渋谷に現れたリーナス、日本の技術者らと懇談
2001/5/31
前回の来日は6年前。「当時、小さな店でレーザーファイブのパッケージ製品を見かけたぐらいだった。このころは“Linuxって簡単なUNIX”と思われていた」とトーバルズ氏 |
Linuxは、リーナス・トーバルズ(Linus Torvalds)氏がヘルシンキ大学在籍中に作成したというのはあまりにも有名な話だ。はじめて彼がLinuxのバージョン0.02を発表してから10年が経過、いまではLinuxを利用するユーザーは数十万人ともいわれている。
そのリーナス・トーバルズ氏が自叙伝「Just for Fun」(邦題:『それがぼくには楽しかったから』小学館プロダクション刊)の日本語版出版を記念して来日、5月30日に東京・渋谷で日本のLinux支持者や企業関係者とディスカッションを行った。
「絶対にスピーチをしないってことが条件で来日した」と開口一番にトーバルズ氏は言う。「人に披露するようなメッセージはないし、何かを伝えたいとも思わない。今日は日本の現状を知りたくて来たんだ」。
そんなトーバルズ氏のリクエストに答え、ある出席者は、日本IBM、富士通、日立、NECの4社がLinuxをベースに基幹業務システムを共同開発する計画を紹介する。「エンタープライズの領域に対応できるように取り組んでいる段階」という説明に対し、トーバルズ氏は「日本では、企業とアソシエーションのどちらが関与する比率が高いのか?」「開発をしているのは個人の開発者?それとも企業プロジェクト?」と質問を投げかけるなど、自分の作り上げたOSが海の向こうでどのように発展しているのかに強い興味を示した。
話が技術のことになるととりわけ目を輝かせる。根っからの技術者の一面をのぞかせるが31歳、3女の父でもある |
日本の技術者に求めるもの
Linuxは、トーバルズ氏の呼びかけに応じたプログラマーたちが互いにアイディアを出し合い、オープンソース・コミュニティの間で発達していった歴史を持つ。「日本は熱心なプログラマーが多いと聞いている。技術に関する知識のレベルも高いと確信しているが、日本の情報が入ってこない」とトーバルズ氏は言う。「言語の壁のせいだろうか?――もっとオープンになって(発言して)ほしい」。
同氏の発言に同意するかのように、「日本の開発者は貢献が少ないと言われているが、実際はたくさんある。そういった人々が表に出てこないのは、“ハッカー”と“クラッカー”の言葉の定義が明確になっていないことも原因なのでは」という見解を示す日本人関係者もいた。
ディスカッションのテーマがビジネスになり、いくつかの企業がLinuxを用いたビジネスを紹介した。SGIの関係者は「RoboCup」プロジェクトを披露。同プロジェクトは、2050年にプロのサッカーチームにロボットのチームが勝つことを目指し、Linuxを用いて開発を行っているものだ(「コンファレンスが充実、秋のLinuxWorld Expo開催」参照)。このプレゼンテーションを見ながら大爆笑したトーバルズ氏は、「いつも驚かされるのは、予想もしない用途にLinuxが使用されることを知ったとき。IBMのLinuxウォッチにしろ、このRoboCupにしてもね」
「プログラミングは“Fun”(楽しみ)」
どうして自分でビジネスにしなかったのか――「すばらしい技術が商品化されるとなると作業の90%はマーケティングなどの技術以外の部分。そんなことには興味はない」。お金への興味がなかったことが理由はではないらしい。「実際、収入に関しては心配していなかった。プログラムが書ける開発者だったら職には困らないっていう確信もあったから」。
最後に参加者と記念撮影 終始笑顔だった |
トーバルズ氏は今でもビジネスという側面にはあまり欲がないようだ。商標についても、「僕がLinuxの商標を確かに持っている。でもこれは自分にとって大きな関心事ではない。日本が唯一、商標が取れなかった国だけど、これにも内心ほっとしているんだ」と語る(日本ではLinuxの商標は“一般的な言葉”という理由で取れなかった)。「忘れられがちなことだけれど、Linuxというシステムは開発者の熱心さが作り上げてきたもの」
最後にトーバルズ氏にプログラミングとは何かを聞いてみた。「僕にとってプログラミングは“Fun”(楽しみ)にすぎない。オープンソースにはコミュニティで作り上げていくという醍醐味がある。サッカーチームのメンバーが同じ目的に向かって力を合わせてプレイすることと同じ。プログラミングの場合は、体ではなく頭脳を使うという違いだけだよ」。
(編集局 末岡洋子)
[関連リンク]
NECの発表資料(4社共同でエンタープライズLinuxを推進)
IBMの発表資料(4社共同でエンタープライズLinuxを推進)
日立製作所の発表資料(4社共同でエンタープライズLinuxを推進)
富士通の発表資料(4社共同でエンタープライズ
Linuxを推進)
RoboCupのページ
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