注目の手法「エンタープライズ・アーキテクチャ」を先取りする

2003/7/9

 ITシステムへの投資や構築、管理で「エンタープライズ・アーキテクチャ」という手法が注目を集めている。業務プロセスに合わなかったり、柔軟性がないシステムで無駄なコストがかかってしまうことを防ぐ手法として期待されている。日本では経済産業省が米国政府の取り組みを参考に、電子政府構築の政府調達に役立てようと導入した。日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)が開催したイベント「ITガバナンス 2003」で、ITコーディネータ協会 理事の松尾明氏が説明した。

ITコーディネータ協会 理事の松尾明氏

 松尾氏によると、EAとは知識を中心にIT投資管理を最適化しようという考え。これまでの企業や政府の投資が現場から予算要求が上がってくる“ボトムアップ型”で、「声の大きい者が予算を獲得している」(松尾氏)という状況に対し、EAではすでに動いているプロジェクトを検証。また、トップが決定した基本戦略に沿った形で予算が適切に執行されるかを確かめた後で、予算が決まる仕組みだ。ボトムアップ型に対して、“トップダウン型”で、プロジェクトの検証をしっかり行い、ナレッジ化するのがポイントになる。松尾氏によると、政府ではEAを指す言葉として、「業務・システム最適化計画」という言葉も使われているという。

 政府ではEAについて、「電子政府の構築にかかわる関係者がその政策・業務ごとに必ず共有しなければならない知識を参照しやすく整理したもの」と定義している。また、知識共有を促進するためには「制度化、参照知識の整備、Web化、研修、コーチング」が必要としている。

 EAでは、情報システムを4つのパターンに分類し、混乱なく構築、運用できるようにしている。4分類のうち、最も企業戦略に近いのが組織を超えた共通の業務内容を明確にする「政策・業務体系」(Business Architecture)のパターン。ほかに、それぞれの仕事と情報に関するモデルをパターン化した「データ体系」(Data Architecture)、業務と技術の成熟度を示した「適用処理体系」(Application Architecture)のパターン、システムで選択できる技術を明確にするパターンの「技術体系」(Technology Architecture)がある。それぞれのパターンは情報を文書にまとめる必要がある。経産省は現在、政策・業務体系に対応する省内システムの業務・システム体系一覧を作成中で、8月末までにまとめる予定だという。

 EAで、システムやビジネスプロセスをパターン化する目的は、共通の働きをしているシステムやプロセスを見つけ出し、1つにまとめることだ。システムやプロセスを統一することでコスト削減や効率化につなげることができる。また、システムにかかわる技術的な用語を統一することで、混乱を避ける効果もある。独自技術ではなく、広く利用されている標準技術を使うことでコストを下げ、投資を保護するのもEAのポイントになる。

 EAは現状のシステムを検証するだけでなく、将来的によりよいシステムに改善していくことを目標としている。「EAは変革・技術導入方針に基づき、現状(As Is)のモデルから、次期モデル、理想目標(To Be)へとステップアップして作成される」(松尾氏)のだ。

日本BEAシステムズの代表取締役社長 ロバート・スチーブンソン氏

 松尾氏によるとEAの考えは米国の一部民間企業が取り入れ始めた段階で、国内企業の取り組みは東京三菱銀行などごく一部。しかし、松尾氏は「必ず広がる」としていて、今後は導入を検討する企業が増えそうだ。

 ITガバナンス 2003では、日本BEAシステムズの代表取締役社長 ロバート・スチーブンソン(Robert Stevenson)氏が、EAを導入している米国の電子政府について説明した。スチーブンソン氏によると、米国は政府機関の生産性向上の課題として、システム定義と測定をどう実施するかや、技術が横展開で活用できないこと、システムが部分最適で自動化されていても全体として連携していないことなどを指摘していた。その解決のためにEAを活用。「業界標準を活用すべき」との考えを基に、政府機関の情報を横断的に提供するポータルサイトの開設や、EAを使って開発したIT共通基盤を、米政府機関に導入するなどの施策を展開したという。

 スチーブンソン氏は、米国での先例事例を分析した結果として、「EAは理想(オープンシステム)と現実(コスト服従、非再利用、買い手不自由)のバランスを取るための判断(統治)基準を提供する」と指摘。EAを活用することで、「全社的・横断的アプローチに通じるIT投資対効果の向上とTCOの最小化を実現する」と強調した。

(垣内郁栄)

[関連リンク]
日本情報システム・ユーザー協会
ITコーディネータ協会
日本BEAシステムズ

[関連記事]
塩漬けレガシーシステムをどうする? ベンダが本音で提言 (@ITNews)
東京三菱銀行CIOが語る「CIOの真の仕事」 (@ITNews)
HP新社長が狙う情報システムの"アジリティ" (@ITNews)
米BEA製品担当責任者に聞く、エンタープライズ・システム開発の未来 (@ITNews)
「SCM成功の秘訣は調達業務の改革にある」、アクセンチュア (@ITNews)

情報をお寄せください:



@ITメールマガジン 新着情報やスタッフのコラムがメールで届きます(無料)