ダブルクリック、電子メール広告市場に活路

2002/12/21

 ここ数年、インターネット広告費の伸び率は、新聞、TV、ラジオ、雑誌などを上回っている。しかし、それでもインターネット広告の世界は厳しいようだ。

 その厳しさを訴えたのが、今年9月中間期の決算で3億円の赤字(単独)となったインターネット広告代理店のダブルクリック。同社は、株式公開買い付け(TOB)によってトランス・コスモスの子会社になったばかり。

 ダブルクリックの代表取締役社長 木戸孝氏は記者懇親会の中で2002年1年を振り返り、広告市場全体は伸びたものの、サイバー・コミュニケーションズ(CCI)やデジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(DAC)といった同業他社との競合、受注単価の下落などによって、「昨年から覚悟はしていたが、非常に厳しかった」と述べた。

 今後は、親会社となったトランス・コスモスとのシナジー効果、投資の「選択と集中」によって、業績の回復を狙う。投資を集中する先として木戸氏は、ダブルクリックの中で急成長している電子メール広告関連を挙げる。「インターネットのメディア特性が明らかになった。それは、インターネットは特にダイレクト・マーケティングに適していることだ。そのため、メール広告の分野が今後伸びる。当社は参入は遅れたが、DARTmailなどを含め、この成長市場にかなり多くの経営資源を集中させる」という。

 電子メール広告は、他社も重視している市場。それに対してどのような戦略で挑むのか。それについて木戸氏は、「付加価値やROIだ」と強調する。しかし、電子メール広告市場はすでに価格競争が繰り広げられている。同社が描くように市場が大きくなるにしても、価格競争による価格(受注単価)下落が続く中で、同社の思惑どおりにいくだろうか? 木戸氏はこれまでの電子メール広告には、「インテリジェンスがなかった」とする。米国本社のノウハウや、実験的に日本企業数社に対して行っているコンサルティングなどの結果をほかの企業にも拡大することで、打破したいと説明する。

 多くのユーザーは、1日当たり多くの電子メールを受け取っており、市場は飽和しつつあるのではないかとの疑問に対しては、「まだまだ企業から直接メールがくるわけではない。愛着があったりする商品に関連するメールならばユーザーは必ず開く」(木戸氏)と述べ、電子メールによるダイレクト・マーケティングは、これからまだ伸びるとの認識を示した。

 同社の成長を脅かす存在として、広告費を払う企業の予算配分の問題がある。インターネット広告について個別の予算を持つ企業は少なく、企業によっては広告費全体のパイを決め、その中でどのようなメディアに配分するかを、広告代理店に任せているところもある(大企業などの場合)。そうした場合、インターネット広告は、広告代理店系列のインターネット広告代理店を優先して利用する可能性がある。ダブルクリックが同社の電子メール広告システムの付加価値や、投資に高い効果があると説明して受注につなげるのは、こうした一種の“商慣習”の点で厳しいかもしれない。

 もちろん、同社の優位性を理解してくれる企業はあるだろう。問題は、その数をどこまで拡大させられるかで、同社の今後を占う試金石の1つになりそうだ。そのための営業力については、「大いにトランス・コスモスに期待している」(木戸氏)という。

 同社のもう1つの課題は携帯端末。携帯電話市場も大きく伸びているが、これまで米ダブルクリックは、米国や欧州などでそれほど伸びていない携帯端末関連への投資には、それほど積極的ではなかった。しかし、資本というしがらみがなくなった分、日本では携帯端末分野でダブルクリックの存在感を高めたいところだろう。それに対して、どのような戦略プランを立てるのかにも注目が集まりそうだ。

(編集局 大内隆良)

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