ITRONシェアに食い込めるか、OSEが戦略を明らかに

2001/8/22

 リアルタイムOS(RTOS)はこれまで、カー・ナビゲーション・システムをはじめ、さまざまな機器に搭載されてきた。ポストPC時代のいま、携帯情報端末や情報家電にも利用されるRTOSはホットな技術の1つだ。

 オーエスイー・システムズ(OSE)は、エリクソン、ノキア、ルーセント、アルカテル、富士通やサムソンといった顧客をもつRTOSの大手。2000年末、日本市場の成長に備えて日本法人を設立、本格的に日本市場で事業展開をはじめた。同社代表取締役社長 オードリアン・ルベーン(Adrian Leufven)氏に、RTOSの市場全体や技術動向、日本市場での戦略について語ってもらった。

オードリアン・ルベーン氏。「日本でのビジネスに必要なのは“忍耐”と学んだ」と語る

社名を新たに、市場に挑む

 RTOSの最大の特徴は時間。重要なアプリケーションが優先的にCPUリソースにアクセスできるよう設計されている。例えば携帯電話の場合、通信に関係するプロトコルが最優先される。現在、その用途は、カーナビ、携帯電話やPDAなどのワイヤレス分野、基地局などの通信インフラ分野、航空や工場などの人命に関わる安全管理分野などがある。

 OSEの提供するRTOS「OSE」は、1980年代、親会社であるスウェーデンのエニア・グループが開発した。エニア・グループはその後の1996年にRTOS事業を分離し、「エニアOSEシステムズ」を設立、RTOS事業に乗り出した。今年、同社は名称を「OSEシステムズ」に改め、本社をスウェーデンから米・サンノゼに移した。「弊社はこれまでの開発フェーズから、新たなフェーズに入った」とルベーン氏。携帯端末の発展が期待される市況を受けて、本格的にマーケティングや販売を行う体制を整えた。

新世代のRTOS、IPv6にも対応

 現在、ワイヤレス分野に限ったRTOS市場を見ると、最大手はWind River。日本ではITRONがシェアトップといわれている。「OSEは世界市場では第2番手につけている」とルベーン氏。同社は、OSEの持つメッセージ・パッシング機能で差別化を図る構えだ。メッセージ・パッシングとは、メッセージ・ベースのアーキテクチャにより実現した機能で、既存のRTOSがセマフォやメールボックスを使ってプロセス間通信を同期化していたのに対し、これらを使わずに同期を実現する。「よりシンプルで、安全性も高く、マルチCPUシステムをサポートするので分散環境でも利用できる」(ルベーン氏)。現在このアーキテクチャを採用しているRTOSベンダにQNXソフトウェアなどがあるが、最大手のWind Riverにはこの機能はない。

 日本市場のライバル、ITRONに対しての優位性は、「パフォーマンスと安全性。安全性に関しては、OSEは、CPU内のメモリ保護機能であるMMU(メモリ管理ユニット)をサポートしている。また、コストや開発にかかるスピード(タイム・ツー・マーケット)といった点でも優れている」とルーベン氏。現在、同社の日本市場での顧客のほとんどは他のRTOSからの乗り換え。そのうちの50%がITRONからの乗り換えという。同社は年内にも、ITRON3.0のAPIを持つアプリケーションがそのまま移行できるよう、OSEにレイヤーを載せて提供する予定だ。

 「これからの技術面での課題は2つ。1つ目は、インターネット・セキュリティ・プロトコルやルーティング・プロトコルのサポート。OSE上で動作するミドルウェアで実現されることになる。2つ目が、サポートするCPUの種類を増やすこと。現在、PowerPC、ARM、DSPをすでにサポート済みだが、来年初めにはMIPS、SH(日立製作所の32ビットRISCプロセッサ)をサポートする予定だ。CPUの広範なサポートは、競争優位につながる」

 また、同社は他社に先駆けてIPv6対応を発表した。スウェーデンのInterpeakのIPv4/IPv6両方に対応するデュアル・プロトコル・スタック「IPNET」を「OSE」に統合し、出荷を開始している。現在、3G対応携帯端末メーカーを対象に提供している。

順調なスタートを切った日本法人

 「日本市場はアメリカに次ぐ世界第2の市場。日本法人設立から6カ月が経過したが、日本ビクター、ソニー、NEC、富士通といった顧客を獲得でき、順調な滑り出しだ」と、ルベーン氏。難しいといわれることが多い日本市場参入だが、感触は悪くないようだ。「日本企業は現在、これまでの社内開発から、市場から製品を調達して開発するモデルに移行しつつある。弊社にとってはチャンスといえる。戦略としては、組み込み市場で強い企業とパートナーを組んで展開していく」。OSEは現在、2社とパートナー契約の話を進めており、9月には発表できるという。

 今年は足固めの年として、日本法人の目標の売上高を8000万円としている。来年以降のOSE全体の目標成長率が50%。「これに達するためには日本市場で100%の成長率を達成したい」とルベーン氏は意欲を見せた。

(編集局 末岡洋子)

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