ROIを考えるエンジニアがしてはいけないこと

2004/6/3

 システム開発の現場に対して、IT投資の厳密な効果を求める流れが強くなってきている。テンアートニの執行役員 第一事業部長 山崎靖之氏は@IT情報マネジメント主催の「@IT情報マネジメント交流セミナー」で6月2日に講演し、「一定の投資額の中でシステム開発の品質と効率を向上させることが作り手に課せられた責務だ」と指摘、ROIを高めるシステム開発のポイントを説明した。

テンアートニの執行役員 第一事業部長 山崎靖之氏

 山崎氏はシステム開発の現状について「成功しているプロジェクトは少ない」と指摘。米国の統計では予定されている投資、品質で完成されたプロジェクトは4分の1しかないと説明した。プロジェクトが失敗する背景にはビジネスの変化が速くなっている環境の中で、エンジニアが複雑な要求にこたえる必要があると述べた。

 このような「開発者が楽になる要素が1つもない」(山崎氏)という現状の中で、エンジニアは投資対効果が高いシステム開発を行うことが求められる。山崎氏はROI向上のポイントとして「要求管理による投資額の圧縮」が重要と指摘した。要求管理とはシステムの構築前にユーザー部門からの要求を整理し、最適なシステムを設計すること。しかし、実際にはユーザー部門からの要求が整理できなかったり、システム開発中に要求が変化、増大するなど混乱してしまうのが実際だ。

 山崎氏が紹介したDean Leffingwellの著作『ソフトウェア要求管理』によると、要求時に誤りを発見し、対処する場合と、システム開発の最終段階である保守の時に誤りを見つけて対処する場合では、そのコスト比率は200:1になるという。つまりユーザー部門から要求を聞いた段階でシステム設計を見直していればそのコストは1000万円で済むが、保守の段階になってシステム設計を見直す場合は最大で20億円もコストがかかってしまうということだ。できるだけシステム開発早期の要求段階で設計を見直すことで将来かかる可能性があるコストを削減できるのだ。山崎氏は「発注者は要求管理に一番注意しなければならない」と強調した。

 山崎氏はROIを向上させるシステム開発として、ウォーターフォール型ではなく反復型開発プロセスを選択することの重要性も訴えた。反復型開発プロセスではテストを繰り返すことで早期に問題を発見し、設計を見直すことができる。要求管理と同様にシステム開発後に設計を見直すことと比較して、開発の早期に設計を見直したほうがそのコストは小さくなる。反復型開発プロセスではテスト工数がウォーターフォール型と比較して増大する。そのため山崎氏は、テストを自動化するためのツールの必要性も指摘した。

 オープンソースソフトや商用のフレームワークを活用することも無駄な開発投資を抑えることにつながる。効果が検証されたコンポーネントを組み合わせてシステムを開発できるようになるため、生産性と品質の向上が期待できると山崎氏は説明した。

(編集局 垣内郁栄)

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