エンジニアのスキルを定量化する試みがスタート

2003/12/16

 IT業界の最近の流れは、実装技術の標準だけでなく、開発手法、開発プロセスなどでも標準化を取り込もうとしている。これは、汎用機からオープンシステムへとビジネスの主役が交代する中で、従来の開発手法、開発プロセスでは制御できないことに開発者も企業も気づいたからだとの見方もできる。その流れの中にITスキルスタンダード(ITSS)も位置付けられようとしている。

 ITSSは、経済産業省が中心となって策定された。2003年7月に公表されたITSSの概要では、「各種IT関連サービスの提供に必要とされる能力を明確化・体系化した指標であり、産学におけるITサービス・プロフェッショナルの教育・訓練等に有用な『辞書』(共通枠組み)を提供しようとするものである」と定義されている。

 しかし、ITSSの文言だけで事足りるほど話は簡単ではない。役所が絡む話のため、具体的な製品名や会社名、サービス名などに触れることはできず、エンジニアに必要なスキルやキャリアは、抽象化された言葉として語られている。それを具現化し、実証化するために活動を行い、知識を共有化しようというのが、12月15日に発足したITSSユーザー協会の役割となる。

 ITSSはNECソフト、コンピュータ・アソシエイツ、シーエーシー、シスコシステムズ、日本オラクル、日立システムアンドサービス、富士通、松下電器産業を中心に結成されたNPO(特定非営利活動団体)である。会長は東海大学教授 唐津一氏が務める。

 ITSSの役割は、企業にあっては企業戦略に必要なITスキルを持つ人材がどれほど必要で、どこで必要となるのか、そのためにどうすべきなのかを提示し、育成や人材調達の目安にすることだ。それによって企業の業績に寄与できると考えている。エンジニア個人に対しては、スキルの向上や自己実現、それらを通して個人の業績を向上させようという目的を持つ。

ITSSユーザー協会専務理事を務める高橋秀典氏

 ITSSについては、前述したように抽象化され、そのため使いものにならない、という指摘がある。ITSSユーザー協会専務理事を務める高橋秀典氏(日本オラクル バイスプレジデント)はそれを意識し、「例えばITSSにはWindowsという固有名詞が入っていない。それは抽象化されたためだ。1万人/月のプロジェクトを管理したことがあるか、という項目があるが、現在そういうプロジェクトに遭遇することはほとんどない。これをするのに必要なこと、というように具体化する」と述べ、ITSSユーザー協会がITSSの具現化の一翼を担うことを強調した。あくまでITSSは辞書であり、それを翻訳、解釈する必要があるとも指摘する。

 ITSSユーザー会は、準備段階ながらすでに今年9月から先行タスクフォース活動として、ITSSレベルとスキルマップを各企業で当てはめる作業を行っている。この作業を12月いっぱいに終了し、各企業における成果を持ちより、さらに実証・研究ワーキンググループによって実証実験を行う。この実証実験によってデータの蓄積、参照モデルの定義、標準化団体へのフィードバックを行っていく。また、ITSSに沿った研修への活用、事例の研究も行う。

 そしてこれら膨大な資料をもってスキルの管理ツール「SSI-ITSS」(Standard Skills Inventory for ITSS)に活用していく。SSI-ITSSは各エンジニアのスキルを可視化するビューなどを定義できる。非会員の個人や組織の部門でも、スキル診断などで利用できるようにしていく。企業で人事・教育システムと連動させて利用したい企業には、有料でASPサービスなどの形態で提供する。

 しかし、こうしたスキルを誰が判断するのか? ITSSユーザー協会が行っていたのでは、その客観性に疑いの目が向けられる。そのため、欧米で行われているような第三者による評価手法(アセスメント・メソッド)の開発や検証、さらには評価を行うアセッサーの育成も視野に入れているという。これらの活動でITSSのどこにITエンジニアが位置しているかを評価していくわけだが、高橋氏はその評価自体は、「資格にするか、認定とするかはこれから」と述べた。

 記者会見では、ITSSユーザー協会設立の中心メンバーの企業担当者が、各社における取り組みの状況について発言した。そのコメントをまとめれば、「自社の人事制度の見直しの中でITSSをうまく取り込みたい」という一言に表されるだろう。これまで各社各様で行ってきた人事・教育制度だが、汎用機からオープンシステムへとビジネスがシフトし、成果主義が広く浸透する中で、新たな人事・教育制度の基盤をつくる必要がある。それをITSSに求めているのが現在の図式だろう。

 それ以外にも高橋氏は、「ITSSの1〜3の入門レベルに、日本のエンジニアの6割から7割がいる。中国やインドは教育もシステム化され、社会に出てすぐに(エンジニアとして)活躍できる。そういう人たちに置き換えられるのがこのレベル(1〜3)。そういうところにいるエンジニアに危機感がない」と指摘した。ITSSによってエンジニアに対して現在の自らのスキルレベルを明らかにし、そのうえでスキルアップを図らなければ、エンジニア個人も、そしてそのエンジニアを雇用している企業にも明日がない、そういった認識に立っているのかもしれない。

(編集局 大内隆良)

[関連リンク]
ITSSユーザー協会

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