次世代TRONプロジェクト「ユビキタスID」

2002/12/12

東京大学教授の坂村健氏

 社団法人トロン協会は12月12日に第19回トロンプロジェクトシンポジウム「TRON SHOW 2003」を開催する。開催に先立ち、東京大学教授の坂村健氏は記者会見をし、2002年に行ったTRONプロジェクトの成果を発表した。
 
 TRONプロジェクトにおける2002年最大の成果は、ユビキタス環境構築のためのオープンプラットフォームである「T-Engine」アーキテクチャの仕様研究開発、普及活動を開始したことだろう。6月24日にT-Engineフォーラムを設立し、12月10日現在で71社が加盟、国内だけでなく、欧米の企業も参加する規模に成長した。
 
 T-Engineとは、TRONの基盤技術を活用した組み込み製品開発用のプラットフォームである。ハードを追加する場合は拡張ボードを使用する。ミドルウェアを追加することで、応用システムの開発を行うこともできる。主な開発用途としては、TRONが組み込み用のOSとして圧倒的な強みを誇る携帯電話や、PDAなどの小型端末が想定される。
 
 従来、組み込み用の主要なCPU間では互換性がなく、メーカーごとに異なる仕様で動いていたという経緯がある。しかし、「T-Engineならば、ARM、MIPS、SHを問わず、再コンパイルを行うだけで互換性を保つことが可能」(坂村氏)となる。というのも、異種CPU間でミドルウェアを流通させる仕組みをあらかじめ設計してあるからだ。T-Engineには、ソースやバイナリの形式規定を行い、資源競合の回避規定を盛り込んだソフトウェア形式の標準化「T-Format」に沿って開発を行える。
 
 また、異種フレーム間のミドルウェア相互呼び出し機能である「T-Itegrate」、オープンソースソフトウェア集である「T-Collection」、ソフトウェアのオンライン流通機構である「T-Dist」などが搭載されている。
 
 「組み込みの世界は、チップメーカーが囲い込み、ITRONが全てのチップに載っていたのにもかかわらず、ミドルウェアがまったく流通していなかったというおかしな状況だった」と坂村氏は従来の組み込みの世界におけるビジネスモデルを批判、「T-Engineではそんなことはまったくない」と胸を張る。また、坂村氏は、2003年春に、「モノ」を認識するための基盤技術である「ユビキタスID」体系を構築、普及させるための機関である「ユビキタスIDセンター」を設立する予定についても言及した。
 
 ユビキタスIDセンターは、世の中にある全ての「モノ」に128ビット長のID(ユビキタスID)を付与することで、機械が「モノ」を識別する世界の構築を目指す中央拠点となる。具体的には、「モノ」につける超小型チップの開発やユビキタスIDを読み取る装置の開発を行い、同時にユビキタスIDの管理業務も担当する。
 
 これが実現すれば、IPv6の普及で実現するとされる「インターネット冷蔵庫」などの家電製品の開発が可能になる。なおIPv6とユビキタスIDの違いについて坂村氏は、「IPv6はあくまでインターネットのプロトコルであり、端末に大きな負荷がかかる点がネック」と指摘、「ユビキタス環境の実現には、ユビキタスIDの方が優れているのでは」とコメントした。

(編集局 谷古宇浩司)

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