[ガートナー特別寄稿]
DBMS市場はどこに向かうのか?

ガートナージャパン
ジャパン リサーチ センター リサーチディレクター
栗原 潔

2002/12/17

 DBMS市場は成熟しきっており、今後、大きな動きはないかのようにみえる。実際、かつては群雄割拠であったこの市場も、現在の市場シェアはビッグ3ベンダ、つまり、オラクル、マイクロソフト、IBMの寡占状態になってしまっている(ワールドワイドの3社合計シェアは約90%に達する)。今後の成長率ではどうか。今後5年間の市場規模の伸びも微増とするのが大方の見方である(ガートナーは年間成長率1けたと予測している)。しかし、エンタープライズ・コンピューティングを構成するうえで、DBMSが不可欠な要素であることに変わりはない。また、ベンダのロックイン、スキル投資などの点で、ユーザーにとって、DBMSの選択は依然として重要な案件であることにも異論はないだろう。以下、主要DBMSベンダを取り上げ、個々のビジネス戦略、製品特性を比較しながら、市場動向を分析してみたい。

■オラクル:当面、リーダーの地位は揺るがないが、課題は多い

 DBMS市場で1人勝ちを続けていたオラクルだが、現在、ライセンス売り上げの成長率は鈍化している。今後のDBMS市場は、DB2とSQL Serverの追い上げに対して、オラクルがどう対抗していくのかという構図で展開していくだろう。このような市場の状況は、実はユーザーにとって望ましい状況である。適切な競争が存在すれば、結果的にベンダとの交渉を有利に進めることができるからである。

 プラス要因:オラクルのDBMS市場における実績は大きく、市場にエンジニアのスキルは十分蓄積されている。ほとんどのビジネスドメインにおける、最も安全な選択肢というオラクルのポジションが、当面ゆらぐことはないだろう。特に、ハイエンド分野ではRAC(リアル・アプリケーション・クラスタ)という強力な差別化要素が存在する。RACはクラスタ構成でOLTP(オンライントランザクション処理)の拡張性を提供する画期的な製品である。機能面でみれば、IBMメインフレーム環境の並列シスプレックスが近いのだが、UNIX/Windowsの両環境で同等の機能を提供できる製品は今のところないと言ってよい。

 マイナス要因:先日開催した米ガートナーのシンポジウムで、オラクルの企業研究セッションが行われたが、このセッションのサブタイトルが、DBMS市場におけるオラクルの課題をよく表しているだろう。すなわち、“Many Competitors and Few Real Partners”"(競合他社は多数、真のパートナーは少数)ということである。オラクルはDBMSを中心にソフトウェア・スタックのあらゆる階層に進出しているが、その代償として、パートナーシップの機会を狭めている。特に、同社の戦略製品であるEBS(E-Business Suite)が、SAPなどのアプリケーション・ベンダと競合している点は大きな課題である。多くのアプリケーション・ベンダが、ターゲットとするDBMSの中心をオラクルから、より競合の可能性が低いDB2、SQLサーバへとシフトしている。また、最近になって改善されてきたが、ライセンス料金が高いという市場の認識は、同社にとって克服すべき重要な課題である。

■IBM:機能面ではオラクルとそん色ないが、エンジニアの数が問題

 DB2は日本市場で苦戦している。これは、日本においてオラクルと日本IBMの関係が比較的良好であった点が大きいだろう。つまり、日本IBM自身が積極的にオラクルを顧客に提案するケースが多かったのである。しかし、今後はワールドワイドのみならず日本国内においても、DB2とオラクルの競合は強まっていくだろう。

 プラス要因:技術的な観点で比較すると、DB2はオラクルと比べてほとんどそん色がない(例外は前述のRACである)。特に、最適化技術はIBMリサーチのお家芸の1つである(そもそもIBMは、RDBMS発祥の地である)。また、IBMは、エンタープライズ・アプリケーション製品を有していないため、パッケージ・ベンダとの競合が少ない。パッケージ・ベンダが力を入れやすいDBMSということは、ユーザーやシステム・インテグレータによっても安心できる選択肢であると言うことができる。

