情報システム子会社が生き残る条件

2004/8/24

 日本ピープルソフトのERPパッケージ「PeopleSoft Enterprise ヒューマン キャピタル マネジメント」(以下、PeopleSoft HCM)を導入し、グループ企業に人事/給与のシェアードサービスを提供している阪急電鉄子会社の阪急ビジネスアソシエイト。同社のヒューマンリソース事業部 給与担当 マネージャ 和田等氏はシェアードサービスの提供について「中核企業がコア事業に専念できるよう、人事業務の高度化への対応とコスト削減が求められていた」と説明した。

阪急ビジネスアソシエイト ヒューマンリソース事業部 給与担当 マネージャ 和田等氏

 阪急ビジネスアソシエイトは、阪急電鉄の情報システム部門が分社化し、1974年に設立された阪急コンピューターサービスが母体。阪急コンピューターサービスは2002年7月1日に改称し、阪急ビジネスアソシエイトとなった。シェアードサービスを始めたのは2003年4月。人事/給与と経理についてグループ会社の間接業務を中心に業務を請け負っている。人事/給与のシェアードサービスはピープルソフトのERPで提供。経理のシステムはNTTデータのERPパッケージ「SCAW」(スコー)などを利用している。

 シェアードサービスを提供開始した背景には、阪急電鉄グループの経営方針の変更がある。阪急電鉄グループは交通事業を中核に、不動産、レジャー、エンターテインメント、リテールなど200社以上がある。和田氏によると阪急グループは従来、各社が「独立独歩」の精神で事業を拡大してきた。しかし、競争環境の激化などで「阪急グループが1つの会社」という視点での経営に戦略をシフトした。この新しい戦略の中でグループ会社の間接業務を効率化し、コストを下げるという役割を与えられたのが阪急ビジネスアソシエイトであり、そのために選択したのがシェアードサービスだった。

 阪急ビジネスアソシエイトが目標とするのはシェアードサービスの提供で「グループ各社の人件費を毎年5%削減すること」(和田氏)。2003年度はこの目標を達成し、「PeopleSoft HCMの導入で今後も何とかやっていけるだろう」としている。しかし、和田氏も指摘したようにいつまでも5%ずつ削減できるわけではない。いつかは削減ペースの限界が来る。そのとき、阪急ビジネスアソシエイトが目指すのはどのような道か。考えられる道の1つは、阪急ビジネスアソシエイトが阪急電鉄グループ全体のIT戦略の企画・立案能力を持つことだ。そして、もう1つはグループ外の企業の間接業務を請け負う外販の道だ。

 グループ全体のIT戦略を企画・立案する企業への変革については、その役割を果たす組織がすでに阪急電鉄の本体に存在し、難しいようだ。また、和田氏によると阪急電鉄グループは過去にIT戦略を企画・立案する専門の子会社を設けたことがあったが、思ったような効果を上げることができずに本体に吸収された経緯があった。グループ内にはさまざまな業種の子会社があり、そのIT戦略を一律で企画することは現実的でないのかもしれない。

 一方、シェアードサービスの外販について和田氏は「まずはグループ内でのサービスでコストを削減することに専念する」としながらも「(外販は)予定している」と積極的な姿勢を示した。和田氏は「外に出て戦えるだけの力をつけないといけない」とも述べ、長期的な視野で外販を検討していく考えを述べた。

 情報システム子会社の多くは本社やグループへの依存の脱却を求められている。本社が情報システム子会社をグループから切り離し、ベンダに売却するケースも増えてきた。グループ全体のコスト削減、競争力強化をサポートしながらも、自律した企業としてやっていくにはどうすればいいのか。多くの情報システム子会社は共通の課題を抱えているといっていいだろう。

(編集局 垣内郁栄)

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日本ピープルソフトの発表資料
阪急電鉄
阪急ビジネスアソシエイト

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