ITは補完か代替か、それがビジネスの分かれ目
2001/7/14
ネットバブルが崩壊したが、ITそのものは革命的な技術だ――これが最近の論調だ。だがどうしてビジネス(収益)に結び付かないのか、そこで四苦八苦している企業は多いことだろう。
ある経済学者はその問いに対し「時間がかかる」と答える。人間の頭脳や行動のスピードがインターネットという全く新しい技術に追いつくことは、まだ先のことなのかもしれない。だが、解決のヒントはある。「補完か代替か」――東京大学経済学部教授 伊藤元重氏は先日、日本エクセロンのカンファレンスで講演し、日本経済およびIT革命の現状分析と提言を行った。
同氏の“時間がかかる”は根拠ある意見だ。「例えば、20世紀初頭の自動車革命。1908年、米国でフォードがT型フォードを考案し、自動車の大量生産が始まった。だが、米国で実際に人々が自動車を所有し、社会が自動車社会へと変革を遂げるまでには、少なくとも30年はかかっている」。安くて高品質な自動車の登場により、人々のライフスタイルは徐々に変化した。当時のカタログショッピングの大手はある変化を見越して、カタログ販売からGMS(Gereral Merchandizing Store)、つまりチェーン店展開へとビジネスモデルを変えた。それまではカタログショッピングを利用していた消費者が、自ら車を運転して店に行き、商品を目で見て選ぶようになると考えたからだ。その後、この会社は、数年かけて全米に300〜400店舗を持つに至ったのだそうだ。
伊藤教授は、だから、「こんなおもしろい時代はない」という。今後20年、30年かけてわれわれの社会はITを基盤とした社会へと大きく変化する。そこにはチャンスとチャレンジがあるからだ。
そして、今の変換期を理解する鍵を握るコンセプトとして次のことを挙げた。「バーチャルとリアルの関係を、補完ととらえるか代替ととらえるか」。この“補完材と代替材”とは経済用語。コーヒーを例にとれば、補完はミルクのようなもので、代替は紅茶のようなものだ。補い合うものか相容れないものかは場面によって異なる。その認識がビジネス上、重要となる。
伊藤教授はここで再び自動車革命に話を戻す。「自動車が普及する前は運転技術は限られた人が持つ貴重な技術だった。だが、自動車が普及した現在、タクシーの運転手の所得はどうだろうか?」 自動車にできないことを自動車を使ってやる・できる人がより価値を持ってきたのだ。これをIT革命に当てはめるなら、ITにできないこととITをどうつなげるかがポイントとなる。「補完を見つけ、それを追求することがビジネスの面白さ」と伊藤教授。教授は補完ビジネスの一例として、ECサイトで本を購入してコンビニで受け取るサービスなどを挙げた。
補完を考えるうえで重要になるのが、“リアル”の見直しだ。既存のビジネスを再度見直すことにより、バーチャルとどう補完し合うかの糸口が得られる。リアルのビジネスが再度生まれ変わるということだ。
伊藤氏は低迷している現在の景気に対し、「IT革命に関係なく、経済は変わるべき時期に入っていた」と見ている。高度経済成長時代の後、単純拡大型の20世紀型経済はどのみち終えんを迎えつつあったというのが氏の意見だ。これからは、マーケティング手法もマス・マーケティングからパーミション・マーケティングのような新しい手法へと変わっていく。「ネットバブルが弾け、いま、次の世代に入ったのだ」と伊藤教授。大手ベンダーは“第2章”という言い方をしているが、われわれはいま、次なる波を作りつつあるのかもしれない。教授の言葉通り、面白い時代になってきたようだ。
(編集局 末岡洋子)
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