サンに聞く、ITベンダはなぜ「グリッド」に向かうのか

2003/12/18

 「グリッド」や「オートノミック」のキーワードの下に、主要ITベンダが独自の分散システムアーキテクチャを競っている。その中で、OSレベルから分散システムを構築しようとしているのがサン・マイクロシステムズの「N1」だ。同社でN1システムの総責任者を務め、OracleWorld Tokyoで12月18日に基調講演を行うディビッド・ネルソン−ギャル(David Nelson-Gal)氏に、サンをはじめとする業界全体が分散システムに傾倒する理由と、サンの展望を聞いた。


―― いまやIT業界全体が、グリッドや分散システムといった方向へ向かっています。Sun Fireのような単一筐体のマシンの性能向上ではなく、N1のような分散システムによる性能や機能向上に業界全体が向かっているのはなぜですか。

「インターネットアプリケーションによって、スケーラビリティ向上の流れが促進されている」とサン・マイクロシステムズ バイスプレジデント N1システム担当 ディビッド・ネルソン−ギャル氏

ネルソン−ギャル氏 分散システムは1980年代から存在していました。それがいまも進化し続けているのです。企業では、各部門からの要求に応じて、いままでさまざまなサーバが導入されてきましたが、最近になってITマネージャは、こうした分散配置されたサーバの効率的な運用や管理をどうやって実現すればいいのか、といったことに悩まされています。そのために各社が効率的な分散システムの実現に取り組んでいるのではないでしょうか。サンがN1でやろうとしているのは、分散したコンピュータを使って、シングルシステムのように扱えるインフラをつくろう、ということです。そうすれば、システムの稼働率が上がって効率的になり、柔軟性も高まります。

―― OracleWorld Tokyoの最大のテーマは「グリッド」です。しかしオラクルが「グリッド」と呼ぶものをIBMは「クラスタ」と呼ぶなど、まだグリッドという言葉の合意はとれていないようです。N1の「グリッド」はどのようなものですか。

ネルソン−ギャル氏 確かにグリッドにはいくつかの意味があるのかもしれません。しかし大事なのは、顧客の要望によって何を実現するか、ということです。

 N1は、ネットワークから生成したコンピュータアーキテクチャだといえます。1980年代、1990年代は、ネットワークで結ばれたコンピュータごとに、OSがプロセスを実行するためのAPIを提供し、ストレージやユーザーといったリソースを管理していました。N1では、ネットワークで結ばれたシステム全体でリソースを管理し、実行環境を提供します。

―― N1のような分散システムでは、実行するのが得意なアプリケーションと不得手なアプリケーションがあるのではないですか?

ネルソン−ギャル氏 そんなことはありません。例えばいま、われわれはOracleWorld Tokyoの会場にいるわけですが、整合性が不可欠なために分散システム上で実現しにくいといわれるデータベースであっても、オラクルがOracle 10gによってグリッドに対応させています。分散システム上でソリューションを構築するという要求は非常に大きく、各社とも巨大な努力によってそれを解決しています。

 また、1つのアプリケーションに見えても、Webサーバ、ビジネスロジック、データベースといったレイヤに分けて考えることができます。今後は多くのアプリケーションが、このように自然に分散したものになっていくでしょう。

―― N1はすでに顧客への導入が始まっていると思いますが、まずはどのような業界で使われていくのでしょう。

ネルソン−ギャル氏 まだどの業界で積極的に使われそうだ、という傾向は見えていません。N1はインフラですから、幅広い業界に対応し、使われていくのではないかと考えています。

―― 今後SolarisとN1は、1つのOSに統合されていくのですか?

ネルソン−ギャル氏 Solarisは強力でスケーラビリティの高いOSです。来年リリースされるSolaris 10では、「ゾーン」と呼ばれるアプリケーション実行環境が搭載され、より安全で、きめ細かい管理の下でアプリケーションを実行できるようになります。一方で、N1は柔軟性の高い分散システムのインフラを構築できます。もちろん、N1はSolaris以外のOSを利用しても、またハードウェアがSPARCやIntelでも、分散システムを構築することもできますが、SolarisとN1という2つをインテグレーションするで、非常にパワフルな分散システムのインフラを構築できると思います。

(編集局 新野淳一)

[関連リンク]
サン・マイクロシステムズ

[関連記事]
SPARC、第3の革新が担うもの (@ITNews)
買収を繰り返し第2フェイズに突入するサンのN1 (@ITNews)
サンのソフトウェア戦略第2幕は、勝利への第1歩 (@ITNews)
「ストレージだけではない」、サンの仮想化技術 (@ITNews)
エリソン登場、Oracle 10gの神髄を語る (@ITNews)

情報をお寄せください:



@ITメールマガジン 新着情報やスタッフのコラムがメールで届きます(無料)