【Intel Developer Forum Spring 2005開催】
インテルが進める15のマルチコア化プロジェクト
2005/3/3
米インテルの開発者会議「Intel Developer Forum Spring 2005」(IDF)が3月1〜3日の3日間にわたり、米カリフォルニア州サンフランシスコで開催されている。
■変革に向けて大きく動き出すインテル
ここ1年でのインテルにとって最も大きな戦略上の変化が、「プロセッサのマルチコア化」と「x86プロセッサの64ビット化」の2つだ。
米インテルのデジタル・エンタープライズ部門のゼネラル・マネージャ兼上級副社長のパトリック・ゲルシンガー。5つのデュアルコア・プロセッサ製品を紹介した |
プロセッサのマルチコア化は、1つのシリコン片上に複数のプロセッサ・コアを配置することで、通常の単一コアと比較して処理効率をアップさせようという試みだ。用語的には、二重化されたコアをデュアルコア、それよりもさらに多重化されたコアのことをマルチコアと呼ぶ。同社では従来、単一コアによるクロック周波数の引き上げでパフォーマンスの向上を実現してきたが、リーク電流や発熱の問題により性能の頭打ちに悩まされてきた。IBMのPowerプロセッサやサン・マイクロシステムズのUltraSparcなどが採っているプロセッサのマルチコア化という業界トレンドに沿った形となる。
一方、x86プロセッサの64ビット化では、2004年夏に「64ビットはItaniumアーキテクチャで」という方針を覆し、32ビット・アーキテクチャを「EM64T」という技術を使って64ビットに対応させる方向を打ち出した。EM64Tは、ライバルのAMDが開発した64ビット拡張技術のAMD64と命令互換であり、32ビットから64ビットへとシームレスな移行が容易となっている。
XeonのEM64T対応版は2004年末にすでに登場しており、デュアルコア・プロセッサも2005年前半に順次出荷される。わずか1〜2年足らずで戦略転換を実践したインテルがIDFでアピールするのは、「マルチコアも64ビットもインテルが業界をリードする」という自信だ。
■64ビット/マルチコア対応ではマイクロソフトが助力
IDF初日の基調講演の壇上に立った同社デジタル・エンタープライズ部門のゼネラル・マネージャ兼上級副社長のパトリック・ゲルシンガー(Patrick Gelsinger)氏は、今後3年間のプロセッサ・ロードマップとその詳細を示して、「インテルでは現在、15のマルチコア・プロセッサに関する製品プロジェクトが進行している」と、エンタープライズからノートPCまでをマルチコア対応させることが可能なラインアップを持っていることをアピールした。
プロセッサのマルチコア対応は、「Montecite」という開発コード名で呼ばれる新しいItanium 2プロセッサと、デスクトップPC向けプロセッサのマルチコア版「Pentium Processor Extreme Edition」が2005年中に登場する。これを皮切りに、2006年初頭にノートPC向けの「Yonah」、2006年中にマルチコア版Xeonという形で、順にマルチコア対応が進む。またマルチコア化と同時進行で、Xeon以外のプロセッサの64ビット対応も進める。ロードマップを見る限り、2006年中には全プロセッサ製品ラインの半分以上が64ビット/マルチコア対応となるようだ。
ここで欠かせないのが、OSベンダやアプリケーション・ベンダーの協力だ。いくらハードウェアが対応していても、その上で動くアプリケーションが対応していないのでは意味がない。ゲルシンガー氏の基調講演では米マイクロソフト プラットフォーム部門副社長のジム・アルチン(Jim Allchin)氏が登場し、ItaniumとEM64Tの両アーキテクチャでの64ビット対応と、マルチコア対応の両面でインテルをサポートしていくことを約束した。
もともと64ビット対応では、Windows Server 2003とWindows XPのItanium版をリリースしていたマイクロソフトだが、インテル自身がItaniumをメインフレームやハイエンドUNIXサーバなどの高性能コンピューティング用途に一本化すると表明したこともあり、現在ではWindows XP版の開発が停止している。その代わり、AMD64アーキテクチャ対応のWindows Server 2003とWindows XPの開発を進めており、これがそのままEM64Tで利用できる形になる。当初の2004年内リリースよりは遅れたものの、2005年前半には登場する見込みである。