 マイナス要因:技術面でオラクルとそん色がないとはいえ、DBMS市場におけるスキルの蓄積という観点では、依然として格差が存在する。まずは、DB2エンジニアの層を厚くしていくことがIBMの最大の課題だろう。加えて、コードベース管理の問題もある。DB2はメインフレーム、UNIXサーバ、AS/400そしてWindowsサーバ上で稼働するバージョンがそれぞれ存在するのだが、同じDB2というブランド名でも、実際のコードベースは別ものなのである。加えて、インフォミクス社の買収により、RedBrickを含む多くのコードベースを管理するという負担がさらに増してしまった。

■マイクロソフト:十分な拡張性を発揮するが、マイクロソフト独自性が強い点に問題が残る

 エンタープライズ領域で導入候補に挙げにくかったSQL Serverも、Version7以降、拡張性、可用性を大きく向上させている。今後、ローエンドからオラクルとDB2への競合を強めていくことになるだろう。

 プラス要因:多くの業務において十分なスケーラビリティを発揮できる。例えば、ハイエンドのインテル・サーバ「ユニシス ES7000」上でのSAP R/3 SDベンチマークでは、1340同時並行ユーザーがサポート可能という結果を出した。これは、かなり大規模なSAP R/3の展開にも適用可能であることを示している。もちろん、絶対性能という点では、UNIXサーバとオラクルの組み合わせにはかなわないのだが(たとえば、富士通PrimePower2000とOracle 9iの組み合わせでは7800同時並行ユーザーがサポートされている)。また、GUIによる管理機能や自動チューニング機能など、管理面での利便性を強化し、ローエンド分野での魅力を高めている。

 マイナス要因: SQL ServerはUNIXに対応していない。ほとんどの業務には対応可能であるものの、ハイエンドではスケーラビリティの上限という観点から見て、UNIXサーバでも稼働するオラクルやDB2と比較して明らかに不利である。加えて、最近では、DBMS領域におけるマイクロソフトの最大の課題として浮上しているのがLinuxの存在である。データベース・サーバOSとして、オラクルやIBMはLinuxに注目している。マイクロソフトは、SQL Serverを始めとする自社アプリケーションをLinuxに移植するつもりがあるのだろうか? つまり、Mac OSにOfficeやInternet Explorerを移植したのと同等の戦略なのだが、今のところマイクロソフトがこれを実行する可能性は低いとガートナーはみている。

■NCR:ハイエンドデータウェアハウスでは最右翼

 冒頭に“ビッグ3”ベンダと書いたが、ハイエンドのデータウェアハウス市場に限定すれば、NCRの「Teradata」も強力なプレーヤーである。NCRというとイメージがわきにくい方も多いだろうが、今やNCR=データウェアハウス・ソリューション・カンパニーなのである。

 プラス要因:Teradataは、最初の設計から並列処理を前提としている唯一の主流DBMSである。業界標準ベンチマークでは計測しにくいクエリーの並行処理度や、ワークロード管理(複雑なクエリーと単純なクエリーを同時並行処理する際に適切な資源のバランスを取る機能)といった点では高い実力を有している。実際、世の中にある大規模データウェアハウスのほとんどがTeradata上で構築されているのである。その名のとおり、1テラバイト以上のデータウェアハウスを構築しようとするなら、Teradataは最も確実な選択肢といえるだろう。

 マイナス要因:TeradataはNCR製のUNIXサーバ「WorldMark」上で稼働する。その結果、ベンダ独自性が強くなり、価格競争力の点では不利になっている。Windowsサーバ版のTeradataもあるのだが、広く普及しているとはいえず、ローエンドのデータウェアハウス市場では成功できていない。また、ハイエンド分野でもDB2やOracleが機能的に迫ってきており、今後競合はますます厳しくなるだろう。

■オープン・ソース系DBMS

 最後に、DBMS市場のダークホースとして無視できないのが、PostgreSQL、MySQLなどのオープン・ソース系DBMSである。ガートナーのクライアントからも、オープン・ソースDBMSに関する質問が増えている。IT予算削減への圧力が高まる中、ユーザーの注目が集まっているのだろう。これらのデータベースは、トランザクションや同時並行処理などの点で、商用DBMSの機能には明らかに劣る点がある。ただし、企業内データベースの要件には、ISAM+αで済むような軽いものも数多く存在するため、このような用途に、オープンソースのDBMSが使用されるケースが今後増えていくだろう。

注:ガートナーは世界最大のIT戦略アドバイス企業で、本記事は同社日本支社 ガートナージャパン リサーチディレクター 栗原氏からの寄稿である。

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