「日本経済復活の兆し、あと2〜3年」、立教大学斎藤教授

2004/9/3

立教大学社会学部教授でエコノミストの斎藤精一郎氏

 NECは9月2日、プライベートカンファレンス「Enterprise Management Conference 2004」を開催した。基調講演には立教大学社会学部教授でエコノミストの斎藤精一郎氏が登壇、「日本経済の復活と新たな企業成長」と題し、斎藤氏自身が描く日本経済再生のシナリオを語った。

 1990年から始まったとされる日本経済の停滞を回復させる要因として斎藤氏は「大きく3つほどが議論されている」とする。1つは小泉内閣主導のもとで行われている構造改革による成果説、1つは中国(China)市場の活性化とデジタル家電(Digital)という2つの好景気要因に求めるCD景気説、1つは企業自身が構造改革に着手し、変化を受け入れることで、経済全体の復活をもたらすとする「CDR(Corporate Structual Reform)」説だ。このうち、斎藤氏は最後のCDR説こそ、現実に日本経済の復活を推進する原動力になり得る、とする。すなわち、デジタル家電のヒットや中国市場へのアウトソーシングといった“特需”は「確かに日本経済を下支えする基盤になる。しかし、現在のような爆発的な状況が続くわけではない」とし、構造改革については「抜本的に変化したことはなく、期待はずれの感は否めない」と手厳しい。

 一方、CDR説、つまり企業が自ら構造改革を断行し、日本経済の活性化に寄与するというシナリオは「キヤノンや松下電器産業などの成功例を引くまでもなく、実際に進行していることである」(斎藤氏)と強気の姿勢である。この説を支える背景には、従来の日本経済が“神話”として信じてきたさまざまな常識が完全に覆されているという現実がある。例えば、戦後下落したことのなかった土地の価格下落。土地神話の崩壊は、銀行神話の崩壊をも導いた。斎藤氏によると2003年3月時点で171の銀行が倒産しているという厳しい現実がある。さらには株神話の崩壊もある。上昇し続けた賃金は2000年で初めてベアゼロという現実に突き当たった。当然、終身雇用という神話も消滅した。これらの“神話の崩壊”は政府や日銀に依存しすぎたかつての企業体質を見直す契機になるはずで、しかも「小泉政権は景気対策については完璧に無策を貫いており、企業が自分で変わらなければどうにもならない」(斎藤氏)状況に陥った。

 斎藤氏は松下電器を例に挙げ、かつて不動産業に手を出しばく大な負債を背負った同グループ全体を再生させるために、不採算部門のカットをはじめとした過去の負の遺産の積極的な切り離しを通じて、いまの松下電器の姿があるとした。日産自動車の再生やトヨタ自動車の激烈なコストカット戦略も同様である。

 各企業が個別に果敢な企業再生を展開することで、現在日本経済を覆う「平成デフレ」を解消することが可能になる。この「平成デフレ」の正体は、かつて土地をはじめとした投機の失敗による企業の膨大な過去債務、つまり、そのような企業に投資した銀行の不良債権が企業活動を圧迫した結果の「資産デフレ」と、1989年の冷戦終結以降、地球規模の資本主義化が進行し、世界中のマーケットがネットワークで接続され、つまり、グローバリゼーションが進行したことで、物価価値が下落し始めたこと、である。斎藤氏は、「まず資産デフレを消滅させること、そして、トヨタ自動車や松下電器、キヤノン、ソニーといった成功企業が展開しているように、世界中から物資の安価な供給源を見つけ、グローバリゼーションの波を逆手にとった経営戦略を展開していく必要がある」と話す。

 そして、冷戦集結とともに世界中に広まったインターネットという巨大な情報インフラのインパクトはいまや無視できるものではない。米国は核の脅威がなくなると同時に、IT産業に力を集中し、現在のIT立国にのし上がった。ヨーロッパにはEUができ、インド、韓国、中国は急激に発展し始めている。かつての敵なしといわれた経済大国日本は、いまや強敵に取り囲まれた弱小国と表現されて否定できるだろうか。斎藤氏は「とはいえ、日本経済は確実に上昇傾向にある。あと2〜3年が勝負だ」と締めくくった。

(編集局 谷古宇浩司)

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