[Interview] 最新型エッジ・ルータがもたらすメリットとは?
2002/9/27
不況はIT業界にも大きな影響を与えているが、その中でも特に厳しいのがキャリア業界だ。先行設備投資負担とその後の不況による需給ギャップ、サービス単価の低価格化の進行による収入減、続々と登場する新たなサービスと、まさに3重苦の中での経営を強いられている。だが、業界他社との競争を勝ち抜くためにも、投資と止めるわけにはいかない。そこで注目を集めるのが、導入コストや運用コストを抑えつつ、各種の新しいサービスの提供を可能にするエッジ・ルータと呼ばれる製品だ。
キャリアとユーザー間のアクセス回線部分に着目し、エッジ・ルータをはじめ、キャリア向けのエッジ製品の提供を行っている専門ベンダが存在する。その1社が米レッドバックネットワークスだ。
同社は、DSLなどのブロードバンド接続ユーザーの回線を集約して各種管理を可能にする「SMSシリーズ」と、エッジ・ルータの「SmartEdge 800」の2つの製品ラインを持っている。先日、レッドバック本社で「REDBACK ANALYST DAY」というアナリスト向けのミーティングが催された。その際に、SmartEdgeの製品担当副社長にインタビューすることができた。今回は、同社のSmartEdgeの特徴や、現在の業界トレンドなどについて話を聞いた。
■SmartEdge導入のメリットは?
――SmartEdgeを導入するメリットはどこにあるのか?
米レッドバックネットワークスのVice President, Product ManagementのSimon Williams氏 |
Williams氏 弊社の製品はネットワーク・キャリアを対象としているが、キャリアとそのキャリアを利用するユーザーの双方に共通のメリットが3つある。1つ目は経済的なメリット、2つ目はファンクション(機能)、3つ目がキャパビリティ(将来性)だ。例えば、キャリアはSmartEdgeを導入することで、VPNのようなIPサービスを安価に提供できるようになる。これは、機器自体の導入コストのほか、運用コストも大きく低減できる。
――運用コスト低減とは、具体的にどのようなことか?
Williams氏 電源や冷房にかかるコストなど、機器の維持コストの低減が可能だ。また、顧客からのフィードバックで、大都市や東京のように地価が高い場所において、設置コストの低減効果は大きいという話を聞いている。例えば、既存の5〜7台のルータを1台のSmartEdgeで置き換えることが可能だ。実際にこのような形で、部分的なリプレイスによる展開を図れることもメリットの1つだ。
――機能的なメリットには、どのようなものがあるか?
Williams氏 1つ目は、「Multiple-Context」という、いわゆるバーチャル・ルータの機能が挙げられる(1台のルータの中で複数の異なるコネクションに対して別々にルーティング機能を提供する)。キャリアはこの機能を利用することで、ユーザーに対して仮想専用線サービスの提供ができ、ほかのキャリアとの差別化を図ることが可能になる。また、各種管理機能の提供により、サポート能力の向上も図れる。
2つ目は、「Circuit based architecture」を採用しているという点だ。ライン・カードごとに処理機能を持たせることで、部分的なカード交換で機器全体のアップグレードが可能なほか、よりきめ細かいポリシーの設定ができるようになる。
そして最後に最も重要なのが、ハードウェア/ソフトウェアを長い期間利用可能な点でだ。それを実現するのは、PPA(Packet Processor ASIC)というフリー・プログラマブルな自社開発のASICだ。これから先、将来にわたって必要な機能を予測することは難しいが、PPAならば既存の装置をアップデートすることで、新しい機能を搭載でき、引き続き稼働させることが可能だ。これが、Fixed ASICを採用するシスコシステムズやジュニパーネットワークス製品との差別化ポイントだといえるだろう。
――これらはキャリアにとってのメリットだが、それらを利用するユーザーにとってのメリットにはどのようなものがあるか?
Williams氏 キャリアが低コストで機器を運用できるようになれば、結果としてユーザーは各種サービスを低料金で利用できるというメリットを享受できる。また、Multiple-Contextの利用により、キャリアが企業側に貸し出すCPEルータが不要になり、そのメンテナンスやリースコストの削減も可能となる。また、デュアル・ホーミング(WAN接続回線を多重化して冗長性を高める技術)を使わずとも、1本の接続回線で高い可用性を実現できるのも大きなメリットだ。
■レイヤ2-MPLSとIPv6のサポート
――レイヤ2プロトコルでのEnd-to-End接続を実現する技術が話題になっているが、従来のレイヤ3のIPサービスとは、どこが異なるのか?
レッドバック Director, Product ManagementのThomas Meehan氏 |
Meehan氏 いま一般に提供されているIP-VPNサービスは、MPLSを使ってIPレベルでのVPNを実現するものだ。経路情報交換にはBGPが用いられ、メッシュ型のトポロジが採用されている。そして、いま話題に上りつつあり、SmartEdgeでも対応を表明しているのが、MPLSの拡張によりレイヤ2でのVPNを実現するサービスである。キャリアにとっては、ATMやフレーム・リレーなど、ばらばらに存在している複数のネットワークを1つのシンプルなバックボーンに統合できるメリットがある。ユーザーにとっては、MANのようなバックボーンをあたかも(社内LANと同様な)イーサネットとして利用できるメリットがある。
――キャリアからは、レイヤ2接続技術に対するデマンドはあるのか?
Meehan氏 デマンドが高くなっていると感じる。1つのトレンドとしては、ATMをトランキングして、レイヤ3をバックボーンとしたPoint-to-Pointでのレイヤ2接続を実現したネットワークがある。そしてもう1つが、MANを利用したLAN接続サービスだ。ユーザーの例としては、弊社の既存製品の顧客であるCable & Wirelessが挙げられる。IETFのドラフトを基に、彼らの要望に応える形でインプリテーションを進めている。ほかにレイヤ3のユーザー事例としては上海テレコムが、MPLS以外のVPN技術としてGREを使用した台湾の中華テレコムなどが挙げられる(コアはGREだが、エッジはMPLSを使用)。
――今回、御社でするのはMartiniドラフトだが、Compellaドラフトのサポートは行っていくのか?
Williams氏 MartiniはLDPをベースとしているが、CompellaはBGPをベースとしている。BGPベースのものは、経路情報のやりとりが複雑になるという難点がある。将来的にサポートすることにはなるだろうが、現状でサポートするかどうかは未定だ。
――IPv6のサポート体制は?
Williams氏/Meehan氏 弊社では、1999年よりIPv6に関するコーディングを続けている。先ほどPPAの話をしたが、プログラムの完全対応が完了すれば、高いパフォーマンスが実現できるようになるだろう。シスコやジュニパーでは、Fixed ASICによるIPv6対応を行っていたりするが、これでは対応していない処理を要求された際に、ソフトウェア・ベースで処理が実行されるため、パフォーマンス上の問題が出てくる。やはり、ここが弊社製品の優位な点だといえる。
――ユーザーからのIPv6に対する要望は?
Williams氏 特に日本や韓国からの要望が強い。2003〜2004年をめどに、IPv6の完全実装を実現したい。弊社のパートナーである、ノキアの意見も取り入れつつ、作業を進めていく。
――今後の展開は?
Williams氏 まず、弊社製品の基本ソフトウェア(OS)である、AOSのバージョン6.0を11月15日にリリースする。また、PPAの速度を4〜5倍に高めたPPA2の実装も行っていく予定だ。これは、10GbEなどの最新インターフェイスを視野に入れたものだ。ライン・カードの交換で従来製品をPPA2に容易にアップグレード可能となっている。
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米レッドバックネットワークス
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