[Interview]
電子メールから漏えいする企業機密を防ぐには
2002/5/31
インターネット上を行き交う電子メールの量は日々増加している。昨年、世界でやりとりされた1日あたりの電子メール件数は150億件。3年後の2005年には2倍以上の350億件と予測されている。今後、電子メールの管理は作業効率化対策の1つになるだろう。実際、コンテンツセキュリティ市場は、IT業界全体が不振に苦しむ中、順調に成長している数少ない分野の1つだ。日本では立ち上がりの遅れが指摘されるが、電子メールなどをフィルタリングすることにより、単なる監視ではなく防御という点でも効果があることが認知されはじめ、政府機関や金融業などが導入の検討を開始している。
現在、同市場でトップのシェアを誇るのが英クリアスウィフト。今年に入り、アイルランドのボルチモア・テクノロジーズからコンテンツフィルタリングの事業部門を買収、3月には日本法人を立ち上げ、日本市場で本格的に展開する体制を整えた。同社CEOのドン・テイラー(Don Taylor)氏に話を聞いた。
英クリアスウィフト CEO ドン・テイラー氏 |
――御社のこれまでの経緯を教えてください
テイラー氏 クリアスウィフトの前身となるNET TELは、1982年創業のメッセージング・ソフトウェアのベンダだった。その後、ECやeビジネスにおける電子メールの重要性に着目し、2000年後半にコンテンツフィルタリング分野に進出することにした。そこで、ベンチャーキャピタルの投資を受け、経営陣を新たに結成して、2001年、社名を新たに“クリアスウィフト”に変え、コンテンツフィルタリング「Clearswift ENTERPRISEsuite」をリリースして再スタートを切った。この製品は、大規模なシステムを想定しており、英ボーダフォンやマークス&スペンサーといった企業がすぐに顧客となった。
そして、今年3月、経営建て直し中のボルチモア・テクノロジーズのコンテンツ・テクノロジーズ(コンテンツフィルタリング部門)を買収し、「MIMEsweeper」を手に入れた。
現在、顧客数は12万5000社、ユーザー数は1200万人でトップ。IDCが発表した2001年のコンテンツフィルタリング市場での弊社のシェアも33%とトップ。顧客数とシェアともに1位という、業界でもまれな“ナンバー1”といえる。
――コンテンツフィルタリングの重要性は何ですか?
テイラー氏 まず企業価値の保護というメリットがある。送受信する電子メールをフィルタリングすることにより、機密文書の流出を防ぎ、外部の脅威からシステムを防御できる。オーストラリアのある大手保険会社では、若手社員がライバル企業に自社の膨大なセールスマニュアルを電子メールに添付して送信しようとしたが、弊社の製品がブロックした。もし導入していなかったら、コンフィデンシャルな書類の流出により、同社は大きな打撃を被ることになっただろう。
このように悪意や無知による場合のほか、偶然のミスも防ぐことができる。電子メールはボタンだけで操作できる非常に簡単なツールなだけに、誤操作がおきやすいという特性がある。“送信者に返信”か“全員に返信”かのボタン1つとってもそうだ。
また、ブロックすることによりトラフィックやサーバ負荷の削減、従業員の生産性向上といったメリットもある。
――御社製品の機能や特徴は?
テイラー氏 製品としては、ユーザーが5000人以上の大規模システム向け製品Clearswift ENTERPRISEsuiteと、5000人以下のClearswift MIMEsweeperの2つのラインナップがある。MIMEsweeperは3年以上前にボルチモア・テクノロジーズから日本市場でも製品が提供されているが、ENTERPRISEsuiteは現在日本語化を進めており、日本市場への投入は来年を見込んでいる。
先の防御に加え、各国の法律や産業別のルールへの順応性、電子メールやWebが社内で、いつ、どのように使われているかの分析というメリットもある。また、生産性向上の可能性もある。現在実現しているスパムメールのブロックだけではなく、電子メールをルーティングすることにより使いやすくすることを支援するような技術を開発中で、実現すると、さらなる生産性向上につながる。
プロトコルとしては、SMTP、HTTP、x400に対応し、将来はIM(AOL、ICQ、マイクロソフト、ヤフー)もサポートする予定だ。弊社の強みは、Windows以外に、UNIX、Linuxもサポートしている点(ENTERPRISEsuite)。プラットフォームとしては今後、3Gの携帯電話におけるテキスト・メッセ―ジングの利用動向次第で、対応を検討したい。添付ファイルに関しても、マイクロソフト製品のファイルなども拡張子に依存せずに直接内容をチェックできるのが特徴だ。複合圧縮ファイルにも対応している。
現在開発中の機能は、アーカイビングと暗号化メールへの対応技術。アーカイビングは、保存されている電子コンテンツの検索機能。暗号化メールについては、暗号化されたメールを復号しフィルタリングして再び暗号化するというエンジン“DEEP SECURE”(仮称)を開発中だ。軍需を中心とした需要を見込んでおり、4、5年後には企業での利用も出てくるのではないか。
親日家でもあるテイラー氏 「日本には伝統と先進、両極端なものが共存している」 携帯電話の出会い系サイトとそのスパムメールに驚いていた |
――コンテンツフィルタリングはどのように利用されていますか?
テイラー氏 各国により非常に異なる。例えば、韓国や日本では、製造業などがCADファイルなどコンフィデンシャルな情報の保護のために導入したいというケースが多い。オーストラリアでは、スパムメールやセクシャルハラスメント的メールを防止する対策として導入されている。普及が進んでいる米国では、幅広い産業がさまざまな目的で導入している。
例えば、電子メールを介しての株の売り・買いの指示をゲートウェイで確認する、あるいはインサイダー情報のチェックなどの理由から金融系、医療機関と患者のやりとりが電子メールで行われはじめており、関連法律も整いつつあるヘルスケア、そして、機密情報保持のために国防省などの政府機関でもニーズが高い。
一般的に、金融、製造業、軍、ヘルスケアなどで導入されるケースが多く、フォーチュン500のうち約40%が弊社製品のユーザーだ。
――日本市場をどう見ていますか?
テイラー氏 まだこの分野に関しての認知は低いが、今後、重要性が認知されると市場は拡大するだろう。特に今後5年で急成長すると見ている。
日本でのビジネスにおいて、安定は重要な要素。ボルチモアからの社員もいるため、顧客やパートナーとの良好な関係を維持できると見ている。今後、市場の伸びに合わせ、セールスとマーケティング支援ネットワークを拡大していく。
――プライバシー保護との兼ね合いは?
テイラー氏 例えば電話を例にとると、私用電話はほとんどの企業である程度は許されているだろう。だが、私用電話を1時間すると問題だ。電子メールもそれと同じ。休憩時間に私的なメールをやりとりすることは容認されるだろうが、度を越えると仕事をしていないと見なされる。 これに関しては、各国で法律が整いつつあるが、従業員の就労状況を管理するという目的ならば企業が電子メールをフィルタリングしてよいとする国もある。主流の意見では、会社側がルールを提示すればフィルタリングはあってしかるべきツールと認知されているというのがわたしの感覚だ。
大切なのは、導入の前にポリシーを確立し、それを社員に説明すること。個人の人権と企業の権利がぶつかるところであるだけに、きちんと説明がなされ、コンセンサスが取れているかは重要だ。
(編集局 鈴木崇、近藤孝一、末岡洋子)
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クリアスウィフト
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