[OracleWorld 2003開催]
エリソン登場、Oracle 10gの神髄を語る

2003/9/11

米オラクルの会長兼CEO ラリー・エリソン氏

 米オラクルの会長兼CEO ラリー・エリソン(Larry Ellison)氏は、同社のイベント「OracleWorld 2003」で講演し、出荷予定の「Oracle 10g」について、「データベースで故障が起きても12秒程度で復旧することができる。だが通常はユーザーが故障に気付くことはない」と述べ、グリッド技術を採用したことでデータベースのフェイルオーバーの時間を大幅に短縮したことを強調した。

 オラクルは年末にも「Oracle Database 10g」と「Oracle Application Server 10g」「Oracle Enterprise Manager 10g」、そして「Oracle Real Application Clusters 10g」を出荷する予定。これらの製品はグリッド技術に対応し、総称として「Oracle 10g」と呼ばれる。

 エリソン氏によるとデータベースが故障し、別のシステムに切り替わるフェイルオーバーの時間は、現行の「Oracle9i」の場合で数分。しかし、データベースを複数のサーバで分散処理するOracle Database 10g、Oracle Application Server 10gでは12秒程度で切り替わる。ただ、フェイルオーバーに12秒程度の時間がかかるのは重大な障害が発生した「最悪のケース」(エリソン氏)で、ほとんどの障害では遅延なくサービスが継続し、ユーザーがデータベースやアプリケーションサーバの故障に気付くことはないという。

 Oracle 10gのグリッド技術を実現するうえで「最も重要となる」(エリソン氏)のが、グリッドを運用管理する機能の「Grid Control」だ。Grid Controlはシステムに含まれるヘテロジニアス環境のサーバやストレージ、ネットワーク機器などを仮想化し、1つのシステムとして統合管理できるようにする機能。あらかじめ設定したポリシーに従って運用されるので、管理者が手作業で行うことは大きく減少する。これまでオラクルのデータベースなどを管理する場合は、ファイルシステムやボリュームマネージャなどは他社の運用管理ソフトを使うケースが多かった。が、Grid Control機能を使うことで、他社製ソフトは必要でなくなる。そもそもOracle 10gが稼働している環境では「サードパーティのソフトは邪魔になる」(エリソン氏)という。

 Grid Controlはグリッドに対して、リソースを自動で割り当てるプロビジョニングや、システムを監視するモニタリングの機能のほかに、アイデンティティの統合管理が可能。システムへのシングルサインオンを実現し、ポリシーベースのセキュリティ機能を備えている。システムを管理する担当者を削減することが可能で、企業にとってはコスト削減のメリットがある。

 エリソン氏はオラクルのグリッド技術を使っているゲーム会社のエレクトロニック・アーツやCERN(欧州合同素粒子原子核研究機構)の事例を紹介。自社のオラクル・ユニバーシティのケースでは、240台のLinuxサーバでグリッド環境を構築し、6000人の受講者に対してサービスを提供。グリッドを導入したことで、週末丸々かかっていた受講コース用のソフト設定が、1コース13秒に短縮されたり、週に108時間かかっていたシステム管理者やデータベース管理者の仕事が、それぞれ2時間に短縮されたという。

 グリッドを強力に打ち出したエリソン氏だが、eビジネス・オンデマンドとして似たようなコンセプトを打ち出しているIBMが気にかかるようだ。エリソン氏はIBMのオンデマンド戦略について、「ビッグサーバを導入し、利用したプロセッサ数に従って支払うのが、IBMが考えるオンデマンドの定義」と指摘し、「それはそれで結構だ。しかし、オラクルの定義とは違う」と切り捨てた。

 オラクルのグリッドでは「キャパシティが必要になれば、5000ドルの小切手でブレードサーバを購入し、プラグインするだけ。グリッドの美徳は無限にキャパシティがあることだ」として、「搭載できるプロセッサ数に限界があるSMPのサーバと異なり、グリッドでは何千のプロセッサを利用可能」とIBMとの違いを強調した。PowerPCを搭載したIBMのサーバと、ブレードサーバでグリッドを構成したOracle 10gのシステムを比較し、「プロセッサの1GHz当たりのコストはオラクルがIBMの30分の1だ」とコスト面でもアピールした。

 エリソン氏の“口撃”はマイクロソフトにも及んだ。マイクロソフトがメインフレームのようなビッグサーバに対応した製品を作ろうとしているとして、「これは推測だが、マイクロソフトは最新の技術をIBMに学びに行って、どういうわけか地図を反対に見て、研究所ではなく、IBMの博物館の方に行ってしまった。それでメインフレームのビッグサーバを見て、それが最新技術だと思って持ち帰ってしまったのではないか。これ以外にマイクロソフトの現在の戦略を説明できない」と痛烈に皮肉った。

 オラクルがビッグサーバでなく、ブレードサーバを組み合わせるグリッドに向かうのはなぜか。エリソン氏はビッグサーバの問題点を、キャパシティ、コスト、信頼性だと説明。「最新のアプリケーションではビッグサーバでもパフォーマンスは不十分だ」と述べた。オラクルが行っているのは「すべての基幹アプリケーションを稼働させられる代替案を出すこと」として、「グリッド技術はエンタープライズ・コンピューティングの40年の歴史の中で初めての革新だ」と聴衆にアピールした。

サンは“敵の敵は友人戦略”

 OracleWorld 2003には米サン・マイクロシステムズのCEO スコット・マクニーリ(Scott McNealy)氏も登場。「敵の敵は友人だ」と述べて、オラクルとのパートナーシップを強調した。

米サン・マイクロシステムズのCEO スコット・マクニーリ氏

 マクニーリ氏はライバル会社のマイクロソフトについて、「サンは.NETもやらないし、マイクロソフトのプラットフォームも扱わない」と説明。「ラリー・エリソンは船に乗せてくれるほど親しい友人だ」と語り、オラクルとの共同開発研究などをアピールした。

 また、マクニーリ氏はSun Fire上でOracle Database 10gを稼働させるデモンストレーションを公開。4ノードを接続するインターコネクトにはInfiniBandを採用。マクニーリ氏は「サンのN1とOracle 10gを統合し、両社で事前に検証したセット製品を今後出荷する」と述べた。

 マクニーリ氏は自動車業界を例に挙げて、「すべてカスタム化された自家製の自動車というのはあり得ない。しかし、企業システムはユニークで、カスタム化されている」と指摘。「カスタム化することで複雑になり、コストがかかり過ぎている」と述べた。複雑性を解消し、コスト増大を防ぐには「技術指向型ではなく、情報を上手く管理できる企業にならなくてはならない」と語り、「企業はITからIM(Information Management)に移行する必要がある」と訴えた。

 また、サンの共同設立者であるビル・ジョイ(Bill Joy)氏が、サンを退社することについてマクニーリ氏は、「ビルは水平線の向こうを見て、開発してくれた人。非常に残念だ」とコメント。「ビルと私は老人で、業界では古い人間。サンにはネットワークの世界で育った若いテクノロジストがいる」として、「若い人たちで決定してもらうのも悪くないと思う」と後輩エンジニアへの期待を述べた。

(垣内郁栄)

[関連リンク]
日本オラクル
サン・マイクロシステムズ

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