「組み込み版ITSS」策定でエンジニアが大移動?

2004/10/26

 情報処理推進機構(IPA)が10月1日に設立したソフトウェア開発支援の新組織「ソフトウェア・エンジニアリング・センター」(SEC)の所長 鶴保征城氏は、急成長している組み込みソフトの開発について「組み込みソフトを開発するエンジニアの人材が不足している」と説明し、「SECを中心にITスキル標準(ITSS)をベースにして組み込みソフト版のITSSを作っていく」と述べた。

ソフトウェア・エンジニアリング・センター(SEC) 所長の鶴保征城氏。NTTグループの出身だ

 鶴保氏は組み込みソフトの現状について「組み込みソフトが入ったデジタル機器は日本が強さを発揮している。しかし、ソフト自身が強いかは分からない」と指摘。「エンタープライズ系のソフトはバグが見つかっても修正が比較的容易だが、デジタル機器はベンダが回収するなど修正にコストがかかる」として、より高品質な組み込みソフトを開発するためには開発に必要なスキルセットを網羅した「組み込みソフト版ITSS」が必要になると述べた。

 組み込みソフトは市場が急成長しているため、エンタープライズ系ソフトを開発していたエンジニアの参入が急増。しかし、「エンタープライズ系ソフト開発の知識が組み込みソフト開発ですぐに役立つかは分からない」(鶴保氏)として不安を覚えるエンジニアも多く、組み込みソフト版ITSSが求められていると語った。

 10月1日に業務を開始したSECはこの組み込みソフト開発の支援と同時に、エンタープライズ系ソフト開発での品質向上や生産性向上についてもソフトベンダやシステム・インテグレータ(SIer)、ユーザー企業を支援する。SECが現在注力しているのは企業の過去のソフト開発プロジェクトのデータを収集し、その品質や規模、工期、生産性などを測定し、定量データベースを作成すること。1000件以上の事例を集めることが目標。「定量データベースを各社が共有できるようにして生産性の向上につなげる」(鶴保氏)のが狙いだ。

 SECではシステム構築、ソフト開発を依頼する際に行う見積もりについてのフレームワーク作りも進める。「システム構築、ソフト開発に成功している企業は独自の見積もり手法を確立している。その見積もりと開発後の結果を照らし合わせることで、効率的な開発が見えてくる」という。初年度は特に上流工程での見積もりに関するフレームワーク作りを中心に行うことを計画している。

 また、鶴保氏は1998年に当時の通商産業省や業界が中心となって策定したソフト開発のためのフレームワーク「SLCP-JCF98」について、「1998年から更新されておらず、産業界から更新を強く要請されている」として、2005年にも最新版のSLCPをSECが中心となって策定する考えを示した。鶴保氏は「行政には継続的な支援を期待している」と語り、経済産業省などと密接に連携し、ソフト開発の高品質、生産性向上を目指す考えを強調した。

(編集局 垣内郁栄)

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