[Interview]
マリナーズに日本人選手が増えたのはCRMのおかげ?

2002/4/4

 数年来、ビジネスITの中でブームとなってきたCRM。この分野を拓いてきたのがシーベルだが、このところこのシーベルを猛追しているCRMベンダーがオニックス・ソフトウェアだ。

 同社は去年の夏、日本語版を投入して日本市場にも参入を果たした。年末までに国内顧客40社を獲得し、実稼働しているシステムも多数あるという。このように、成長著しい米オニックス・ソフトウェアのインターナショナルプロダクトマネージャであるチャド・ハンブリン(Chad Hamblin)氏に、CRM市場の動向と同社の今後の戦略について話を聞いた。


米オニックス・ソフトウェア チャド・ハンブリン氏 日本オフィスの立ち上げにも関わったが、通常は本社で国際製品の戦略や計画、新しい海外市場への進出の戦略などの仕事を行っている

──昨年のCRM市場の動向はどのようなものでしたか?

ハンブリン氏 2001年はそもそものIT市場全体が不景気に加え、テロ事件もあり、かなり厳しい状況となりました。そうした中、オニックスは、それ以前ほどの成長ではなかったものの、売り上げベースで見ると2000年と同じレベルを維持できました。ほかのCRMベンダが倒産や吸収・合併などによって少なくなる中で、弊社は早いアクションによってコストを削減し、2001年第4四半期では目標EPS(1株あたりの利益)を達成するという実績を残しました。

 昨年は、CRMの市場で大きな動きがあった年でもありました。米国のCRMは1998年ごろから注目を集め、1999〜2000年ぐらいまで100%以上の成長率で推移してきました。当時は巨大プロジェクトでのCRMが盛んでしたが、不景気になると実用性にスポットがあたり、効果がないとCRMを導入しないという会社が多くなりました。そこで、素早い導入かつ低コストでのCRM導入が求められるようになり、いまでは巨大プロジェクトは少なくなっています。

 現在は、数カ月程度で導入・稼働できるプロジェクトが求められています。そういう意味でオニックスが適していると思います。オニックスの平均導入時間は、66%の顧客が3カ月以内に導入、9カ月以内に費用を上回る効果を達成しています。

 私は1995年からCRM市場に関わっていますが、その当時はポイントソリューションしかありませんでした。SFAか、ヘルプデスクか、マーケティングのソリューションです。ところが、オニックスは1994年の設立当時から、CRMのトータル・ソリューションを打ち出していました。つまり、最初から顧客中心のデータモデルに基づいて、すべての部署で情報共有・交換できるような仕組みを提唱し、製品もアーキテクチャ、データスキーム、プラットフォームとも全社CRMのために統一し、非常にきれいなコードを持っていたのです。この点は、まだ弊社の強みではないかと思っています。

──最近ではERPなどのベンダが、CRMを取り込む形で全社的なトータルソリューションを提唱しています

ハンブリン氏 個人的には、1つのベンダがあらゆる機能を完璧にそろえるのは無理だと思っています。SCMを例にすると、大手ERPベンダはみんなSCMを提供していますが、10年くらい前にスタートしたSCM専門のi2テクノロジーが大きく成長しています。ERPベンダが本当に全部を完璧にできるのであれば、SCMももっと上手くできたはずです。

 もう1つ、具体的な問題点として、データモデルの違いがあります。ERPは基本的に製品中心のデータモデルですが、CRMは顧客中心のデータモデル。何をマスターにしてどうやって情報を同期するのか、という技術的な難点があるわけです。

 そうした点も含めて、CRMのビジネスプロセスに関する知識はERPとはまったく違うので、ERPベンダが急に“CRMをやります”といって手を挙げてできるほど簡単ではないと思います。

 ただし、CRMとERPの連携を取ることは、価値があります。オニックスでも、よくSAPとかPeopleSoftといったバックエンドのシステムと連携するケースは多くあります。連携するということと、全部循環した統一したシステムを提供するというのは違うということです。

──今後の日本のマーケットをどのように予測されますか?

ハンブリン氏 ガートナーグループやIDCなどの調査では、いま成長率が最も高いのはアジアで、今後5年間の年間成長率が50%以上と予測されています。日本はその半分以上の市場を持っています。

 日本市場については、少し特殊な事情があると思います。日本でCRMの進化の変遷を見ると、昨年ぐらいからCRMという言葉が定着したと思うのですが、巨大プロジェクトがブームにならずに実用性重視のフェーズに至ったと思います。欧米とは異なり、ずっと以前から実用性が求められていたということでしょうか。そういったことから、CRMは日本にあっているとも思っています。

 米国の数字ですが、不景気に関わらず、来年あるいは今後5年、CRMに力を入れるという企業は多いとされています。CRMへの注目は当分続くでしょう。

──日本企業のCRMの導入スタイルに特徴はありますか?

