Mobile IPをベースに付加価値を提供するシスコ

2002/1/17

 モバイルで先行しているといわれる日本でも、ビジネス分野となると普及しているとはいえないのが現状だろう。だが、少なくともインフラに関しては、準備は整いつつあるようだ。千葉・幕張で1月17日まで開催中の「3G Mobile World Summit」のために来日した、米シスコシステムズ モバイルワイヤレス担当バイスプレジデント兼ジェネラル・マネージャー ラリー・ラング(Larry Lang)氏が、モバイルでの同社のビジョンについて説明を行った。モバイルの世界でも王座を狙うシスコ、同社の戦略シナリオは、ビジネス市場へのフォーカスと付加価値の提供でライバルに差をつけるというものだ。

「市場はほぼ整った」とラリー・ラング氏。ここ2〜3年でMobile IPが急速に普及すると見ている

 ラング氏はまず、混同しがちな“モバイル”と“セルラー”の違いについて説明した。同氏によると、セルラーが単なる移動通信体を指すのに対し、モバイルは、“モビリティ(=移動性)”を伴う移動通信であるという。「いつでもネットワークに接続でき、必要な情報・サービスにアクセスが可能な環境がモバイル」(ラング氏)。モバイルが進化し、将来はインターネットそのものがパーソナルアシスタントとなるというのがシスコのビジョンだ。モバイル通信事業者に対し、セルラーの提供からモビリティの機能提供を呼びかけているという。そこで重要な役割を果たすのがIP。「IPの最大の利点は、環境が異なっても柔軟に対応できること。IPをベースとしたMobile IPネットワークの構築が必要」とラング氏は語る。

 有線でのルータ・スイッチ市場を文字通り制覇した同社は、モバイル分野でも積極的に研究開発を進めてきた。フォーカスはビジネス市場に絞っている。「ボーダフォンの収益の半分は上位10社のビジネスカスタマーからという。そのくらいモバイルでのビジネス市場は大きい」とラング氏は語る。顧客経営陣との関係を密にしてニーズを探るほか、同社自身もワイヤレスLAN環境など、社内ネットワークにモビリティを取り入れ、問題点の発見と改善に努めているという。シスコの描くアーキテクチャは、Mobile IPをベースとし、デバイスやアクセス方法に依存しないネットワーク。アプリケーションとしては、電子メールやWebブラウザ、SFAなどの営業支援ツールなどを想定している(下図参照)。

シスコのMobile IPネットワーク(クリックで拡大)

 シスコはこれまで、「Cisco IOS Software」でMobile IPをサポートするなど、コア層の製品を提供してきた。主要な事業者はなんらかの形で同社の製品を使用しており、この分野の世界市場で同社のシェアは60〜80%を占めるという。日本でも、NTTドコモ、KDDI、Jフォンらは同社のユーザーだ。さらに、約2年前から“アグリゲーション層”として付加価値となる機能の提供も開始した。「IPの重要性が増すと、差別化が図れるアグリゲーション層が必要となる」(ラング氏)。シスコでは、認証、課金、QoS、サービス選択といった機能を各種の製品に付加している。例えば、QoSでは、複数のトラフィックが発生している時にコンテンツの種類やアクセス手段などに応じて優先順位をつけることが可能だ。この分野では今後、VPNなどの機能を提供する予定もある。

 また、コンテンツのスイッチングでは、事業者はパケットのヘッダだけではなくコンテンツの中味を見ることも可能となるため、柔軟な課金システムをエンドユーザーや広告主に提供できるようになる。また、要求のあったデバイスの種類を把握し、リアルタイムにユーザーのデバイスに応じたコンテンツを配信することも可能となるという。例えば、端末の画面に応じて画像を圧縮するといったことが実現する。 

 「付加価値の提供は、今後重要性を増すだろう。ユーザーはよりよいサービスを提供し既存顧客を維持できるだけではない。新たなビジネスチャンスへの発展にもつながる。シスコはこの部分でも積極的に展開する」とラング氏は語る。「モバイル・インターネットは機能、構造ともに複雑。だが、シスコは、ユーザーがこれらの複雑性をユーザーに感じさせず、シンプルで使い勝手の良いサービスを提供することを可能にする」(ラング氏)。

(編集局 末岡洋子)

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