悪循環を断ち切る効率的なシステム開発を考える
2001/6/16
企業にとっての情報システムの位置付けは、ここ10年ほどで大きく変わった。情報システムは、かつてはコストがかかるものだったが、今では利益を生む重要な仕組みとなった。システム開発の重要さはわかったが、“ドッグ・イヤー”と形容される環境の変化の速さに、かかるコストとリスクの分析を十分に行うことなく開発に着手しているケースが多いという。「“インターネット・タイム”という概念が大災害を引き起こしかねない」――日本ガートナーグループ ジャパン・リサーチ・センター リサーチ・ディレクター 丹羽正邦氏の警告だ。
同氏は6月13日、都内で開催された日本ガートナーのイベント「IT Services&ROIT conference 2001」で、「適切なシステム開発」と題して講演を行い、企業の情報システム開発の現状を分析し、見直しの必要があるとの見解を示した。
世界のインターネット人口は今年中に7億人に達すると予想され、企業にとってeビジネス・アプリケーションがますます重要になっている。魅力的なeビジネスの仕組みの構築は、どの企業も共通して望んでいることだが、コストの問題、さらには環境の変化の速さからくるリスクもあり、即効の解決策はなかなか見つからない。
悪循環で流出するコスト
丹羽氏によれば、現在アプリケーション開発にかかるコストを分析すると、新規開発が圧倒的で、機能拡張、保守・メインテナンス、インフラ・管理の3項目に向けられるコストは新規開発の半分以下だという。しかもこの傾向は3年前と変わっていない。「ソフトウェアのベスト・プラクティスよりタイム・ツー・マーケットを重視した結果、過去の資産が“使い捨て”状態になり、いつまでたっても新規開発にコストを割くという悪循環を生んでいる」。これでは効果的なIT投資とはいえない。
丹羽氏は、保守・メインテナンスと機能拡張に重点をおいたコストの内訳が理想的とする。そのためには、「専門家、プロセス、方法論、ツールを駆使する必要がある」と丹羽氏。無作為に短期開発を選択し、悪循環を抜け切れない企業の80%は、きちんとした方法論に基づき開発を行った企業に比べ、将来的に10倍のコスト高となるという。
この悪循環は情報システム部だけの責任ではない。丹羽氏は経営側の認識の欠如も要因として指摘する。経営側は“システム構築が終わればコストはかからない”と、維持や保守にコストを割くことの必要性を認識していない傾向があるという。「車を買えば維持費がかかる。システムも同じこと」。運営や維持に関わるコストは、あらかじめ計画や管理することが難しい間接コストであるからこそ、「把握・認識し、意思決定の重要な材料とするべきだ」と丹羽氏はいう。
障害対策は必要なコスト
丹羽氏がコストを割くべきだと主張するもう1つの分野が、障害対策だ。システム停止などの障害はeビジネスの世界では致命傷となる。障害発生の原因の20%が技術によるもの。効果的な障害管理や変更管理プロセスを実装すれば、停止時間を15〜30%短縮することが可能だという。
現在、テストツールを利用すればバグなどの欠陥を検出できるが、特に日本ではテストツールを用いる企業が少ないと丹羽氏は指摘する。「バグの検出が早いほど、修復にかかるコストは低く抑えられる」と、欠陥の早期検出によるメリットを挙げた。
人材のアウトソースは?
アプリケーション開発にかかるコストの79%は人件費だ。人件費は抑えられるのだろうか。スキルを持つ技術者の不足があらゆる企業で悩みの種となっているだけに、興味あるところだ。
最もコスト効率の高い方法で案件に対応するというのが丹羽氏の提唱だ。現在、アプリケーション開発・運用を行う人員の70%が社員、20%が社外のプロフェッショナル、10%がASPという。同氏は2002年にはそれぞれの比率が35%、40%、25%に推移すると予想している。ASPの急速な進展を示唆しながら、「ビジネスの知識と技術的知識の2方向から必要技術と役割を分析し、社内でサポートするものと外部に委託するものを分ける」、つまり必要に応じてアウトソーシング・サービスを使うことが重要だとした。
丹羽氏はまとめとして、「先端技術よりも方法論、プロセスや手順の構築、トップダウンによる品質確保、品質に対する認識の向上と責任体制、といったことを企業は重視する必要がある」とした。そして、米国ではカーネギーメロン大学で考案された「CMM(Capability Maturity Model;能力成熟モデル)」など、効果的なソフトウェア開発投資に向け、積極的な研究・取り組みが進んでいることも紹介した。
(編集局 末岡洋子)
[関連リンク]
日本ガートナーグループ
カーネギーメロン大学のCMMのページ(英語)
[関連記事]
コンポーネントの再利用、実現間近か?
(@ITNews)
eビジネスソリューションの次なるビジネスは?
(@ITNews)
ガートナーの戦略提言イベント、eビジネス戦略とは変化を捉えること
(@ITNews)
情報をお寄せください:
最新記事
|
|