーのメソッドをラッピングしたものではなく、想定される利用用途に適した拡張メソッドを実装している。これらのメソッドを利用することにより、開発者はRFIDシステムを迅速に開発することが可能になる。 |
図8 IC Serverの概念図 |
では、実際にIC Serverを利用したRFIDシステム開発手法を紹介しよう。ここでは、RFIDを利用したオンラインリアルタイム在庫管理(在庫数取得)システムを開発することとする。開発するシステムは次のような構成となる。
図9 デモシステムの構成図
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ここでは、マランツ社のアンチコリジョン対応リーダ・ライタICW900Fを利用し、アンテナが埋め込まれた棚上にある商品数を取得するという仕組みを実現する。RFIDシステムの典型的な利用イメージである。なお、アンチコリジョンとは、複数同時読み取り機能を意味する。
読み取り対象は小部品用の小箱にラベル型RFタグを付着させたものを用いる。
図10 ラベル(白い部分)にICチップとアンテナが付与されている
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ICW900Fにはデモプログラム用にGetStock()というメソッドを1つ実装した。このメソッドは認識しているモノの数量を返す。Webサービスを呼び出すクライアントツールとしては、InfoPathを利用する。
ExcelからWebサービスを呼び出すためには、数行とはいえコーディングが必要であった。しかし、ノンプログラミングでアプリケーションを開発することも可能だ。10月24日に発売されたばかりの新Officeのラインアップに新たに加わったInfoPathを利用すればノンプログラミングでWebサービスを呼び出すことが可能である。ここでは、InfoPathでの構築例を紹介する。
InfoPathでオンラインリアルタイム在庫管理システムを構築する
- InfoPathを起動し、【新しいフォームのデザイン】 → 【データソースから新規作成】を選択する(下図)
- データソースとして【Webサービス】を選択する
- 在庫情報を取得したいので【データの受信】を選択する
- リーダ・ライタのURL(WSDL)を指定する(下図)
- GetStock()という命令が見つかる(下図)
- 【クエリビューを最初にデザインする】を指定する
- ウィザードを完了させる。クエリを既定のビューにし、【コントロール】からテキストボックスを選択し、フォームにドラッグ&ドロップする(下図)
- dataFieldsを展開し、GetStockResultを選択する(下図)
- フォームのプレビューを実行する(下図)
- 在庫数が3(個)と表示された(下図)
ここでは省略するが、Visual Studio .NETはもちろん、WebShpere(WSAD)などのJ2EE開発環境においても、ほぼ同様のステップでWebサービスを利用できる。また、ビジネスアプリケーション開発ツールだけでなく、DreamweaverなどのWebサイト構築ツールからも利用できる。
Webサービスのインターフェイスを備えた、リーダ・ライタ制御ミドルウェアIC Serverを利用すれば、いとも簡単にオンラインリアルタイム在庫管理システムが構築できることがお分かりいただけたかと思う。このようなシステムを従来の技術で開発しようとした場合、簡単なデモプログラム作成でも少なくとも数日は必要となる。IC Serverを使用すれば、使用しない場合の数分の1のコストでRFIDシステムを開発できる。また、ExcelやAccessなどからも制御できるため、大規模開発に当たってのプロトタイピングなども気軽に行うことができ、システム設計ミスも最小限度に抑えることができる。
RFIDの可能性
RFIDおよびWebサービスを効果的に活用すれば、いままでは不可能、あるいは困難であったシステムを容易に構築できることを理解いただけたかと思う。本稿では、オンラインリアルタイム在庫管理システムの構築を例にしたが、RFIDはそのほかにも次のような分野に応用できると考えられている。
食品などのトレーサビリティシステム
現在でも、バーコードを使用したシステムはあるが、偽造も容易なことから、信頼性の問題が指摘されている。RFタグなどをバーコードの代わりに利用すれば、偽造も困難であるほか、書き込み可能という特性を生かし経路情報の保存が可能なため、より精度の高いトレースが可能となる。また、食品以外にも、家電製品や自動車用の部品などをRFタグにより管理することで、不具合が生じた場合などに早急なリコール対応を実現するシステムが検討されている。
CRMシステム
RFIDはモノを認識する目的が主流と説明したが、SuicaやEdyなどで実現されている、非接触による個人認証の利便性をCRMへ応用しようという試みもある。店舗の入り口などにリーダ・ライタを設置しておき、来店時にスキャン(タッチ)してもらう。それにより、来店ポイントを付与したり、お勧め情報を表示したりするシステムが開発されている。
RFID普及への課題
さまざまな分野で活用が期待されるRFIDであるが、問題がないかというとそうではない。一般的に普及するためにはまだまだ解決しなければならない問題も多い。ここでは、現時点においてRFIDが抱える問題点について解説する。
標準化問題
