IBMが考える銀行系ITの理想と実際

2004/9/2

 日本の金融機関における情報システムはこれまで、昭和60年代に構築された「第3次オンライン」を維持し、現行システムとして利用してきた。しかし構築時から約20年が経過し、金融業界の再編や環境の変化も大きい。今後の金融業界のITシステムはどのように構築されていくのか、日本IBMの理事で金融事業インダストリーソリューション担当の岩崎明氏が解説した。

日本IBM 理事 金融事業インダストリーソリューション担当 岩崎明氏

 岩崎氏は、第3次オンライン以降、ハードウェアの処理能力やファイル容量、ネットワーク速度などは数十倍になったのに対し、ソフトウェアの進化はあまりないと指摘する。また、オンラインシステムでは勘定系の部分に注目が集まるが、岩崎氏は情報系も同様に重要だとした。「オンラインシステムというと勘定系が注目される。ここはトランザクション量は多いが、その7割は入出金の単純なトランザクション。もちろん止まらないようにがっちりつくる。しかし銀行の経営で大事なのは情報系。ここのデータをいかに分析し、活用するかが銀行としての戦略にかかわるところ」(岩崎氏)。

 現行のシステムは、堅牢性と処理能力の向上のためにシステム内の依存関係などが複雑になっており、「新たにアプリケーションをシステムに追加しようとしても、一部を変えるといろんなところに影響があるので、デザイン、組み込み、テストをしてリリースまでに最低半年から1年かかる」という。システムの柔軟性が課題だ。

 現在では金融事業を取り巻く法令や制度が変わってきており、銀行でも保険や証券やクレジットカード発行などのワンストップ化が進んでいき、窓口でさまざまな金融商品が売られるようになってくる。しかも商品や組み合わせが変わり、販売チャネルも窓口、ネット、携帯電話など変わっていく。これには、現行システムのモノリシックな作り方をしていては対応できない。コンポーネント化してダイナミックに組み合わせながら作っていくのが今後のやり方だ。

 岩崎氏が所属する日本IBMでは、WebSphereをプラットフォームとしたJava/J2EEでコンポーネントによるパッケージソリューションを用意しているという。部品をつなぎ合わせて商品、サービスのシステムを作り、それをカスタマイズして銀行の戦略に基づき差別化する部分を作り込んでいく。

 しかし、Java/J2EEを銀行の情報部門が受け入れる体制はまだ整っていないそうだ。「2007年問題がいわれているように、COBOLなどが分かるエンジニアは減ってきている。一方で若いエンジニアはみなJavaしか勉強していないため、スキルの継承は問題になりつつある。結局、Java/J2EEをどれだけ採用するかは、システム構築の仕事を銀行内でやるのか、アウトソースするのか、というところに大きくかかっている」(岩崎氏)。現在の実績では、チャネル系システムでのJava化はあるが、基幹系での採用は、まだ顧客が検討中という。

 システムをコンポーネント化する前に大事なことがあると岩崎氏は指摘する。「まずは銀行という企業自身がコンポーネント化されなければならない。それによってITシステムのコンポーネント化も実現できる」(岩崎氏)。

(編集局 新野淳一)

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