[Interview]
見えてきた、モバイルを活用した企業システム

2002/7/17

 PDAの出荷台数が前年度比マイナスとなるなど、携帯端末を用いた企業システム構築のブームは落ち着いたかのようだ。だが、市場を見ると、モバイルの3つの主力デバイスである、PDA、携帯電話、ノートPCのすみ分けが徐々になされ、着実にそれぞれの用途にあった形で企業システムに実装されつつあるようだ。

 モバイル向けデータベースではトップのシェアを誇る、米サイベースの子会社、米アイエニウェア・ソリューションズのワールドワイド・ビジネス・デベロップメント担当 ディレクターのチャック・ラウニー(Chuck Lownie)氏、同インターナショナル&サステイニング・エンジニアリング担当 シニア マネージャーのスティーブ・マクドウェル(Steven McDowell)氏、および日本のカントリー・マネージャーの早川典之氏(兼サイベース 取締役副社長 営業・セールスコンサルティング部門統括)に、モバイルと企業システムの現状について話を伺った。


米アイエニウェア インターナショナル&サステイニング・エンジニアリング担当 シニア マネージャー スティーブ・マクドウェル氏

――先日、日本語版が発表された主力製品「SQL Anywhere Studio 8」ではどのような強化を図ったのですか?

マクドウェル氏 主に、パフォーマンス、セキュリティ、開発者の生産性、同期機能、の4つを強化した。

 中でもパフォーマンスに関しては、今回のバージョンアップが別名“パフォーマンス・リリース”といわれるほどの大きな特徴となっている。まず、クエリー処理にソート・マージやハイブリッド・ハッシュなどの新規ジョイン方法を取り入れるなど、クエリー実行モデルを一新した。そのほか、オプティマイザ、データ格納構造、キャッシュ、通信環境に合わせたパケットサイズの設定などで強化を図り、より大規模・複雑なシステムへの対応が可能となった。前バージョンと比較すると、複雑なクエリーで4〜6倍もパフォーマンスがアップしたという結果もある。

 2点目のセキュリティについては、128ビットのAESアルゴリズム/CasioのMDSRアルゴリズムを用いたデータベース・ファイルの暗号化と、クライアント/サーバ間のTCP/IPにおける暗号化がある。また、小型データベースのUltra Lightでも、データべースの暗号化はもちろん、新たにユーザー認証メカニズムを組み込み、同期をさらに安全に行えるようになる。

 3点目の開発者の生産性に関しては、クエリーの実行に対するオペレーションが見えるストアドプロシージャ・プロファイラ、ビジュアル・アクセス・プラン・ディスプレーヤなどの管理ツールを新たに搭載した。

 4点目の同期機能については、サーバがイニシアティブをとり、サーバサイドからクライアントへ同期をプッシュできるようになった。また、Mobile Linkの新機能「選択アップロード」では、優先度の高いワイヤレス同期、優先度の低いクレードル(またはLAN)同期を使い分けることができる。これにより、日中はワイヤレスで、夜間はクレードルで差分を処理するといった使い方が可能になる。

――モバイルを利用した企業システムはいま、どのような方向性にあるのでしょうか?

米アイエニウェア・ソリューションズ ワールドワイド・ビジネス・デベロップメント担当 ディレクター チャック・ラウニー氏

ラウニー氏 ユーザー数を増やしたいという顧客からのニーズが多い。今回、パフォーマンスの大幅な強化を行った理由もそこにある。企業では、より正確な意思決定などデータを有効に活用するため、点在しているデータを1つのDBに統合する動きがある。そこでAnywhereが選ばれるように改善を図っている。

 モバイル・ビジネスの傾向として、特定の業務ラインにおいて使われることが多い。2年ほど前は、コストを意識せずにSFA(Sale Force Automation)を大規模に導入するというケースが多かったが、現在では、ROI(投資対効果)が明確な特定の業務アプリケーションを中心に導入されることが多い。具体的には、携帯電話が日本ほど普及していない米国では、メンテナンスや配達業務を行うフィールドサービス部隊にPDAを持たせる例が多い。

 また、SFAにしても、ノート型PCのアプリケーションのサブセットをPDAに搭載するというパターンが多い。保険の外交員を例にとると、ノート型PCには契約のアプリケーションがあり、PDAには保険証書のアプリケーションを搭載して持ち回っている。

早川氏 日本では現在、携帯電話を用いた病院の予約受け付けシステムプロジェクトなどが進行している。PDAでは、シャネルやクリスチャン・ディオールなどの高級ブランド店が、POSを拡張した顧客情報管理として導入している。

 日本市場では近年、携帯電話を用いたSFAがもてはやされたが、成功したのはトラック宅配サービス業者ぐらいで、多くは失敗に終わった。また、PDAでも保険会社の外交員がスタンドアロンで用いるケースなどあったが、同期をとらないため、業務の効率化に結びつかなかった。このようにいったんは下火となったが、現在、大企業の業務特化型アプリケーションという形で、着実に導入が進んでいる。

 企業システムとは、コンピュータの入ったデバイス、OS、データベースで構成されるもので、mビジネスでは、このデバイスがモバイルとかワイヤレスになるというだけ。OSとインフラには引き続き依存している。システムをPDAや携帯電話と結びつける、というアプローチでは無理があるということだ。

 もう1つ、当初の失敗原因の1つに、デバイスの性能が十分ではなかった点が挙げられる。この点もデバイスそのもののCPUの向上や、CF(コンパクトフラッシュ)カードのプラグイン機能など、業務用途でも使えるようになってきた。実際、PDAの出荷台数のマイナスが報じられているが、企業向けの小規模プロジェクトは増えており、PDAはほかの端末とのすみ分けがなされてきたといえる。

――ほぼ7割という大きなシェアを獲得していますが、今後、どのような展開を予定しているのですか?

ラウニー氏 フォーカスはデータベースにある。設計目標は、使いやすさ、高性能などエンタープライズ級のフィーチャー、柔軟性、これらを小さなフットプリントで実現すること、そして優れたデータ同期機能。開発者が組み込みやすいように提供する。

 アイエニウェアは、サイベースが買収したカナダのコンパイラ・ベンダ、ワトコムがベースとなっているが、ワトコム時代から9年間、同じデータを同じ環境で使えるようアップグレードしてきた。この継続性が強みとなっている。多様なサポートを提供することが、顧客への価値の提供と考えている。今後も、動向には注意していく。新しいプラットフォームが登場したら、必ず評価して対応する。

――オラクルなどライバルとの優位性は?

ラウニー氏 オラクルが成功していないのは、RDBMSの機能を抜き出して“モバイルDB”としているから。弊社製品の最大の特徴は、小規模データベースとして一から設計されていることで、ここが最大の差別化となっている。

 大きな特徴はデータ同期で、これはMobile LinkやUltra Lightが実現する。これにより、ヘテロジニアス(異機種混在)環境でも、サーバとクライアントの双方向での同期が可能で、データの互換性もある。

(編集局 末岡洋子)

[関連記事]
サイベース、シェアトップのiAnywhereでオープン戦略を貫く(@ITNews)
東アジアの市場成長に照準を定めるサイベース (@ITNews)
「3年で売上高を2倍にする」とサイベース新社長 (@ITNews)
脱データベースベンダの道を着実に歩むサイベース (@ITNews)

 

情報をお寄せください:



@ITメールマガジン 新着情報やスタッフのコラムがメールで届きます(無料)