ある企業が自社のクローズドな環境下でRFIDを利用するのであれば、どのようなRFID技術を使用しても問題はない。しかし、複数の企業間で情報を共有しようとする場合、互換性が確保される必要がある。このような情報の互換性を保つための標準化作業が、複数の団体により進められている。代表的なものとしては、マサチューセッツ工科大学(MIT)発のAuto-IDセンター、東京大学発のユビキタスIDセンターが有名であるが、近々に決着がつく様子はない。
多くの企業にとって標準化の見通しがつくまでは大規模な投資は避けたいというのは当然の話であり、標準化の遅れはRFID普及の障害となっている。
RFタグの価格の問題
RFタグは次世代のバーコードともいわれているが、これはRFタグの導入には厳しいコストが要求されるということを意味している。バーコードは多くの場合、パッケージの印刷と同時に付与されているので、バーコードを付与するためのコストは事実上ゼロに近い。しかし、RFタグの場合は後から付与しなければならないことに加え、部材費用が印刷に比べ絶対的に高いため、コストダウンが難しく、導入の際の障壁となっている。現在のRFタグの価格は安いもので100円前後であり、10円以下にならないと、普及は難しいとされている。しかし、ポストバーコードという限られた観点では、RFIDが持つ可能性を過小評価してしまう可能性もある。RFIDの特性が生きる分野への応用を積極的に考えるべきである。
通信距離
現在、国内で使用できるRFIDの通信距離は、最長で2m程度である。しかし、実運用環境においては1m以下か数十cm程度となる。この通信距離では、少なくともトラック全体を一気に読み取るとか、棚全体を一気に読み取るといったことは不可能である。UHF帯が開放されれば、3〜5m程度の通信距離が確保できるとされているが、逆に読みすぎという問題も発生する。隣の棚にある商品を誤読したり、他人のショッピングカート内の商品を誤読するような問題が発生する可能性が出てくるのである。このような問題を解決するためには、単純に通信距離を伸ばすということでなく、利用シーンに合わせて、出力をコントロールしたり、読み取り範囲を限定するような仕組みを確立する必要があるだろう。
金属対応
現在のRFID技術では、認識対象物が金属であったり、認識対象物の近くに金属が存在していると、認識精度や通信距離が落ちる。金属ケースに入った認証物を読み取ることはほとんど不可能に近い。しかし、実際の利用環境を想定した場合、金属でできていない倉庫や棚はない。このような観点からすれば、RFIDは実運用ではほとんど使えないということになる。金属対応タグという製品もいくつか存在しており、金属に付着させても正常に機能する。しかし、ある程度通信距離が制限されたり、タグにある程度の大きさや厚みを必要とするため、すべての用途に利用できるというわけではない。
この金属対応への問題は、楽観視できない根深い問題である。なぜなら、このような問題はRFIDの物理的基本特性に起因しているものであり、そうやすやすと解決しそうにはないからである。現在RFID業界における技術革新には目を見張るものがあるが、その進歩のベクトルはメモリ容量増、小型化、マルチ周波数対応などの方向に向いており、金属対応への明確な解決案を提示するものとはなっていない。
逆に考えれば、RFIDとはこういう特性(制約)を持つ技術であるということである。金属があると認識できないという問題は、バーコードに対して、見えないと認識できないから問題だといっているのとほぼ同等であり、その特性を理解したうえで、適材適所で利用することが得策かもしれない。
Webサービスの可能性
RFIDにさまざまな問題があるにせよ、既存技術では解決できない多くの問題を解決してくれることは間違いない。そしてシステムとしての具現化ステップにおいてWebサービスが大きな役割を担うことは間違いない。現在まで議論されてきたWebサービスの活用方法の多くは、実のところほかの技術をもって代替できるケースも少なくなく、なぜWebサービスなのか、誰に何のメリットがあるのかがもう1つ不明確であった。しかし、企業内、企業間でのデータ連携の需要が増加し、RFIDなどのNon-PCデバイスとの連携、リアルタイムシステムへのニーズが高まるにつれ、Webサービスでなければ実現できない要求は日々増加している。
■最後に
RFIDとWebサービスという話題を取り混ぜながら、解説したため、理解しづらい個所もあったかと思うが、1人でも多くの人に、RFIDやWebサービスを身近に感じてもらえたなら幸いである。
2/2 |
Index | |
開発事例研究(1) Webサービスで運用するRFID制御システム |
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第1部 なぜWebサービスとRFIDなのか Webサービスのビジネス展開 |
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第2部 IC Serverによる開発例 RFIDとWebサービスの未来 |
■連載
1. Webサービスで運用するRFID制御システム
2. リレーショナルDBへの挑戦
3. BIソリューションを支えるXML/Webサービス
「XML&Webサービス開発事例研究」 |
- QAフレームワーク:仕様ガイドラインが勧告に昇格 (2005/10/21)
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