[ガートナー特別寄稿]
Linuxバブルははじけてしまったのか?


ガートナージャパン
ジャパン リサーチ センター リサーチディレクター
栗原 潔

2002/4/5

 バブルの後には必ず反動が訪れる。Linux市場もバブルの反動期にあると言ってよいだろう。実際、2000年後半からLinux専業ベンダの市場撤退、吸収合併、業務停止のニュースが続いている。

 例えば、Linuxを基幹業務向けに適用するためのクラスタ製品を販売していたMission Critical Linuxは3月に従業員の90%をレイオフした。IPO時に公募価格の7倍以上の株価をつけ米NASDAQの記録を作ったVA LinuxもLinux向けハードウェアビジネスから撤退し、現在はコラボレーション系のソフト製品を販売する会社へと転身している(社名も『VA Software』に変更)。数少ない勝ち組であるRed Hatもその株価は5ドル前後と、最盛期の150ドルと比較すると30分の1に過ぎない。

 「派生製品もオープンソースでなければならない」というGPL(GNU Public License)の規定は、資本主義社会において継続的に成長していかなければならない企業の論理と相容れない部分が多い。「仮にソフトを無償配布しても、サービスで収益を上げられる」としていた多くのLinux専業ベンダの読みは甘すぎたということが判明したわけである。

 つまり、「Linuxで儲けることは困難」ということだ。しかしこれは、「Linuxを使ったソリューションで儲けることが困難」と言っているわけではない。

 先日の記者会見において米サン・マイクロシステムズの会長兼CEO スコット・マクニーリ(Scott McNealy)氏は、「Linuxはハードウェアで言えばDRAMのようなものだ」と発言した。これは実に的を射た発言だろう。言うまでもなく、DRAMはコンピュータに不可欠な構成要素だ。しかし、DRAMそのものを製造販売して利益を上げられる企業は、世界的にも限られている。多くのベンダはDRAMを搭載したシステムを活用したソリューションを販売することでビジネスを成長させているのである。

 Linuxそのもので儲けようとする企業のバブルははじけてしまった。しかし、これはLinuxベースのソリューションの市場の将来性がないということでは全くない。実際、多くのシステムベンダがLinuxに対して積極的な投資を行い、かつ、ビジネス上の成果を上げてきている。

 IBMは、大手システムベンダの中では最もLinuxに力を入れており、2001年には10億ドルの投資を行った。「この投資は既にほぼ回収された」と、IBMサーバ事業部の総責任者であるビル・ザイトラー(William M.Zeitler、サーバー・ビジネス総責任者兼上級副社長 )氏は述べているが、その具体的な収支内容は明らかではない。しかし、2001年度のIBMのサーバビジネス、特にメインフレームビジネスが堅調であった要因のひとつにLinux効果を挙げてもよいだろう(因みに、ガートナーの調査では、IBMメインフレームユーザーの約10%が既にLinuxをメインフレーム上で使用している。かつてはかなり懐疑的に見られていたメインフレーム上のLinuxも普及してきているのである)。

 もうひとつの重要な例は、サンによるIntel-Linuxベースの汎用サーバ製品販売の意向表明である。サンはいままで、SPARCとSolarisという単一OSと単一アーキテクチャによる戦略の一貫性を重要なマーケティングメッセージとしてきた。SPARC/Solarisがきわめて優れたテクノロジーであるからこそ、他プラットフォームに保険をかけずにコミットできるのだということである。この大原則を崩してまでLinuxをサポートしようということは、サンの牙城であった大規模Webサービングの環境においてLinuxが無視できない脅威となっていることの表れである。おそらくサンは、まもなくWebサービング向けのLinux搭載ブレードサーバ(高密度のラックマウントサーバ)を発表することになるだろう。

 IT市場調査会社の中でもガートナーは、Linuxの今後についてかなり強気の見通しを立てており、Linuxを搭載したインテルサーバの売上は2006年にはおよそ100億ドルになると予測している。これは他の主流のUNIXサーバ(Solaris、HP-UX、AIX)のそれぞれと同等レベルの市場規模である。ガートナーは、Linuxの利用分野がWebサーバなどのインターネットインフラストラクチャ分野が中心になると見ており、かつて期待されたような基幹系業務やデスクトップへの適用は限定的であろうと予測している。しかし、それでもインターネット・コンピューティングのいわばDRAMとして機能するLinuxの周辺には大きなビジネスチャンスがあると見るべきだろう。

注:ガートナーは世界最大のIT戦略アドバイス企業で、本記事は同社日本支社 ガートナージャパン リサーチディレクター 栗原氏からの寄稿である。

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