ソフト開発は目に見えないから難しい、オブジェクト倶楽部

2004/12/10

スタッフはクリスマス仕様の帽子をかぶっていた

 オブジェクト倶楽部が12月9日に開催したクリスマスイベント「オブジェクト指向実践者の集い」のテーマは“ソフトウェア開発の『見える化』”。製品そのものの可視性がハードウェアと比較して著しく低く、このことは、内部構造の理解というソフトウェアそのものの可視性の問題と同時に、開発作業における進捗(しんちょく)計測(あるいは予測)の困難さといった問題も孕(はら)む。UMLの功績は、ソフトウェアの構造をいままで以上にわかりやすく、そしてより多くの開発者間で共有して可視化したという点にあるが、UMLの登場でソフトウェアを巡るすべてのインビジブルな脅威が取り払われたわけではない。

 永和システムマネジメントの平鍋健児氏は基調講演において、プロジェクト管理の観点からソフトウェア開発の“見える化”について言及した。内部構造の可視化よりも実は、ソフトウェア開発という目に見えない作業の可視化対策こそ、重要な課題なのかもしれない。平鍋氏はトヨタ自動車の生産管理手法、いわゆるトヨタ生産方式とソフトウェアの短納期・高品質を実現するアジャイル開発手法をマッピングしながら、従来、目に見えないことでボトルネックとなっていたソフトウェア開発作業の問題点を抉(えぐ)り出し、改善点を提示した。

 その具体的な方法は非常にシンプルだ。

 例えば「Todo(未実施)」「Doing(実施中)」「Done(テスト完了)」と区分けしたホワイトボードを用意する。このホワイトボードは作業工程を可視化するためのツールとなる。スタッフは、毎朝決められた時間にホワイトボードで今日1日の作業を確認する。重要なのは、本人がホワイトボードにサインすることだ。それも決められた時間に。あらかじめ厳格な(しかしシンプルな)ルールを設定し、このルールを各人が自主的に守ることがプロジェクトのスムーズな進捗をある程度約束する。管理者を置く必要がないのもこの方法の利点である。

 トヨタ生産方式と極めて類似した点としては、“ソフトウェアあんどん”の採用が挙げられる。トヨタ生産方式では「自働化」という考え方を採用しているのだが、これは自動化されているラインを人が強制的に止めることができるという意味を含む(だから動にニンベンがついている)。つまり、ある不具合が発覚した場合、生産ラインを強制的にストップして不具合の修正を行うことを奨励しているのである。このとき、工場内に設置された「アンドン」と呼ばれる表示板が点灯する。「コスト=欠陥の大きさ×欠陥の停滞時間」だと平鍋氏はいう。自動化されている受け入れテストが失敗した瞬間に点灯する“ソフトウェアあんどん”を設置し、「異常の見える化」を実践しているというわけだ。

 そのほか、大きさの違うダルマを用意し、目標を達成したら目を塗りつぶす「目標の見える化」や「Keep(よい点)」「Problem(悪い点)」「Try(次回挑戦)」の区分けを設けたホワイトボードを社内に設置し、スタッフ全員の意見を集約しながら、暗黙知の共有化、形式知化を促進する試みなど、稚気に溢れながら、その実、真剣な改善の意思を感じさせる工夫を凝らしている。

(編集局 谷古宇浩司)

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