ハンブリン氏 2つのことが言えます。1点目は、日本の会社は、全社に導入する前にパイロット版という形で試験的な導入を望む点です。米国はトップダウンで、社長が決定すればすぐ全社でシステムを導入しますが、日本はコンセンサスを大事にしますね。また日本の企業は新しいテクノロジなどを入れる場合に、心配性なところがあるようです。ただ、この2年ぐらいでIT製品を導入することに慣れてきた感じがします。

 それから、日本の顧客企業が求めるものとして、製品が日本語化されて、ベンダの日本オフィスがあって、日本のサポートチームがあること、という希望をよく聞きます。ここに、オニックスが日本で会社を設けた大きな理由があるのですが。

──日本法人の状況をお教えください

ハンブリン氏 2001年の夏から製品を販売開始し、年末までで40社の顧客を獲得しました。日本法人設立前は、代理店販売などもなく、ほぼゼロからのスタートでしたから、この数字は成功といえます。その秘訣は、いい計画があり、それを本社が強力にコミットメントしたということですね。本社が日本のための資本金を用意して、具体的なリソースを送って、日本マーケットにコミットメントをもって、1年でできなくても何年間かで成功するというやる気があった──そういうことが功を奏し、1年間でそれなりの成功が得られたのでしょう。

──米国のプロスポーツチームでの導入が目立ちますね

ハンブリン氏 ニューイングランド・ペイトリオッツ、アリゾナ・ダイヤモンドバックス、それからシアトル・マリナーズはオニックスの顧客です。特に戦略があるわけではないのですが、クチコミでスポーツ業界で評判になり、あっという間に10社ぐらいのプロのスポーツチームに顧客になっていただきました。

──どのような使われ方をされているんですか?

ハンブリン氏 マリナーズの事例が面白いと思います。基本的には営業の効率化、マーケティングの自動化、顧客のセグメンテーションとサービスが一番大きな目的です。マリナーズはVIPのファンとの関係を強化して、チケット販売やイベントの場合に活用しています。またスポンサーとの関係の管理も行っています。

 具体例をいうと、マリナーズの場合、ファンの中には、カナダやポーランドなど、遠くから観戦に来る人が多い。米国では、テレビのスケジュールために、前日や前前日などに、急に試合開始時間が変わることもあるのです。当然、遠方からのファンに対して迷惑をかけることになります。そこでオニックスを使って、事前にアンケートで電子メールのアドレスを教えてくれれば、時間変更があった場合に注意を促すメールを出します、というサービスを行い、顧客満足度を上げた──などですね。マリナーズのファンクラブのデータベースとオニックスの連携をとって、具体的にファンクラブ・メンバーの購入履歴を分析して新しいキャンペーンを行うとか、パーソナライズされたオファーを提供するといったことも行っています。

 また、マリナーズの社長もオニックスをよく使っているユーザーの1人で、システムの中で“日本関係の売り上げ”というフィールドを設け、日本の選手を球団に入れてから売り上げがどれだけ伸びたかという分析をちゃんとしています。これはずい分前から行っているようなので、おそらくそのためにだんだん日本選手が増えているのではないかと……(笑)。マリナーズは、日本のためにいろいろやっているんですね。日本向けの特別なツアーやイベントを行ったり、日本の大手企業のVIPの特別招待、グループ向け切符の提供など。現在、マリナーズには3人の日本人選手がいます。米国の中で一番日本人選手が多いチームであるということは、ある程度はオニックスの分析も活かした結果じゃないかと思うのですが。

──今後の製品戦略は?

ハンブリン氏 米国では今年6月、Oracleバージョンをリリースする予定になっています。日本語版はその3〜6カ月後にリリースとなります。

 技術的には、バージョン3.0から完全にUnicode対応になります。グローバルなCRMを考えると、Unicodeは不可欠。複数言語の情報を同じレコード、同じデータベースで管理できれば、海外事業で持っている顧客の管理が、ローカルでもグローバルでも同じソースで活用できるからです。私の知る限りでは、CRMベンダの中でネイティブのUnicode対応はオニックスだけです。

 今後の大きな戦略上、注目しているのがWebサービスです。CRMというものを突き詰めて考えてみると、顧客を中心にしたビジネスネットワークを構築することなのだと思います。そのためには、直接のビジネス・パートナーではなくても、顧客にとって関係する企業の間で顧客情報の交換・共有を可能にすることが非常に大事になってくるといえます。

 例えば、ある人が新しい家を買いたいとすると、まずは不動産業者に連絡を取って家を見つけて、今度は抵当のローン会社、建築会社と、複数の会社と連絡を取って、建設が始まります。会社は違うのですが、顧客が同じということで関連しています。顧客の購入プロセスに関連している会社間で顧客情報の共有・交換ができれば、顧客にとってはよい経験が得られるし、それぞれの会社にとっては売り上げのチャンスが発掘できます。そういう意味でWebサービスは会社が自社の機能・サービスを顧客に対して活かすことが実現するチャンスと思います。ですから、CRMにとってWebサービスは非常に面白い技術ですね。パワーがあると思います。

(編集局 鈴木崇)

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