実用化は5年後? 坂村健教授が示したRFIDの課題

2003/5/21

 東京大学大学院 情報学環 教授の坂村健氏は、ロジスティクスITフォーラム(5月20日〜21日開催)で、「物流の現場で、RFID(Radio Frequency Identification、無線ICタグ)が一般的に利用されるようになるのは、少なくとも5〜10年かかる」と述べて、注目を集めるRFIDがビジネスの現場に浸透するまで、時間がかかるとの認識を示した。

RFIDを読み取る「ユビキタスコミュニケータ」のデモをする東京大学大学院 情報学環の坂村健教授。RFIDを研究している米MIT大のAuto-IDについて「戦っているわけではないが」としながらも「このようなデモはできないだろう」と違いを強調した

 RFIDはメモリとアンテナを内蔵した数ミリのチップで、リーダーやライターを使い非接触で情報を読み書きできる。効率的な商品管理などに利用できる次世代バーコードとして注目を集めている。特にコンテナにRFIDを取り付けて、流通を管理できることから、物流での利用が期待されている。

 坂村教授が物流でのRFIDの利用に時間がかかる要因として挙げたのは、コストの問題。「技術的には物流に乗る1個1個の商品にRFIDをつけることは可能だが、そのコストを誰が負担するのかわからない」というのだ。

 坂村教授によると、RFIDが数億個のオーダーで1個10円程度になるのはもうすぐ。だが、プロセッサやセンサーを搭載し、インテリジェンスな管理ができるチップは現在1個100円以上して、実用ではコストがかかりすぎる。また、1メートルの距離から100個の商品を読みこぼしなく同時に読むという「流通業者の“夢のチップ”」が現在のバーコードシールと同等の価格で実現できるようになるのは、「RFID開発の最終段階」(坂村教授)になるといい、高度な利用には技術的な課題があるとの認識を示した。

 だが、コストをそれほど考える必要のない分野ではRFIDの利用が広がっているという。米国防総省は、軍が管理する27万個のコンテナにRFIDを付けて、確実に目的地に配備できるよう計画している。国防総省は、軍事車両やビル、兵員などにセンサーを搭載したRFIDを付けて、状態をリアルタイムで感知できるシステムも検討しているという。

 また、欧米では物流現場で商品が窃盗に遭うことが問題になっている。坂村教授が示した資料によると、米国では工場内やトラック輸送中、小売店などで内部関係者の盗難によって、全売上高の1.8%分、332億ドルの商品がなくなっているという。英国でも内部、外部の窃盗で大手小売チェーンの売上高総利益率が、7%から1.7%に減少した。

 このような物流現場の盗難を防止するために、RFIDの活用が検討されている。米国では、従業員の不正を防止するために商品やコンテナにRFIDを付けて、配送センターから小売店までの間で盗まれないようにしているという。

 しかし、日本ではRFIDの軍事利用も従業員による窃盗防止も社会的なニーズはなく、RFIDのコストを下げるのは難しい、と坂村教授は考えている。坂村教授は、「日本ではこの2点以外の3番目のオルタナティブを見つける必要がある」と指摘し、「最初にRFIDを始める現実的な応用分野の見極めが必要」と述べた。

 坂村教授が国内でRFIDを実用化させるために有効と考えているのは、「メリットが見えやすい高額商品」と「薬品など人の安全にかかわるもの」。坂村教授は、「ユーザーが喜ぶもの」もRFIDの利用を広げる可能性があるという。エンドユーザーの利便となる民生機を普及させることで、RFIDのコストを下げて、エンタープライズの分野でも利用しやすくしようという考えだ。

 坂村教授は、「RFIDやユビキタス・コンピューティングが全産業に与える影響は非常に大きい」と強調。「RFID、ユビキタス・コンピューティングは日本が主導すべき。インフラを抑えないとメリットがない」と述べて、欧米に対して小型化技術やセンサー技術で実績のある日本がリードを取るべき、との考えを示した。

(垣内郁栄)

[関連リンク]
ユビキタスIDセンター
日本ロジスティクスシステム協会

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