MIT発のユビキタス技術、日本に上陸

2003/1/23

左から、オートIDセンター エグゼクティブ・ディレクターのケビン・アシュトン(Kevin Ashton)氏、MIT教授のサンジェイ・サルマ(Sanjay Sarma)氏、慶應義塾大学 環境情報学部教授 村井純氏

 米マサチューセッツ工科大学(MIT)に本部を置く国際的非営利組織オートIDセンターは1月22日、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスにアジア初の研究拠点を設立すると発表した。同研究機関のリサーチ・ディレクターには慶應義塾大学 環境情報学部の村井純教授が就任する。MIT、イギリスのケンブリッジ大学、オーストラリアのアデレード大学に次ぎ4番目の研究拠点となる。オートIDセンターは、中国にも姉妹拠点の設立を計画している。

 オートIDセンターでは、さまざまな製品や物体にEPC(Electronic Product Code)と呼ばれる製品認識用の識別子を付加し、その製品に関する情報や履歴をインターネットを通して取得するためのインフラおよびネットワーク利用に必要な技術の研究・開発を行っている。EPCとは、いわばバーコードを進化させた次世代の製品認識コードで、製造者や製品種別、製品の個別認識などが可能なシステム体系である。オートIDセンターでは、EPCを格納する無線周波認識(RFID)タグ技術や製品に関する情報流通を標準化することで、世界規模の物流システムに応用していきたい考えを示した。米国では、プロクター&ギャンブル(P&G)やジレット、ウォルマートなどが実際に在庫管理でこの技術を使っている。

 この技術がサプライチェーン・マネジメントの現場で実用化された場合、製品供給チェーンの自動化が可能になる、とオートIDセンターでは説明する。例えばコカ・コーラの缶に付与されたRFIDタグは、工場からトラックで運ばれ、倉庫、店舗、消費者宅へと移動するごとに、それぞれの場所に設置されたリーダー(読み取り端末)が無線で製品情報を読み取る。店舗では製品情報の読み取りによって在庫調整が自動的に行われることになるし、消費者はチェックレスで買い物が可能になる。消費者宅内でコカ・コーラが追加(あるいは消費)された場合には、その情報が更新されて買い物リストに反映されたりもするだろう。

 基本的なシステム構成はシンプルだ。リーダーがEPCから情報を収集すると、データ管理サーバである「Savantコンピュータ」が処理を行う。その後、データベースサーバ「ONS(Object Name Service)サーバ」に問い合わせをし、ナンバーを受信するとそのアドレスを提供する。これらのサーバで処理されるデータは「PML(Physical Markup Language)」と呼ばれるXMLベースのマークアップ言語で記述され、別のサーバに保存されている。

 製品に付与するタグは、現段階ではシリコンを材料とする。MIT教授のサンジェイ・サルマ(Sanjay Sarma)氏によると、400ミクロンまで極小化が進んでおり、5〜10セントのコスト幅であるという。問題は、このコスト幅だ。120円の缶飲料に10円弱のコストを追加するのは現実問題として厳しいが、オートIDセンターのエグゼクティブ・ディレクターのケビン・アシュトン(Kevin Ashton)氏は「普及すればコストは低下していく」とし、大きな問題とはならないとしている。

 タグを付与する製品の材質も課題として残っている。プライバシー保護の対策も施さなければならない。この点についてアシュトン氏は「消費者がRFIDタグが付与された商品だと認識できるようにし、商品選択の権利を消費者に残す。また、リーダーの設置場所やどのような情報がタグに書き込まれているのか、という情報についても消費者に公開していく」と具体的な対応策について語った。

 今回設置された日本の研究拠点の役割は、村井氏が代表を務めるWIDEプロジェクトとの連携や、大規模SCMに対応するための基礎システムの構築、タグが使用する電波帯域問題など日本独自の制度的な課題の克服などである。特に、電波帯域については、オートIDセンターが標準とする915MHzは、日本国内では無線免許を必要する帯域である。そのため、現段階では、2.45MHzマイクロ波用タグの標準仕様について、検討を行っている。

(編集局 谷古宇浩司)

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