一方でマルチコア対応については、もともとOS自体がマルチ・プロセッサに対応した構造になっており。特に変更の作業などは発生しない。ただし、ディアルコア・プロセッサ上でインテルの「ハイパースレッディンング」技術を走らせた場合、物理コア2つの上で仮想コアが2つ動作するため、OS側からは計4つのプロセッサが動作しているように見える。この場合、OSのプロセッサ・ライセンス料金が気になるところだが、マイクロソフト側では以前、マルチコア・プロセッサのライセンス判断基準は実際のプロセッサそのものの数で判断すると表明しており(つまりこの場合は1つ)、ライセンスの心配をする必要はなさそうだ。
そのほか、マイクロソフト自身はMicrosoft Officeのマルチ・スレッド対応を進めているとアルチン氏が表明したほか、開発者サポートも積極的に行っていくなど、数年内に比較的多くのアプリケーションでマルチコア環境への適応が進むと思われる。
■ハードウェア・レベルで仮想化に対応
インテルの近年のアプローチとして、セキュリティを強化する「LaGrande Tecnology」など、ハードウェア化が可能な機能はすべてプロセッサ側で組み込んでしまうというものがある。その中で、パフォーマンス改善とバーチャライゼーション(仮想化)を実現する新たな3つの技術が紹介された。「I/O Acceleration Technology」は、TCP/IPや暗号化処理などのI/Oまわりで負荷が重い処理の一部をハードウェアが肩代わりする技術で、処理の依存度に応じたパフォーマンス改善が期待できるという。
「Intel Virtualization Technoloy」「Intel Active Management Technology」は、システムの仮想化や抽象化を、ハードウェア・レベルで実現する。仮想化とは、同一マシン内に複数の別のシステム環境を作り出す技術。メインフレームやハイエンドUNIXサーバなどでは、システムを複数に分割して完全に異なるOSやアプリケーション環境を同一マシン内に構築できるパーティショニング機能を持っているが、仮想化もほぼ同じ機能を指す。仮想化により、1台のシステムでマシンを複数台必要とするような実験環境のほか、ハイエンド・サーバ内に複数のサーバに分散していたアプリケーションをまとめて、サーバ統合でコスト削減などが実現できるようになる。
IDF開催前に米インテルが行った説明によれば、I/O Acceleration Technologyや仮想化技術は、当初はサーバ方面を中心に提供していくという。またゲルシンガー氏によれば、LaGrandeなどの別の技術と組み合わせることで、さらに安全なプラットフォーム構築が可能になると述べている。
■バレット氏が最後のIDF、「ムーアの法則は健在」
大幅な戦略転換が行われたここ1年のインテルだが、その締めくくりともいえるのが組織の大改編だ。同社では1月17日、ターゲット分野ごとに5つの事業部を新たに設立、旧来までの部門を解体して新部門へ統合する組織の大改編を行った。新事業部は「Mobility」「Digital Home」「Digital Enterprise」「Digital Health」「Channel Product」の5つ、中でもDigital Healthは医療分野を、Channel Productはチャネル・セールス強化促進を進める部門である。
インテル CEOのグレイグ・バレット氏 |
前述のゲルシンガー氏も、組織改変前はCTOを務めていたが、現在では重点課題の1つであるエンタープライズ分野のてこ入れのために同事業部長となっている。またインテルでは、2005年5月に現CEOのクレイグ・バレット(Craig Barrett)氏から現COOのポール・オッテリーニ(Paul Otellini)氏へとトップ交代が予定されている。バレット氏をはじめ、これまでの同社のトップは技術畑出身の人物が中心だったが、今回のオッテリーニ氏は初のマーケティング部門出身のトップである。ここ数年、戦略ミスや技術上のハードルで苦しんだインテルを、今後どのように率いていくのかが注目される。
バレット氏は、同氏にとって最後のIDFとなる基調講演の舞台で、研究開発分野におけるインテルのスタンスと業績を紹介した。「ムーアの法則は健在で、2015年、あるいはその先の2025年までカバーできる」と膨大な技術投資で技術を維持していく一方で、高校生以下の若年層向けの賞金プロジェクトに参画して科学振興に努めていくという。また講演の途中では、先日商用宇宙飛行賞金プロジェクト「ANSARI X PRIZE」で2回の飛行実験を成功させ、1000万ドルの賞金獲得に成功した「SpaceShipOne」で宇宙船の設計を行ったバート・ルータン(Burt Rutan)氏が登場し、「今後12〜15年内には、3〜4万ドルで誰でも宇宙飛行が楽しめるようになるだろう」と語るなど、技術出身のバレット氏の講演の最後を飾るにふさわしい内容となった。
鈴木淳也(Junya Suzuki)
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