日銀システム担当者が語るIT苦労話
2002/11/14
日本の金融システムを管理する日本銀行も、ITの活用には苦労している……。11月13〜15日開かれているイベント「金融国際情報技術展」で日本銀行のシステム担当者が日銀内でのIT活用の現状を引き合いに、金融全体に対する課題を語った。
日本銀行 システム情報局長 水野創氏 |
講演したのは日本銀行 システム情報局長 水野創氏。水野氏は金融機関が求められるITの特徴として、「他の業種に比べて正確性、安定性、セキュリティ、緊急時の対応が強く求められる」と説明する。その中でも中央銀行の日銀は「特にプレッシャーがある」と述べ、「システム規模が大きく、コストもかかるため、最新のITに対応させるのは世間一般より対応が遅れる」と日銀の特性を語った。日銀では昨年の米国同時多発テロ後にシステムのバックアップ体制を強化。東京のホストコンピュータがダウンした場合は、大阪支店内にあるバックアップセンターのシステムに迅速に切り替わる体制をさらに強化したという。
日銀ではこのバックアップセンターの訓練を年に1回程度実施。昨年はテロ後に行ったが、システムの切り替えやテレビ会議がうまくいかずに「行内から非難が殺到した」(水野氏)という。今年の訓練はうまくいき、「昨年の借りは返した」と水野氏は胸を張った。
水野氏によると日銀は、官庁や金融機関を主な取引先としているため、「トラブルがあってもすぐに国民に知られることがなかった」が、電子政府の推進などで日銀のトラブルが直接、国民に直結することになり、「これまで以上に安定性が求められる」という。
同氏によれば、日銀を含め金融機関のシステム担当部署の業務は拡大する一方で、IT活用によるメリットとデメリットの両方が出てきているという。メリットとしてはハードの性能が向上したり、価格が低下したことでシステムを導入しやすくなり、業務が効率したこと。これまで独自で作っていたプログラムを、ベンダのパッケージソフトで代用できるようになり、コストが下がった。システムの一元管理も可能になり、担当者の負担も小さくなった。
一方で、デメリットとして水野氏はシステムのトータルコストが増大したことを挙げた。「ハードなど個々の価格は低下しているが、ハード自体の数量が増えたことで、全体はうなぎ上り」だという。
事務量の予測が難しくなっているのも、水野氏をはじめ日銀のシステム担当者を悩ましている。数年前まで日銀内の電子メールのやりとりは1日100通程度だったが、近年は増大し、CPUパワーやストレージの不足に頭を抱える毎日だという。ハードの更新やプログラムのバージョンアップも必要で、「大きな資源投入が必要になっている」という状況。これは日銀だけでなく、ほとんどの企業が抱える課題だろう。
行員のITリテラシーの向上も課題だ。日銀でも電子メールが普及するにつれ、「私的メールの利用など行儀の悪い使い方が増えてきた」という。クライアントPCのハードディスクに重要書類を保存することなど、行内で禁じられている使い方をする行員もいて、水野氏は「ユーザー教育は本当に大変」と憂える。
金融業界ではコスト削減を目的にシステム開発などのアウトソースが進んでいる。日銀でもアウトソースの比率が高まっているというが、「開発の生産性は向上するが、日銀のプロパー行員のスキルが低下するかもしれない」と水野氏は述べ、「生産性向上のためにパッケージソフトの利用も促進しているが、身の丈にあったアウトソース、ソフトを選ぶ必要がある」と訴えた。
金融機関とハード、ソフトベンダとの関係も難しい。新しいハードやソフトは導入するまでに長い期間がかかり、実際に運用を始めたときには陳腐化していた、ということも心配される。そのため金融機関にはシステムに対する長期的な戦略が重要になる。それにタイミングも重要で、水野氏によると「これまで慎重な性格から金融機関は“石橋をたたいても渡らない”と言われてきたが、技術が分散して導入のタイミングがわからなくなったことで、“石橋をたたく前に渡ってしまう”金融機関も出てきた」という。
水野氏の講演からは日本の中央銀行といえども、手探りでシステムを開発している現状が見て取れた。水野氏は日銀での体験を中心に講演したが、これらは日本のほとんどの金融機関が直面している問題でもある。水野氏は講演の最後に、「海外の中央銀行に負けないようなインフラ、システムにしていきたい」と、多くの課題を乗り越えていく意気込みを述べた。
(垣内郁栄)
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