いま、組み込みシステム開発が熱いワケ
2004/7/8
東京大学大学院教授 坂村健氏 |
7月7日から3日間かけて、東京ビッグサイトでは「ソフトウェア開発環境展(SODEC)」「データウェアハウス&CRM EXPO」「情報セキュリティEXPO」「データストレージEXPO」「組込みシステム開発技術展(ESEC)」が同時に開催されている。展示会場の広さは東京ドームのグラウンド部分の約3倍もある。それぞれの展示会に見所はあるが、今年は特にESECの勢いが注目される。展示スペースもほかの展示会の2〜3倍程度という広さで、「設計・開発サービス/コンサルティング ゾーン」「ユビキタス・ネットワーク ゾーン」「組込みLinux ゾーン」「タッチパネル ゾーン」「ボード・コンピュータ ゾーン」というように、幅広く分けられた分野で組み込み技術の最新動向を発表していた。
ESECのキーノート・セッションに登壇したのは東京大学大学院教授の坂村健氏。米マイクロソフト 副社長の古川享氏がオープニングアクトを務めた後の登場だった。実は、2003年9月に米マイクロソフトと坂村氏が指揮するT-Engineフォーラムは共同発表を行っている。T-Engineプラットフォーム上でWindows CE .NET を動作させるための仕様策定を共同で進めることに合意するという内容だった。この発表会ですでにこの2人は握手を交わしている。
2002年6月に発足したT-Engineフォーラムは当初22社の参加企業で出発したが、2004年7月の時点では世界420社の企業が参加する巨大フォーラムに成長した。「年内に500社を超えるのは確実」だと坂村氏はいう。参加企業の多くは日本、中国、シンガポール、韓国を中心としたアジア地域で、今後はヨーロッパ、米国への積極的な“進出”も予定している。同フォーラムの躍進は、坂村氏が構想する「安定したOS基盤」「ミドルウェアを部品のように流通させること」「一度作成したソフトウェアを長期的に利用する」といった“100年ソフト”の理念が、世界規模で受け入れられていることの証だといえる。さきの、マイクロソフトとの共同仕様策定も、この理念に基づくものである。
つまり、安定したOSとしてカーネル部分(T-Kernel)の機能拡張はあえて行わず、そのためのバージョンアップなども一切しない。追加機能はミドルウェアとしてT-Kernelの上に載せていくのである。そういう意味では、Windows
CE .NET を動作させるための仕様もミドルウェアの1つである。結果的に1つのプラットフォーム上で2つのOSが稼働することになるが、このような「共生型のアーキテクチャこそが21世紀の組み込みOSの基盤になる」と坂村氏は断言する。なお、坂村氏はT-Kernel上で稼働するミドルウェアを2004年末までに1000個にまで拡張したいとする。当然、T-Kernelをまさにカーネルとして、現存するあるとあらゆるプラットフォームとの連携が図られることになる。
現在、T-Engineフォーラムで取り組んでいる実験プロジェクトの1つに、農林水産省の「平成16年度 食品トレーサビリティ開発事業」として行われる「統合型食品トレーサビリティシステム」の実験がある。これは、三越、京急ストアなどと共同で、ユビキタスID技術を活用し、例えば、野菜の収穫から農家による出荷、納品といった追跡調査を行うもの。また、5月26日から28日まで国土交通省と神戸ハーバーランドスペースシアターで「自律的移動支援プロジェクト」を行い、街中のあらゆる場所に組み込まれたチップから携帯情報端末に情報を配信する実験を行った。「人と物と場所をコンピュータで認識させること。その応用は多岐に渡る。SCMなどの狭い範囲に限定するつもりはまったくない」と坂村氏はいう。
(編集局 谷古宇浩司)
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