短期連載:SOAベンダ動向レポート(2) Page 2/2


「実用フェイズ突入」を宣言したBEAのSOA戦略

岩崎 史絵
2004/12/10

BEAはJ2EEサーバをSOA実現の基盤とする

 では、その再利用を実現する技術は何か。BEAは「J2EEに準拠すること」と明言している。同社の「BEA WebLogic Server」はすでにJ2EEサーバ市場で大きなシェアを得ており、この強みを前面に打ち出す戦略は当然の選択といえよう。J2EEアーキテクチャ上にJCP(The Java Community Process Program)で定義されたオープンスタンダードなJava技術を用いることで、SOA実現のプラットフォームとするのがBEAのSOA戦略といえる。

 
日本BEAシステムズ
チーフ テクニカル ストラテジスト
伊藤敬氏
 

 同社のチーフ テクニカル ストラテジストの伊藤敬氏は、「WebLogic Serverを中核としたWebLogic Platform上でSOAを実現するには、J2EEベースのコンポーネントである『コントロール』を開発し、これをJMS(Java Messaging Service)やJTA(Java Transaction Access)などの技術を用いて同期・非同期のメッセージに乗せてつないでいきます。WebLogicでは『コントロール=サービス』となります。各コントロールの背後には、Webサービスのインターフェイスを備えた既存のアプリケーションがあるわけです。これらのコントロールを制御する機能、すなわちビジネスプロセスのフロー制御はWebLogic Integrationで行います」と語る。

 WebLogic Platformの構成は、WebLogic Serverをベースの実行環境とし、その上にStrutsベースのJ2EEアプリケーション・フレームワーク「WebLogic Workshop」を配し、ビジネスプロセス統合の「WebLogic Integration」、XMLを介したデータ連携フレームワークの「Liquid Data for WebLogic」、ユーザー統合のためのポータルを提供する「WebLogic Portal」が搭載される。

 図1 WebLogic Platformの構成要素

 そしてこのアーキテクチャが他社SOA製品と大きく異なる点を伊藤氏は「コントロールとBPM、さらにはポータルやデータ統合まで、すべてのコンポーネントは同じJava VM上で動くJ2EEプログラムです。つまり『再利用(コントロール)』と『連携(BPM)』をWebLogicという1つのアプリケーションサーバ・インスタンス上で実行できるのです」と強調する。

 一般に、アプリケーションサーバやEAIなどのミドルウェアベンダでは、アプリケーションとワークフロー/BPMの実行エンジンを別々に提供しているケースが散見される。BEAの場合、WebLogic Serverというシングルインスタンスの環境においてSOAを実現できることが最大の特徴だ。「例えばSOAを本格的に実現するためにIBMのWebSphereを導入するのであれば、インストールCD-ROMだけで50枚以上は必要だそうですが、WebLogicなら1枚のCD-ROMをインストールすればSOAの実行基盤が整うのです」と、保阪氏はシンプルな製品構成をアピールした。

開発環境とオープンソース戦略「Beehive」

 一方、開発環境についてはどうか。BEAのいうように、SOAの後ろに「迅速なシステム開発を」というビジネスニーズが控えているなら、アプリケーションの開発自体もスピードアップさせなければならない。

 これについて同社では、単一の統合開発環境のWebLogic Workshopを提供するという戦略を取っている。図1では左側に描かれている部分だ。この図の意味するところは、「WebLogic Workshopを使えばSOAのサービスそのものであるコントロールの開発、それをBPMに基づいてフロー制御する記述(実際にはドラッグ&ドロップで実現)、ユーザーインターフェイスを構築するポータルなど、すべての機能を1つの開発ツールで行える」(伊藤氏)、つまり開発生産性が高いということになる。

 そしてWebLogic Workshopの開発環境をより多くの開発者に浸透させるため、BEAが2004年8月に発表したのが「Beehive」である。図1の右側、アプリケーション・フレームワークとして描かれているWebLogic Workshopに注目してほしい。WebLogic Platformの製品構成ではWebLogic Workshopという名称が開発ツールとフレームワークの両方に使われているので注意が必要だ。BeehiveはフレームワークとしてのWebLogic WorkshopをオープンソースのApache財団に寄贈したもの。BeehiveはStrutsをベースにBEAが拡張機能を付加したJ2EEアプリケーション・フレームワークだ。ただし、BeehiveでSOAコンポーネントを作成することは可能だが、ビジネスプロセス統合の機能は含まれない(WebLogic Integrationが必要)。また、開発ツールのWebLogic Workshopとは別物なので、グラフィカルな開発ツールを使うのであれば、EclipseにBeehive用プラグイン(Pollinate)を搭載することになる。

 Beehiveの狙いは2つある。SOAのフレームワークをオープンソース化することでWebLogic Serverだけでなく、TomcatやJBossなどのオープンソース系アプリケーションサーバや、WebSphereなど競合製品でも実行できるようにし、多くの技術者を巻き込むこと。もう1つの狙いは、再利用できるSOAコンポーネント=コントロールを増やし、その流通を促進することにある。再利用できるコンポーネントが普及すれば、それだけSOAに基づいたシステム開発が容易になり、SOAそのものが普及することにつながる。ひいてはBEA製品の販売に寄与するというわけだ。

 Beehiveの登場から約半年たった2004年11月現在で、一般の技術者が作成したコントロールはすでに90個になるという(BEAのサイトで公開中)。ただ、BEAの思惑どおりコントロールがSOA標準コンポーネントとして普及・流通するようになるかは、今後の推移を見守らなくてはならないだろう。

ESB「プロジェクトQuickSilver」は次期バージョンで搭載?

 多くのSOAベンダが2005年の目玉として開発を進めているのがESBである。SOAを実現するのに必要なメッセージ基盤であるESB実装に対して、BEAは2004年6月に「プロジェクトQuickSilver」を発表している。この製品版は、おそらくWebLogic Platformの次期バージョン(2005年発表か)に搭載されるだろうと保阪氏は示唆した。IBMの代表的なメッセージング・ミドルウェア「MQ」など、多くの非同期通信プロトコルに対応するようだ。

 「SOAを構成する要素技術・J2EEやWebサービスは、もはや企業システム開発に必須となっています。つまりSOAは、技術的にいえばもう実現段階にあるということ。単なる概念ではないことは、BEAの製品を見ればお分かりでしょう」(保阪氏)。実際にWebLogic上でSOAを実現しようとしている国内ユーザーも存在する。再利用というキーワードをベースにしたBEAのSOAは2005年中には、「論」ではなく「現実の事例」として発表されるそうだ。

 次回はマイクロソフトのBizTalk Server 2004を取り上げ、同社の目指すSOAの実像に迫る予定だ。(次回へ続く)

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 Index
短期連載:SOAベンダ動向レポート(2)
「実用フェイズ突入」を宣言したBEAのSOA戦略
  Page 1
・SOAをめぐる「技術者」と「ビジネス・ピープル」の温度差
・「ビジネスプロセスに準拠した連携」と「再利用」
Page 2
・BEAはJ2EEサーバをSOA実現の基盤とする
・開発環境とオープンソース戦略「Beehive」
・ESB「プロジェクトQuickSilver」は次期バージョンで搭載?

SOAベンダ動向レポート


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