[Interview]
不景気だから売れるITツールとは
2002/8/24
ソフトブレーンは1992年創立のソフトウェアベンダ。ここ最近、外資系CRMベンダの不調が指摘されるが、同社は1999年に発表した携帯端末を用いた営業支援ツール「eセールスマネージャー」が好調で、今年は対前年度比5倍の売り上げが見込めそうだという。SFAやCRMにありがちな、漠然とした効果をアピールするのではなく、導入の必要性を納得してもらうことが成功の秘訣のようだ。同社 代表取締役社長 宗文洲氏に、独自の哲学を語ってもらった。
ソフトブレーン 代表取締役社長 宗文洲氏 |
――携帯を用いたSFAなどが、当初の予想ほどは成功していないと言われています。
宋氏 もしそうだとしたら、2つの理由が考えられる。端末そのもの性能とソフトウェアの使い勝手だ。若い人が携帯電話で素早く文字入力をしてテキストメールをやりとりする、これは、ビジネスの世界ではありえないこと。また、現場の人にITリテラシーがない場合も考えられる。弊社はここに目をつけ、すべてプルダウンメニューで選んでもらうように開発した。これにより、ユーザーは携帯端末の小さなキーで文字入力する必要はなく、選択して送信するだけとなり、利用につながるというわけだ。
後は、収集した情報をサーバで管理・処理し、分析してマーケティングや営業活動に利用すれば、営業支援ツールは価値あるものとなるだろう。
ただ、毎日十人程度の経営者層の方にお会いして感じることとしては、ここまで考えている人はなかなかいないという実情だ。
――経営者側にITに対する知識や認識が欠如しているということでしょうか?
宋氏 情報はツールであって目的ではない。よく、情報を収集するとか共有する、というが、その情報は本当に自社にとって価値あるものだろうか? ツールである以上、何のための・何に使う情報かを意識して収集すべきだが、これを実行できている企業は多くない。実行のためにはまず、問題意識が必要。そうして初めて、その問題を解決するためにどのような情報が必要か、と情報の定義ができる。このように科学的分析をしていかなくてはならない。
例えば、最近売上げが良くない、ライバルに負けているのではないか、という問題意識が出てきたとする。その分析に必要な情報として、どこのライバルにどのくらい負けているのかに関する情報などがあるだろう。そして、営業が良くないとしたら、営業プロセスの見直しのため、担当部門とプロセスが現在どのような状態かを把握し、さらにそれぞれの段階でどんな情報が必要か、とブレークダウンできるわけだ。
先日、他社と共同でアンケートを行ったところ、回答企業約100社のうち、8割の企業が現状の把握手段として、営業会議でのレポートや営業マンの日報を用いていると回答した。一方、8割の企業が結果を数値で把握しているという。レポートというのは主観的なもの。つまり、多くの企業の現状は、プロセスのどこかがおかしいために売上げが伸びないにも関わらず、客観的情報がないために、プロセスを改善できないということだ。プロセスを把握せずに結果だけを把握する、これは経営とはいえない。
――そういった問題意識はあってもアクションを起こせない企業が多い……
宋氏 そういうところは淘汰されていくだろう。弊社は、何か変えたいという問題意識を持つところにしか営業にいかない。そして、このような意識を持つ企業は年々増えている。実際、昨年の売上高は約2億円だったが、今年は5倍の10億円を見込んでいる。
われわれの打ち出しているメッセージはシンプルだ。現在、多くの企業が営業赤字に陥っており、売ると赤字になる。これは、営業の効率が悪いから。この理由は、営業マンが営業していないなどいろいろあるだろうが、結局は標準プロセスがないからに集約できる。
営業マンの個人プレーに依存しないためには、マネージ(管理)が必要だ。つまり、標準的な営業プロセスに従って、効率の良い営業をするためには、それが本当に効率的なものであるかを検証し、マネージしていく必要があるということだ。弊社では、問題をヒアリングして数値で表わす。営業マンが過剰だからなのか、営業時間が短いからか、組織的なプロセスが構築されていないからか、など問題に気付いてもらうようにしている。このように可視化があってはじめて、最適化や内部プロセスの改善が実現する。
2000年にマザーズに上場した。良くないうわさもあるが、気にしていない。「(上場は)してもしなくてもよかった。顧客に買ってもらって使ってもらうところに勝負はある」 |
不況というが、会社が赤字だからモノを買わないのではなく、赤字の会社には赤字を解消するモノが売れる。赤字を解消する、赤字を手っ取り早く縮小するものの1つが、営業プロセスの改善だ。実際、弊社の製品は、3割の費用を無駄にしていると分かれば導入に踏み切るところが多い。
例えば、デパートの婦人服売り場で、女性が2回手にとって結局買わなかったとしたら、商品に何かに問題があるからといえる。2回以上手にとって買わなかったもの、売れなかったものは少数かもしれないが、その商品は売れる可能性を秘めたものではある。なぜ売れなかったのか、その原因を追求して対応するのにコストはかからない。この例は日本が遅れていることを示すものではないが、日本企業がまず改善すべきなのは販管費だ。米系企業の平均販管費は、商品の価格の15%だが、日本では24%とかなり高い。後進国・先進国に関係なく、世界でこの値が20%以上を超えると「異常」とされている。
弊社の製品「eセールスマネージャ」は、よくSFAとかCRMとカテゴライズされるが、そうではないと思っている。結果的にそう見える部分があるかもしれないが、欧米のCRMの影響を受けて開発したものではなく、現状の営業プロセスの可視化と最適化を実現するもの。これにより販管費を抑え、営業赤字を減少させる。
SFAとかCRMとかチャネル統合などと言うが、多くの日本企業の経営者には訴えない。重要なのは、どうしてそれが実現できるか、情報を役に立つものにリンクできるか。
――開発の現場でも指摘がありますが、日本人は科学的なアプローチが苦手なようです。そのような特性を持つ市場に製品を提供するにあたり、難しさはありますか?
宗氏 「eセールスマネージャ」は3年前に発表した。ある程度のプロモーションと口コミで広まっていき、ビジネスは極めて順調だ。先ほども触れたように、当初からCRMとして打ち出す意志はまったくなかった。販管費の高さ、営業効率の悪さ、この2点を分かっていただけるとほとんどの場合が導入に至る。
強いてライバルといえばコンサルティングの会社になるが、彼らはソフトウェアを持たない。われわれはソフトウェアを導入し、その後も仕組みを定着できるのが強みだ。状況が変わると、知りたいテーマ、プロセスも変わる。その都度、設定しなおすというニーズがある。だから、コンサルティング会社とは共同で案件を持つことも多い。
日本人は科学的なアプローチが苦手というが、ITの問題と考えるからよくないのではないか。プロセスとか仕組み、経営の発想が問題であって、それを助けるツールとしてITがあるにすぎない。ITも情報もツール。究極的には、いかに人間が楽になり、幸福になれるか。少し大げさになったが、通常の労働時間以内に最大の結果を出し、より余裕のあるビジネススタイル、生活スタイルを確立する。どうして多くの人がITを嫌がるかというと、導入すればするほど仕事が増えるから。これでは本末転倒だ。ツールにより何かが改善されなければ意味がない。
(編集局 末岡洋子)
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