このままだとSI企業は存在価値がなくなる?

2004/3/10

 これまでERPやSCMなどパッケージ型の“お仕着せ”ソリューションが中心だったビジネスITの世界で、新たにユーザー自身が最適なビジネスプロセスを創り出すBPM(Business Process Management)がトレンドになろうとしている。今年2月に、BPMソリューション第1人者のIDSシェアー・ジャパン 代表取締役社長に就任した力正俊(ちから・まさとし)氏に、今後のBPMの動向と同社の戦略について伺った。


――最近、「ビジネスプロセスの再構築」とか「ビジネスプロセス最適化に基づくシステム連携」といったように、“ビジネスプロセス”が1つの流行語のように使われています。こうした動向とともに、ビジネスプロセスマネジメント(BPM)というキーワードも徐々に市民権を得てきたようですが、この状況をどう見ていますか。

IDSシェアー・ジャパン 代表取締役社長 力正俊氏

力氏 いま巷で使われているBPMという用語は、結局のところ「データオリエンテッド」の考え方にすぎないと思っています。ビジネスのプロセスではなく、「データの連携プロセスをどう作るか」という観点ですね。その意味では、いま騒がれているBPMはみな“間違い”だと思っています。

 そもそもBPMとは、ビジネスプロセスを見直し、最適なプロセスに構築し直し、モニタリングをして、改善を続けていく取り組みそのものを指します。当社の打ち出しているBPMは「プロセスオリエンテッド」の考え方であり、それはITやデータのことではありません。業務を変えること、組織を変えること、それに伴うシステム改革を指南することです。多くのITベンダが提唱するBPMとは、結局ITの仕組みを再構築することですよね。しかしIDSではITの改変を主軸に置いているわけではありません。あくまで中心は業務そのものです。当社が「経営と情報の懸け橋」ということを標ぼうしているのもそのためです。

――するとIDSシェアーのBPMツール「ARIS」では具体的に何ができるのですか。

力氏 以前は単なる“お絵かきツール”というイメージでしたが、いまは製品体系が整ったため、いろいろなことができるようになりました。最も得意とするのはビジネスプロセス設計の部分で、これは企業内の人・物・情報・金・システムという資産を把握し、それぞれがどのようなプロセスで動いているのかを可視化します。

 しかし、BPMを実現するにはそれだけでは不十分で、「具体的にどういう改善策が有効か」「常に業務状況を監視し、ボトルネック部分を洗い出すにはどうすればいいか」ということも検討事項に入れる必要があります。そこで改善前後のパフォーマンス比較評価や、ビジネスプロセスを監視する「Process Performance Manager」などの機能を提供しています。

 ちなみにARISで描いたビジネスプロセスをITに落とすために、UMLの変換ツールなども用意しています。実行環境は、R/3やカスタムメイドのアプリケーション、ワークフローなど何でも構いません。落としどころのITは問わないのです。それよりも、ビジネスプロセスの問題点を洗い出し、改善を重ねていく取り組みの方が重要です。

――しかし、ツールを使ってビジネスプロセスを監視するといっても、結局それはITの監視にとどまって「人」の業務プロセスを監視するというわけではないですよね。

力氏 ARISでは「どういうプロセスで、誰が何を行うべきで、実際にどうだったか」、というデータを取得し、プロセスを監視しています。例えば購買申請のワークフローの仕組みがありますね。ARISを使うと、そのフローの中でいつ誰が申請書を誰に上げたか、それが処理されるのにどれだけ時間がかかったか、誰の処理が最も早く、誰が遅かったかが分かります。結果として表れるのは確かにIT上のやりとりですが、そこから「人」の業務プロセスを知ることができるのです。

 遅延が発生した場合はその理由を分析し、あらためて対処策を練る。すると業務フローそのものや、そもそものスタッフの役割を変えたり、あるいは組織を変更するなどのプランが出てきます。では、そのプランはどの程度有効なのか、またプラン実行後、新しいプロセスをモニタリングしてさらに良い策を練るにはどうしたらいいか。そこで、先ほどお話した機能が重要になってくるわけです。また逆に、無駄なプロセスを把握することによって、余分な人員やシステムを削減することもできます。

 ただ、ARISの機能を始め、BPMの本質について当社からのメッセージが弱かった。そこを強化していきたいと考えています。

――具体的には?

力氏 パートナー企業を育てることです。“育てる”というと語弊がありますが、むやみに数を増やすのではなく、プロセスコンサルティングができるパートナーさんと共同でビジネスを推進していくことですね。

 ただ冒頭に申し上げたように、IT業界の「BPM」という言葉は、どうしてもデータ連携と同義語になっているケースが多い。そうではなく、「このプロセスの問題点は何か」「どうすればそれを改善できるか」ということを提案できるようにならないといけません。単にARISを売るのではなく、プロセス改善につなげられるかどうか。こうしたノウハウを積極的に提供していきたいと考えています。実際、ある大手SIでは「プロセスコンサルティング部」という専門部隊を作り、ARISを使った業務改革コンサルティングに注力する構えです。こうした方向を業界全体のトレンドにしていきたいと考えています。

――SI企業からすると、プロセス改善策を指示するだけでは弱いという面もあるのではないでしょうか。コンサルティングは専門のコンサルティングファームがありますし、従来のSI企業はやはりモノを売るというビジネスがある。そう考えると、SI企業が本当の意味の「プロセスコンサルティング」に乗り出すのは難しい気がします。

力氏 しかし、ITのモノ作りの部分は現在も中国やインドに移管されていますよね。将来は開発ツールが充実して、プログラミング部分は完全にツール主導になるかもしれません。人月工数でITを作るというビジネスは間もなく終わります。

 するとSI企業の残る道はどこにあるのでしょうか。ユーザー企業の業務に精通し、「どうしたらその業務が良くなるか」ということを考えて、それを基にITの企画に落とし込めるという部分ですよね。これはオフショアではできませんし、ツールだけで実行することも不可能です。

 そもそも1980年代はシステムを設計するときは、まず業務から入りました。この構図が崩れたのはパッケージの登場が原因です。1990年代には「業務コンサルティング」という名の下、パッケージと業務のフィット&ギャップを行うことに時間を費やしました。そのためこの10年で、業務が分かるエンジニアがいなくなったのです。業務を理解する古くからのエンジニアがリタイアする「2007年問題」が叫ばれていますが、このままだと本当に技術中心のエンジニアしかいなくなってしまい、ユーザー企業との溝は深まるばかりです。ユーザー側は「どうすればビジネスを改善できるのか」という具体策を知りたいのに、SI企業は売れ筋の高価なパッケージばかり提案してくる。このためユーザーの満足度は一向に上がらず、かえってIT離れを起こしています。

 ではどうするか。業務を学び、プロセスの問題点を見抜く力が必要なのではないか。そこでARISのようなツールが必要になるわけです。ARISなら業務フローを描くところから始まり、必要な情報はすべてドキュメントとして残すので、プロセスコンサルティングに必要なノウハウが継承できます。いまSIは「ユーザー企業の業務」という立脚点に返るべきです。そうすればIT業界が、ひいては日本企業が元気になる。そのための取り組みとして、パートナーを“育てる”ことに注力したいと思います。

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IDSシェアー・ジャパン

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