富士通が新基幹IAサーバを発表、「IBM、HPにぶつける」

2005/4/7

 富士通はメインフレーム技術を応用し、ハードウェアの完全二重化を実現したItanium 2プロセッサ搭載の基幹IAサーバ「PRIMEQUEST」(プライムクエスト)を4月6日に発表した。メインフレームクラスの信頼性を持ちながらコストパフォーマンスを高めたのが特徴。富士通の代表取締役社長 黒川博昭氏は「メインフレーマーによるオープンへの回答だ」と力を込めた。

 PRIMEQUESTの最大の特徴は、メモリ、バス、チップセット内を完全二重化する「Dual Sync.System Architecture」(DSSA)を採用したこと。DSSAは新開発の高速チップ間同期型伝送技術「MTL」(Mori/Muta Transceiver Logic)を使い、二重化しているシステムが同期しながら稼働する。1つのシステムのハードが故障すると、もう一方のシステムが作業を引き継ぐ。二重化しているのは富士通が開発したチップセットの内部、メモリ、クロスバー、接続カード。富士通ではこの仕組みを「システムミラー機構」と呼んでいる。ハードの故障を見つけるチェッカーは15万あり、富士通のメインフレーム以上だという。富士通の経営執行役 サーバシステム事業本部長 山中明氏は「シンクロナイズドスイミングで2人の選手が同時に演技するデュエットを、サーバのハードの中で実現しているイメージ」と説明した。

左から米レッドハット エグゼクティブVP アレックス・ピンチェフ氏、米インテル 副社長 アビ・タルウォーカー氏、富士通 黒川氏、山中氏、マイクロソフト日本法人 代表執行役 社長 マイケル・ローディング氏

 また、プロセッサやメモリ、チップセットなどを搭載したシステムボードがダウンしてしまった場合に、待機用のシステムボードに自動的に処理が切り替わる「フレキシブルI/O機構」を搭載している。従来の富士通のサーバの場合、障害回復までの時間を最大で150分としていたが、フレキシブルI/Oを搭載したことで10分の1に当たる15分まで障害回復時間を短縮できるという。

 システムミラー機構、フレキシブルI/O機構は経済産業省と、独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構からの助成を受けて実施している「半導体アプリケーションチッププロジェクト」の成果を採用。山中氏は「DSSAのような二重化同期アーキテクチャを採用したのはこのクラスのサーバでは世界で初めて。メインフレームと同等か、それ以上の信頼性を提供できる」と述べた。

 PRIMEQUESTがターゲットにしているのは大規模データベースシステムや大規模オンライントランザクション、そして分散したサーバのコンソリデーションだ。サーバのコンソリデーションでは、Windows Server 2003とLinux(Red Hat Enterprise Linux AS v4、Novell SUSE LINUX Enterprise Server 9)をサポートするマルチOS対応をアピール。また、32ビットアプリケーションをItanium 2上でソフト的にエミュレーションする「IA-32 Execution Layer」を利用し、32ビットアプリケーションのサポートも可能。幅広いアプリケーションへの対応を強調する。富士通によると、PRIMEQUESTは1000種のWindows、Linuxのアプリケーションを稼働させられるという。山中氏は「IA-32 Execution Layerの性能についてインテルに相当文句を言った。設計のアイデアも出して使い物になるレベルにした」と述べた。

 PRIMEQUESTはプライスパフォーマンスのよさも売りだ。MTLを生かしたハード内のスループット高速化が寄与している。IBMのpシリーズやヒューレット・パッカード(HP)の「Superdome」と比較すると最大2倍のプライスパフォーマンスがあるといい、山中氏は「16CPUのプライスパフォーマンスでは、PRIMEQUESTが負けるシステムはない」と強調した。

 PRIMEQUESTは、最大16CPUまで搭載できる「PRIMEQUEST 440」と最大32CPUの「PRIMEQUEST 480」を用意。価格は440が1CPUの場合で2180万円、480が1CPUで4180万円。それぞれRed Hat搭載マシンを2005年6月末、SUSE搭載マシン、Windows搭載マシンを9月末に出荷する。富士通は3年間に世界で1万台を出荷し、現在7%台という世界シェア(10万ドル以上のサーバ、台数ベース)を15%まで伸ばすことを目指す。全体の60〜70%は海外で販売する見通し。すでにトヨタ自動車が評価版としてLinuxを搭載したPRIMEQUESTを利用しているという。

 富士通がPRIMEQUESTのライバルと位置付けているのは、IBMのメインフレーム、zシリーズとHPのSuperdome。山中氏はPRIMEQUESTの優位点として、プライスパフォーマンスと稼働するアプリケーション数を挙げて、「ここにぶつけていく」と真っ向勝負を宣言した。ただ、サーバのコンソリデーションで有効なアピールポイントになるといえるパーティション機能は、改善の余地があるようだ。IBMは物理的なパーティションを論理的に分割して複数のOSを1台のサーバ上で稼働させられる「LPAR機能」をzシリーズやpシリーズに導入している。

 PRIMEQUESTもパーティション機能は搭載するが、物理的なシステムボードごとにしかパーティションを区切ることができない。1つのパーティションを複数に分割したり、仮想化したうえでダイナミックにパーティションを変更することは現状では無理。ただ、山中氏によると富士通は論理パーティション機能をPRIMEQUESTに搭載する予定で、「2006年、2007年には搭載したい」とした。

 PRIMEQUESTの追加で富士通のサーバのラインアップは、メインフレームのGSシリーズ、UNIXサーバのPRIMEPOWER、IAサーバのPRIMERGYと充実することになる。また、米サン・マイクロシステムズと共同開発している新型サーバ(コード名:Advanced Product Line)もある。基幹系システムをターゲットにするPRIMEQUESTが、GSシリーズやPRIMEPOWERとバッティングして富士通のサーバ戦略が揺らぐことも考えられるが、富士通のサーバ戦略のキーワードは「顧客のアセット(資産)の保護」(山中氏)。顧客が持つプラットフォームやアプリケーション、人材の価値を減じることなく、新たなシステムを導入させていくのが基本戦略だ。そのためには幅広いプラットフォームが重要になるというのが富士通の考え。山中氏は「富士通から顧客にこのシステムにしてくれということはない。非常に優秀なかわいい息子がいるので、どちらを取るのかといわれても困る」と語った。

(@IT 垣内郁栄)

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富士通の発表資料

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