欧州各国でLinux採用が進むのは「当然といえば当然」
2004/3/23
欧州各国政府によるLinuxの試験採用発表が相次いでいる。1万4000台のPCをLinuxベースに移行させると発表して大きな話題となった独ミュンヘン市のほか、英国政府調達庁(OGC)は政府ITシステムにサン・マイクロシステムズのLinuxデスクトップを試験導入すると発表した。欧州各国では電子政府化が進んでおり、そこでLinuxにスポットがあたった形だ。サン・マイクロシステムズの英国支社で政府およびパブリックポリシートップを務めるリチャード・バーリントン(Richard
Barrington)氏に、政府とオープンソースOS採用動向の現状や課題について、話を聞いた。
――欧州各国で政府によるオープンソースOSの採用が進んでいるようです。
サン・マイクロシステムズ英国支社で政府、パブリックポリシートップを務めるリチャード・バーリントン氏 |
バーリントン氏 政府のシステムでのLinuxというとこれまで、バックエンドで小規模に導入する程度でした。最近の発表に共通した特徴は、デスクトップでの採用です。サンでは、JavaベースのオープンソースデスクトップOS「Java Desktop System」(JDS)を2003年11月に発表しましたが、12月に英国政府調達庁(OGC)が政府の全ITシステムにJDSの試験導入を発表しました。
欧州ではEU(欧州連合)のイニシアティブの下に、各国政府がオープンソースソフト採用のポリシーを打ち出しています。例えば、英国では政府が支援する研究開発はオープンソースベースでなければならないことになっています。地方自治体がアプリケーションを採用する場合もオープンソースベースでなければなりません。当然といえば当然です。460ある地方自治体が別々にライセンス料を払うのは、国全体で見ると大きな無駄です。
――OGCのJDSトライアルについて、詳しく教えてください。
バーリントン氏 これは、“memorandum of understanding”という一種の紳士協定で、すべての政府機関に特別価格でJDSを提供するというものです。現在複数のトライアルが進行中で、検証した結果、正式に導入するかどうかの決定が下されることになっています。2004年夏には、いくつかの結果が出てくる見込みです。
英国には現在、3〜400万台のPCがありますが、約95%がWindows OSです。5年後には、非Windowsの比率が20%になると予想されています。私としては、この数字がもっと増えることを願っていますが。
――オープンソースが政府の関心を集めた理由は何だと思いますか?
バーリントン氏 いくつか挙げられます。まず、政府はマイクロソフトの独占を危険だと思っています。システムが単一のベンダの“モノカルチャー”になるのは、危険です。先日のMyDoomのように、ワームやウイルスが発生するなどセキュリティ上の欠陥が見つかると、一夜にしてすべてが崩れてしまいます。
次に、競合の促進です。複数のベンダが競合すると、必然的に製品の質は向上しますし、価格も妥当なものになります。また、政府という立場上、独占状態のマイクロソフト製品を導入してよいのかという倫理的な理由もあるようです。
コストでは、ライセンス料だけで見るとサンのJDSはマイクロソフトの25%です。保守を見ても、オープンソースはソースコードが開示されているので、自分たちでメンテナンスが可能です。サンでは、保守は顧客の選択に任せています。政府や顧客にとっては、オープンソース採用により、これまでのベンダ主導から、自分たちのタイミングでビジネス上の決断ができるようになるのです。
政府特有の理由もあります。“ライセンス料”としてマイクロソフトが受け取る収益は、すべて、海外(米国)に流れてしまいます。市民の税金が地元経済や地元での研究開発活動に貢献しない現在のお金の流れは、果たして市民や政府にとってよいことでしょうか?
最後に、Linuxの成熟です。JDSは堅牢でマイクロソフトとの互換性も高い製品です。
――移行の際に、サポートを心配する声があるようですが。
バーリントン氏 これまで使い慣れたものから移行するのですから、神経質になるエンドユーザーもいるようです。サンでは、トレーニングが重要と思っており、トレーニングを含めた移行サービスを提供しています。
――今後の課題は何でしょう?
バーリントン氏 顧客はオープンソースOSに対し、QoSと免責保証を求めています。SCOの一件で、IP(知的所有権)が存在するということが浮き彫りになりました。サンはライセンスを購入していますので、SCOに訴えられる心配はありません。これは、スコット(会長兼CEOのスコット・マクニーリ[Scott McNealy]氏)も先日、訪英した際に顧客の前ではっきりと名言しています。SCOの一件は、Linux全体の流れとしてみると大きな変化を与えるものではありませんが、懸念の声があるのは事実です。
それから、マイクロソフトのマーケティングです。マイクロソフトは巨大な資金をマーケティングに費やしており、現在、米国に続き英国でもアンチLinuxキャンペーンを展開しています。また、Linuxへ移行する意向を明らかにした企業や政府のところにやってきて、大幅な値下げを提案する、という作戦も実行しています。たとえば、ロンドンの自治体の1つ、ニューハムがLinuxへの移行を発表すると、マイクロソフトは値下げ価格を提案しました。その結果、同自治体は移行計画をとりやめ、マイクロソフトにとどまることにしたのです。現在、サンはいくつかの政府とLinux移行計画の話をしていますが、担当者の中には、発表することによりマイクロソフトがコンタクトをとってくると神経質になっている場合もあるようです。
結局、最終的になにを選ぶかは顧客の自由です。マイクロソフトにとっても、競合はよい結果をもたらすはずです。
(末岡洋子)
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